第48話 ラスボスリンチセラピーは案外効く

俺だ~~~~~~~~~!!!!!!!

聞いて!!!!

聞いて聞いて聞いて聞いて~~~~!!!!!

すごい……あのね……すごいことがあったの……。

たのしかったの……。

あかん語彙力が全部溶けた。

ちなみにここは亀裂の底だ。大空洞が崩落した時、一応自分にバフをかけまくったおかげでなんとか落下死は免れたものの、瓦礫の隙間に嵌り込んじゃってほぼ身動きが取れない。

俺が落ちた亀裂の上にでかい岩でも落ちて蓋になったのか、体の上にはそれほど石は落ちてこなくてダメージが少なく済んだんだけれど、この状態で暫く過ごすのはキツそうだ。

足とか潰れてない? めっちゃ痛いんだけれど大丈夫?

まあ大丈夫じゃなくてもええか!


そんなことはさておきだよ。

改めて聞いてくれ。

ついさっき最終決戦があったじゃん?

無事リッカくんをハヤトくんが引きずり出してくれたからさ、俺も協力してリッカくんの体を支えて邪神から遠ざけたじゃん?

あの時なんとですね、リッカくんの体に纏わりついていた邪神の力に直に触れたからか、邪神がため込んでいた記憶? みたいなものが俺にも見えたんですよ。

そう!

リッカくんの! 記憶を!

見ることが出来ました!!

こんなご褒美ある!?

ありがとう邪神!! 愛してる!!

一生その記憶映像配信サービスやってくれないかな……。月額いくら? 100年入会するわ。

つらい目に遭った本人からその時の心情を含めた話を聞くことを至上の喜びとしている俺ではあるが、それとはまた別の臨場感。没入感。

人生の中でも最高峰の、至福の体験だった。

もうね、あのね、優しくて悲しくて素晴らし過ぎて泣いちゃった。

全員ギャン泣きしてたから気付かれなかったけれど、あの時実は一番最初に泣いていたのは俺だ。

一番早く泣き止んだのも俺だ。泣いてると視界が曇って感動の再開シーンをクリアな画質で見れないからな。


ある日突然平凡ながらも幸せだった日々を失い、自分の生きる意味を見失って贖罪の方法を探す系主人公、勿論大好きです……。

幸せな生活が壊れる瞬間ってのは最大級の悲劇だよな……。取り返しのつかない要素があるとなおつらく苦しい。光が眩しいほど闇も濃くなる。つまり最高。

だからこそリッカくんと親友たちの姿は輝いてみえた。

気の利いた会話なんで必要ないんだ。ただただリッカくんと再び会えたことを、彼と言葉を交わし触れあえることを喜ぶハヤトくん、ルイちゃん、レンくん。

そんな純粋な気持ちを伝えられ、その暖かさに触れてやっと泣くことができたリッカくん。

いままでさぞ辛かったことだろう。

優しくて責任感のある、家族を誰より大切に思っているリッカくんだからこそ、手から零れ落ちてしまったものの重さを思い知っていたんだろうな。

取り返しのつかないことが起きたのに、それでも人生は続いてしまう。

それはリッカくんにとって、酷く悲しく、耐えがたいことだろう。

誰かの死を背負って生きるには、彼はまだ若すぎる。


けれど、彼の人生にあるのは悲しみだけじゃない。

だからこそ取り戻せない幸福が心を傷付けるのだろうけれど、彼のそばにはいつだって、彼の幸せを願ってくれる人たちがいるのだ。

妹さんは必ずや、立派なお兄さんの背中を見て、真っ直ぐに育っていくだろう。

お母さんも、今はまだ立ち直れないかもしれないが、きっと二人の子供達を守るために頑張ってくれる。

いやしかしあれだね。再婚して二年も経たないうちに夫による連れ子への虐待発覚&死亡は滅茶苦茶重いな。お母さん大丈夫かな? 話聞こうか?

大丈夫でもそうじゃなくても、俺はどちらでも力いっぱい応援するよ。光る棒とうちわ振るよ。

そして何より、リッカくんを助けるために異世界にだって来て戦ってくれる親友たちが、今後も彼を支えてくれることだろう。


邪神戦楽しかったなー。

無敵状態解除して一旦倒してから第二形態出てくる流れは吹き出すかと思ったけどな。ゲームのラスボス戦かよ。さすが邪神ちゃんは期待を裏切らない。

みんな一生懸命頑張ってさ、輝いてたよ。青春だよあれは。

ハヤトくんが最後、剣で攻撃するんじゃなくて、リッカくんを傷付けないよう神器の形態を変えていたのも、彼の悩みを踏まえるとたいへん熱くて良かったですね。成長したなあ。

ルイちゃんはいつも通りめちゃくちゃ有能だったし、レンくんも最初の頃のヘタレっぷりが嘘のような活躍だった。

立ち位置が一番後ろで助かったよ。絶対時々ニヤけちゃってただろうから。

女神にもアリアにも監視されていないとなると、さすがに開放感で少々演技にボロが出てしまった。俺もまだまだだな。

最後にリッカくんが自分で邪神の支配から抜け出し、親友が伸ばしてくれた手を掴んだところなんて本当に良かった。

あの子の心の強さは賞賛すべきものだ。俺も許されることなら拍手しながらブラボー!! って叫びたかった。


良い戦いだったよ。

世に絶望をもたらす邪神は滅び、友情の絆が打ち勝ったのだ。

今回も素晴らしい人々の活躍が見れて、俺は心身ともに健康になったし寿命も延びた。今死にそうだけど。

まあそんなわけでリッカくんのトラウマを予習していたもんだから、地面に亀裂が入ってツルっといっちゃった時は本当にテンションが上がった。

人生でこんなに楽しく紐無しバンジーをする機会なんて、そうそうないぞ。楽しすぎて俺笑っちゃったもん。

やった~~~~!!!! って思いながら落ちてた。

大丈夫だったかな。リッカくんと目があった時、ちゃんとニコッってできてた?

ニチャッってしてなかった?

なってたらまさしく一生の不覚だわ。

どうでしたかね、俺の最期の笑顔は。感想聞きたいなー。

まんまとリッカくんの目の前で死んで、かつ彼を助けることも出来たので、トラウマストライクの完璧な立ち居振る舞いだったと思うんですが。やっぱりどう考えても今年の助演男優賞は俺だろ。

リッカくん以外の旅の仲間もたくさん悲しんでくれているんだろうな……。

レンくんなんて特に、俺を救えないシチュエーションが二回目ということで、より苦悩しているじゃないだろうか。

邪神退治の旅の中で鬱展開要素が比較的少なかった彼のために、いい思い出が作れたんじゃないかなと思います。しっかり絶望してくれ。そして立ち直ってくれ。

ひとの心を弄ぶよう非道な行いだとは思いますけれど、今回落ちちゃったこと自体は事故なんでね。事故。わざとじゃないから仕方ないよなー!


あ、そうそう。補足しておくと、リッカくんを助けるために使った衝撃波も、俺が邪神の影響を受けたお陰で手に入れたものだ。

あそこで完全に邪神由来の魔力は使い切ってしまったので、おそらくもう俺があの魔法を使えることは無いだろうな。

一緒にリッカくんに触っていたハヤトくんは、全然影響を受けたようには見えなかったんだけれど、なんで俺だけこんなに特典いっぱい貰ったんだろう。道中で度々崇めてたのがバレてたんですかね?

まあ邪神は居るだけで周囲に影響を及ぼす存在らしいから、魔獣とかも無差別に強化されていたわけだし、そういうものの範疇だという解釈もできるけれど。

それにしたって、人間に関してはバリバリのトラウマ持ちの奴だけ力を授かるんじゃなかったんだろうか。

それとも単に、トラウマ持ちほど何かを望む思いが切羽詰っているぶん強いから、その影響で授かってたっていうオチだったりする?

だとしたら、この世で一番趣味に力を入れて取り組んでいる俺が邪神から目を掛けられるのも、まあ不思議ではないのかもしれないけれど。願いの強さだけなら世界トップクラスだという自負があるからな。

あるいは単に相性が良かったとかかね。

いやいやそ~~~んなまさか。

世界を管理する神様から、こいつは邪神ですわって太鼓判を押されるような存在と? この天使のように優しく慈悲深いと大評判の第三王子様が? とっても相性が良いなんてことあります??

なんでだろう……。不思議だね……。全然理由がわかりませんわガハハ。


まあ疑惑の判定は置いておいて。

こうして考え込んでいる間にも、俺の命は風前の灯となっている。

予定では神殿に待機している魔術師さんが回収してくれることになっているので、俺も埋まっていようが何だろうが助けてもらえる手はずなんですが。

なにか想定外のことでも起きて回収に手間取っているのかな?

邪神が消えた瞬間から女神の監視が復活していると考えて、俺ずっと真剣な顔して待機してたんですけれど。

もしかしてまだ時間かかります?

じゃあせっかくの機会だし、このまま死んじゃおっかな!

そのほうがエンディングとして綺麗だと俺は思うぞ。アリ寄りのアリですわ。

真っ暗でよく見えないけれど、自分の周りが結構な閉所だということはわかるんだよ。酸素がなんか薄いし。

俺が回収されるのと酸欠で死ぬの、どっちが早いかなあ。わくわくしてきちゃった。

今のうちに適当な岩に石で何か書いておこうかな。今までありがとうございました的なやつ。

落下した後も、しばらくの間ここで生きていたんだな……。って思わせて曇らせる演出をやりてえんだ。

掘り起こして回収される可能性は低いから、意味はないかもしれないけれどね。

でもひょっとしてさ、千里眼とか過去視とかそういう魔法が使えて、今の俺のことを見ている人間だって、いるかもしれないだろ?

俺はあらゆる可能性を考慮し、自分にできる精一杯の努力をして他人の心をズタズタにしたい。

いつだってそういう心構えで生きている。


というわけで神妙な顔をしてそのへんの小石を拾い、大きめの岩にいい感じの遺言を書き込もうとしたその時、突如として再び地鳴りが響いた。

振動と共に、真っ暗だった地底にうっすらと明りが差し込んでくる。

俺の右手側の地面が割れ、そこから日差しが差し込み、新鮮な空気が供給されはじめた。

俺が落ちてきたときの崩落とは別に大地に深く大きな裂け目が生まれ、酸欠になる危険が低下した俺の命は、なんか知らんが延命されたようである。

めちゃくちゃ不自然に不思議パワーで生かされてません??

えっ俺結構死ぬ気満々だったんですけど??

はぁ~~~~、なるほど。

悪い予感がしてきましたねえ!

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