第40話 勇敢な少年のとある決意・中

勇人たちが立夏とはじめて会話をしたのは、小学生四年生の夏、上野の国立科学博物館へ行った時だ。

いまだって勇人はそれはもう馬鹿な男子高校生だが、当時はなにせ小学生なので、更に馬鹿で落ち着きがなかった。

一緒に居た錬が兄貴分として勇人を監督し、琉唯が手を繋いでくれて、それでやっと大人しく館内を見て回れるという体たらく。

そんな彼でも、大きくて派手な展示品は心惹かれるものがある。

そばにある説明もろくに読んでいなかったけれど、大きな首長竜の化石を見上げて、小学生の勇人たちはそろって口をぽかんと開けていた。

でっかくてカッコイイな、と小学生男子のお手本のような感想を胸に抱きながらふと横を見れば、そこに自分たちと同じくらいの年頃の子供が、同じようにぽかんと口を開けて立っていた。

それが立夏だ。


立夏はその年の一学期の終わりに転校してきたばかりで、すぐに夏休みに入ってしまったから、いつも三人で遊んでいた勇人たちは立夏とクラスで話をしたことが無かった。

遠くから引っ越してきて知らない学校に来たわりに、立夏は随分落ち着いて、大人びて見えたから、最初に彼を見た時勇人は仲良くなれる気がしなかった。自他共に認める馬鹿だったから、賢い子供とは大抵そりが合わないのだ。

けれど大きな首長竜を見てテンションが上がっていた勇人は、自分が立夏をどんなふうに思っていたかも忘れて、ぱっと目を輝かせて口を開いた。


「立夏だろお前!」

「へ?」


立夏は急に声をかけられて困惑し、横に居た三人組をまじまじと見つめた。それはそうだろう。転校生の立夏の顔を三人は覚えていたが、立夏のほうはクラス全員の顔なんて覚えていなくても不思議じゃない。

けれど、立夏はあっと声を上げ、それからへにゃりと笑顔を浮かべた。


「同じクラスの人?」

「そう! オレ勇人!」

「あっ、私琉唯!」

「俺は錬!」

「ふふ。僕は立夏」

「知ってるー!」

「立夏ひとりで来たの?」

「うん。母さんが忙しいから」

「へー、自立してんねぇ」

「そうなんだよ僕実は65歳なんだ」

「おじいちゃんじゃん」

「立夏おじいちゃん今日はシニア割引で入館したの?」

「そりゃもうシニアだからタダで入ったよ」

「マジかよ俺達も実は小学生だからタダで入ったんだよ」


何を誰が言ったのかもどうでもいいような、中身のない会話をした覚えがある。

夏休みに入る前から友達だったんじゃないかという気すらしてくるほど、四人はすぐに馴染んだ。

立夏は首長竜を指さして、三人に、ねえ、と訊ねた。


「これ好きなの?」

「ん? でっかいからかっけーなって思ったよ。こいつのことなんも知らないけど」


心のままに感想を喋る勇人に、立夏は嬉しそうに笑う。


「僕も格好良いから好きなんだ。フタバスズキリュウって言うんだよ」

「へー」

「三人はドラえもんの恐竜の映画見たことある?」

「あっ、私好き! 錬の家でみんなで見たよ」

「そうなんだ。あれに出てくるのがこの恐竜」

「えっ。そっか、そういやそんな名前だった気がする」

「立夏詳しいんだなあ」


揃ってぽかんと感心する三人に、立夏は色々な話をしてくれた。

一緒に館内を見て回るうち、立夏がびっくりするくらい賢くて、そのくせそれが全然嫌味に感じない良い奴なんだと分かって、三人はすぐに彼を好きになった。

それに立夏も、なんにでも感心する素直で楽しい三人を好きになったのだ。

それから四人はどこでも一緒に行くようになったし、いろんな話をしたし、時々喧嘩をしては大泣きしながら仲直りをした。

立夏は賢いわりにノリが良くて、よく勇人と一緒になって馬鹿なことをしては琉唯に怒られた。

勇人が無神経すぎて琉唯と口喧嘩を始めると、錬と立夏がそれぞれを宥めて仲裁し、テストのたびに全員立夏に縋りついて勉強を教えてもらった。

皆立夏を尊敬していたし、頼りにしている。

立夏も勇人の思い切りの良さと、錬の優しさと、琉唯の格好良さを尊敬している。

そんななんでも話せる親友四人の間に少しだけ距離が出来たのは、高校に入学した頃のことだ。


だんだんと、立夏を遊びに誘っても、家の手伝いだとか勉強を理由に断られることが増えたのだ。

立夏は当時、シングルマザーだった母親が再婚したばかりで、しかも妹も産まれて、共働きの両親を助けるためになんだかんだと忙しくしていた。

当然三人は手伝いを申し出た。

単純に友達を助けたかったし、それに立夏は三人よりもずっと頭が良かったから、大学は同じ所へは行けないだろうなと、一緒の学校で過ごせるのは高校までだと、全員が漠然と感じ取っていたから。

立夏はそれに笑顔でお礼を言って、時々は三人に家事の手伝いを頼むようになった。


錬と琉唯がそれぞれ用事があって、勇人ひとりが立夏の手伝いをしていた、あの日。

二人並んで狭いアパートのキッチンで夕飯の支度をしている最中、勇人はうっかり手を滑らせて、水を汲んだ鍋をひっくり返してしまったのだ。

それを被った立夏が笑いながら勇人の足を軽く蹴ってお返しをし、着替えてくると言って部屋に戻ろうとしたとき、立夏はふざけて彼のシャツを後ろからめくりあげた。

そこに、無数の痣があった。

普通に生活する中で、壁にも床にもそうそうぶつけそうにない背中に、10cmより一回り大きいくらいの楕円形の痣がある。

紫色のものも、治りかけの茶色っぽいものもあって、それが時間をかけて何度もつけられたのだということはすぐに分かった。

殴られてできた痣だ。

勇人は直感でそう理解してしまった。


「りっ、」

「言わないでくれ」


立夏は静かな目をしていた。


「二人には、言わないでくれ」

「でも」

「心配させるから。大丈夫。なんてことない。見た目より全然痛くないんだ」

「何言ってんだよ、それ、誰に付けられたんだ。オレがぶん殴りに行ってやる」

「いいんだ」

「よくないだろ!」


涙目になって大声を出す勇人の頭を、困り顔をした立夏が撫でた。

妹が出来てから、立夏は時々そうやって、勇人や琉唯に兄のようにふるまう時がある。

お兄ちゃんでいることに慣れたからだ。


「母さんがいるときは殴られないから」

「……それ、は」


つまり彼が大切に思っている母親の、再婚相手が。

可愛がっている妹の、父親が。

そう理解して、勇人は愕然とした。

眼を見開いて固まってしまった勇人を、勇人より少しだけ背の高い立夏が見おろす。

優しい友人の心配が嬉しくて、それと同時に申し訳なくて、立夏は静かに笑った。


「母さんはこのことを知らないんだ。あいつは母さんと妹には優しいから」

「……」

「結婚して、僕みたいなでかい息子が出来て、娘も出来て、急な環境の変化に戸惑ってるのかもしれない」

「だからって、お前のこと殴っていいわけないだろ」

「うん。そうだな。だからどうすればいいのか考えてるんだ」

「……それは、えっと」

「ストレスの解決手段に暴力を選ぶ人間の矛先が自然に収まるのか、刺激するともっとエスカレートするか、わからないし。できるだけ母さんを悲しませない方法で解決したいんだけれど、まだ思いつかないから」

「オレらはそれ、手伝えねえの」

「家事手伝ってくれてるし、いつも一緒に居てくれるだろ。助かってるよ」

「でも、オレ、お前の代わりに殴られてやれないし、お前にそんなことするやつ殴ってもやれねえよ」

「ありがとう。大丈夫だ。家族の問題だから。家族で解決するよ」

「……オレ、なんにもできねえの?」

「そんなことない。でも、どうしても駄目だって思ったら、まずは警察とか、相談窓口とか、そういうところに行く。皆を巻き込みたくないんだ」


立夏はいつだって冷静だ。

優しいけれど、誤魔化すようなことは言わない。

だから勇人はその時、立夏は本当に自分達をこの話に関わらせる気がないのだと理解した。

立夏も、勇人たちも、まだ子供だ。

酷い問題を解決するために大人を頼るというのは、当然の判断なのだ。

立夏は勇人や錬や琉唯が頼りないから黙っていたわけじゃない。

そうわかっていても割り切れなくて、けれど立夏がどうにか一番いい解決策を見つけようと耐えているのに、自分なんかが関わったところで助けになれるんだろうかとも思ってしまった。

だって立夏はいつだってみんなの中で一番賢くて、大人だったから。

だから結局、勇人はわかったと言って、引き下がった。

安心してほっと溜息をつく立夏の姿に、胸に苦いものがこみ上げるような気持ちになりながら、それでも彼の意志を尊重しようとした。

立夏の父親が死んだと聞いたのは、そのほんの数日後のことだ。


勇人はその時の詳しい話を立夏から直接聞いたわけではない。

けれどこういうことは、どうしたって噂が立ってしまう。

その日、酒に酔って帰宅した立夏の父親は、あろうことかまだ赤ん坊の娘をベランダから投げ捨てようとした、らしい。

それを止めようとした立夏と取っ組み合いをするうち、ぶつかった弾みにベランダの手すりが外れたのだという。

落ちた三人のうち、立夏と妹は助かった。

二人の下敷きになった父親は、助からなかった。

酔っぱらった父親とそれを止めようとする立夏の言い合いを聞いていた近隣住民の証言で、事故死ということで事件はかたがついた。

けれどそれで何もかもがめでたしめでたしで終わるはずがない。


立夏の母親は愛する夫の死と、彼が自分の息子を虐待していたことを知って寝込み、どうにか葬式だけは出した後、体調を崩して入院してしまった。

立夏と妹はいま、勇人の家で過ごしている。

立夏の親戚は遠方にしかいなかったし、勇人の両親と祖父母は勇人の友人は全員自分の子供や孫のように思っているから、放っておけないと言って、彼の母親の体調が戻るまでうちで過ごすよう言ってくれたのだ。

立夏はほっとしたと言って表面上は静かに過ごしているけれど、あれからずっと顔色が悪いのを、勇人は勿論錬も琉唯も分かっている。

ずっと一緒に過ごしてきたんだ。

立夏がひどく自分を責めていることくらい、三人にはわかった。


立夏は何も悪くない。

何も悪くないのに、どうしてあんなに、散々な目に遭うんだろう。

どうしたらオレは、立夏を助けられるんだろう。

あの時、オレが食い下がって、なんでもいいから手伝わせろと言っていたら、何か変わったんだろうか。

何か気の利いた言葉をかけてやれれば、少しは立夏の顔色もマシになるんだろうか。

もっと頼って貰えるんだろうか。

あれから勇人はずっと、そんなことを考えていた。

けれど、あの日立夏が酷く不吉な黒い影に攫われて、それを追って異世界に飛び込んでから。

勇人は自分が訓練とはいえ、人間相手に平気で切りかかれるのだと知ってしまった。

狂暴な魔獣だからと何も感じず殺せることを知ってしまった。

ひょっとして、自分は、立夏を苦しめた男と同じように、人に暴力をふるえる人間なんじゃないかと。

そう思うようになってしまった。


勇人はいまほど自分が馬鹿だということをありがたく思ったことは無い。

四六時中悩めるほど賢くないおかげで、普段は気にせず過ごしていられるのだ。

けれど、自分自身に対する疑心と不安は、少しずつ胸の中で大きくなっている。

これ以上はもう、平気なふりはできないかもしれない。

特に琉唯は勘が鋭いから、勇人の様子がいつもと違うと感じたなら、遠慮なしになにかあったのかと聞いてくる。

そうなったら、オレはどうすればいいんだろう。

誤魔化せるのか、いや、誤魔化して許されるのか。

みんなで立夏を迎えに行ったとき、どんな顔をしてあいつの前に立つんだ。

オレはあいつを苦しめたやつと、同じようなクズかもしれないのに。



ぐらぐらと頭の中を疑念でいっぱいにしながら、勇人は土を踏み固めただけの小道を歩いた。

いくら人が多いと言ったって、そう広い町ではない。

どの家も壁は薄いし、窓やドアは布か、せいぜい薄っぺらいの木の板のようなものだ。

どんどん捜索に参加する人間は増えているし、住民はこんな環境での生活にすっかり慣れているから、遠慮なしに人の家を覗いて回っている。

それなのに、どうしてこんなに見つからないんだろう。

単純に考えて、まだ探しに行っていない場所にいるからなのだろうけれど、焦燥感がじりじりと胸を焼いた。

余裕がなくなると駄目なんだ。

頭の中が悩み事で占領されてしまう。

どんどん紙のような顔色になる勇人を見かねて、ミラベルは彼の肩を叩いた。


「ねえちょっと、大丈夫? ひっどい顔色よ」

「え、あ……、大丈夫だよ。それよりライアを」

「あんたちょっと深呼吸しなさい。あの子なら少なくとも死にゃしないわよ。見た目と違って図太いから」

「でも」

「いいから」


言い聞かせるようなミラベルの言葉に、勇人は大きく息を吸った。

そのつもりだったのだが、予想外に呼吸が浅くて、驚いて立ち止まる。

改めてもう一度ゆっくり息を吸い、吐いて、深く呼吸が出来るようになった頃合いに、ミラベルは勇人の背中をさすった。


「なに? 悩み事でもあるの? おねーさん聞いてあげるから言いなさいよ。時間無いからさっさとね」


さらりとそう言われて、勇人はぐっと言葉に詰まった。

そんな簡単に相談できるなら、こんなに長々悩んだりするもんか。

いや、けれど、チャンスなのかもしれない。

ほんの短い付き合いだけれど、スパイだという彼女なら、自分の悩みをあっさりと受け止めて、あるいは見ないふりをして、適当に欲しい言葉をくれるのかもしれない。

すぐにすれ違っていくだけの付き合いだろうと分かっているからこその気軽さが、いまの勇人にとっては魅力的に見えた。

だから、ぎゅっと唇を噛んだ後、彼は視線をふらりと泳がせて、言葉を選んだ。


「……敵をさ、切るときに」

「うん」

「何も感じなかったんだ。怖いとかやりたくないとかそういうの」

「あら、そうなの」

「そんなの変だろ。オレってどっかおかしいんじゃないかって思って」

「どうして?」

「……え、だって」


だって暴力なんてふるっちゃいけない。

当然だろう。

勇人は迷子のような困り顔をしてミラベルを見る。

けれど小首を傾げて彼を見る彼女の表情には、何を言ってるんだかよくわからない、というあっさりした無関心があった。


「だって、駄目じゃん。生き物を殺しちゃいけないんだ。ひとを、怪我させちゃいけないんだよ」

「まあそりゃそうだけれど」

「オレ、ひとに怪我させて平気なやつなのかもしれない。最低だろそんなの」

「はあ」


ため息のような声を出して、ミラベルが目を見開き、ぱちぱちと瞬きをした。

それがどういう感情からくる動きなのか分からず、勇人はびくりと肩を震わせる。

そんな様子にミラベルは長い溜息を吐き、勇人を突然ぎゅうっと抱きしめた。


「や~~~~~だもう若いわねえ! なにかしらこの子。ほんと良い子だわ。あーびっくりしちゃった。健全にも程があるじゃない何食べて育ったらこんなピュアな子になるのかしらも~~~~~」

「なん、えっ、まって!」


あーかわいいかわいい、と、ミラベルにぐりぐり頭を撫でられて、勇人は慌ててミラベルの肩を押し返す。

けらけら笑いながら離れたミラベルは不意に、唇の端を小さく上げて、目をほんの少しだけ細めた。


「馬鹿な子」


妖艶な、と言って良いその笑みに、勇人は縫い付けられたようにぎくりと動きを止める。

そうして次の瞬間にはまたミラベルは、ぱっと周囲が明るくなるような笑顔を浮かべるのだ。


「はー面白かった。気にすることないわよそんなもん」

「だって、オレは本当に悩んで」

「本当に人をぶん殴るのに抵抗がない奴ってのはね、そういうんじゃないのよ。すぐにわかるわ」


そう言って背中を見せ、さっさと歩き始めてしまったミラベルに、勇人はどう声をかければいいのかわからず、口をつぐんで後を追う。

わかるって、なにが。

そう訊ねようかと思った瞬間、パシリと何かを打つような軽い音とともに、明るい光が空へ打ち上げられた。

琉唯の矢だ。

慌てて矢の見えた方向へ走れば、琉唯と錬が、門番と一緒になって狭い小屋の住人と話をしていた。


「琉唯! なんかあったの」

「勇人、あのね、この人が前に、夜中に土を運び出してる人を見かけたんだって」

「それでさあ、これだけ探して見つからないってことは、地下室かなんか作ってる家があるんじゃないかって」


二人の言葉に、門番の男と町民も頷く。


「おう、こいつは俺の同郷だ。嘘をつくような奴じゃない」

「はあ、まあ、そういうわけだけれど、でもどこに住んでる奴かまでは知らねえぜ。あいつなんて言ったかな。顔にも手にも傷がたくさんあってさ、なんかしまりのねえツラした若造。俺話しかけたことねえんだ」


それを聞いて、ミラベルがぴくりと片眉を上げた。


「あたし知ってるわよ。危なそうなやつだから気を付けてたもの」

「えっ、ミラベルさん、どこ住んでるのかわかるの?」

「こっちよ、三人ともついてらっしゃい。そっちの二人は一応町のほうにも話を聞きに行ってくれると助かるわ」


そう言って門番たちから離れ、急いで歩き出したミラベルの後を、三人は慌てて追いかける。

向かった先にあったのは、扉が閉め切られて中から明かりも見えないようなあばら屋がぽつぽつと建つ、一番寂れたしめっぽい窪地。

湿気を嫌がってほとんどの住人は避けている人気のない場所に、その小屋はあった。

はたから見ると、町にある他の建物とたいした差は無い。

おそらく、見張りは居ない。ミラベルはそう判断した。

無言で三人に掌を向けてその場に待機させ、ミラベルは一人で扉に上から下まで視線を走らせ、何も仕掛けが無いことを確認して開く。

床は一見して雑に木の板が張られているだけに見えるが、よく観察すると板の間に土や枯草が塗り込まれ、隙間を埋めている。

しかし完璧に偽装するだけの技術が無かったのか、ほんの僅かに土がはげ落ち、地下から薄っすらと灯りが漏れている箇所があった。

そして、そこから二人分の声が聞こえてくる。濁っているが、片方は確かに王子のものだ。

入口らしき切れ目もすぐに見つかったが、下に居る誘拐犯に気付かれずに、しかも急いで開けるのは至難の業だ。

ミラベルが一旦家の外に出ると、三人組は既に神器を手にしていた


「ミラベルさん。行けそう?」


勇人が地下の犯人に聞こえないよう、小さな声をだす。


「行ける。けれど突入した瞬間相手のほうが素早く動いたら、人質を盾にされる可能性があるわ」

「ならさ、オレが入口壊してそのまま犯人倒すよ。一番速いから。錬と琉唯は回復スキルがちょっとはあるから、ライアが怪我してたらそのまま助けに入る。三人でさっき相談したんだ」

「ちょっと……、いえ、そうね、いいわ。でも切るのはよして。事情聴取はしないとまずいわ。単独犯とは限らないもの」

「……ん、わかった」


犯人を倒す、と言った勇人の表情は、先程までの思い悩む少年のそれではなかった。

鳥の魔獣の首を切り飛ばしたときの、鋭い視線になっている。

四人は頷き合い、可能な限り足音を殺して、小屋の中へ侵入した。

そして勇人がミラベルの指し示した、一番脆い入口のそばへ立つ。

剣を振り上げ、ふ、と息をはきながら振り下ろす。

女神の加護を受けた少年は、それだけの動作で木の板と土で出来た入口をあっけなく吹き飛ばした。

それと同時にすぐさま地下へ飛び降りる。


頼りないランプの明りに照らされた地下室には、血の匂いが充満していた。

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