Figen træ(無花果の木)

ももいろ珊瑚

Ficus carica

第1話 プロローグ


 例えば公園


 清潔に整備されごみクズどころか落ち葉一枚さえ落ちていない


 木陰こかげのベンチに座り編み物をする人やタブレットで電子雑誌を読む人がいる


 寄り集まる鳥にふんだんに餌を与える人や犬を散歩させる人や思い思いに身体を動かす人達もいる


 それは至って普通であるが奇妙な情景だ




 或いは百貨店


 物は全ての棚に溢れんばかり並んでいる


 連れ合いを伴い日用品を買い求める老夫婦


 母親に着せるであろうセーターを見繕う中年女性は一人ぶつぶつと呟き続けている


 その声に反応して周りにある小型スピーカーから商品説明が流れ出す


 レジの前に立てば感知機によって計算用コンベアが作動しアナウンスが会計方法を知らせる


 レジ打つ者はいない梱包してくれる者もいない


 配送希望ならサービスカウンターで申し受けるよしがレジ画面に映し出され何もなければ精算後に電子音声が客に礼を述べる


 店内に流れる音楽に歌詞は付いていない


 静かだ


 週末だというのに平日となんら変わる所が無い


 それが異様に感じるのはあるものが見えない光景だから




 何かが抜け落ちている


 この場所だけではなく この世界の至る所その姿が見られない






 それは無邪気に遊ぶだろう幼い子供の姿やバイトし買い物もするだろう十代の若者だ


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