第38話 悪党排出ガチャ確定演出

ばしゃん、と頭から水をかけられた拍子に、意識が覚醒した。

ここはどこだろう。

首から下はほとんど動かない。

俺はまだはっきりと覚醒しない、ぽたぽた水の滴る頭を、ぼんやり動かした。

おそらく視力に影響は出ていないと思うが、周囲はそばのテーブルに置かれたランプの明りひとつで照らされているようで、薄暗くて視界が悪い。

下を向けば、自分はどうやら椅子にきっちりと縛り付けられているのだとわかった。それを抜きにしても、力を入れ辛くて体の感覚がおぼつかない。

服は着ているが、皮鎧は脱がされている。

頭痛のような、寝不足の時の気持ち悪さのような、なんとも言えない不快感があった。

誰かに毒矢か何かで眠らされた後、攫われたらしい、ということは理解できるが、自分がどこにいるのかはさっぱりだ。

そして俺の横には、バケツを持った男が立っていた。


さてどうしたものか。

女神の神器は呼び出しさえすれば出てきそうな気配があるが、体の自由の効かない状況ではうまく掴むことも難しいだろう。

それに具合が悪くて魔法を使えるほどの集中力を発揮できる自信がない。

というか使えたところで、俺が自分に筋力強化や回復魔法をかけることを、目の前の相手が呑気に見守っているなんてことは無いだろう。

暗闇の中で一言も発さずにいた男がひどく緩慢な動作で歩き、バケツを置いて、俺の真正面に置かれた椅子に座る。

これまで俺が室内を確認するのを放っていた彼は、近くで見てみると、どうやら若い男らしかった。

ひどくやせ細り、干からびた枯れ木のような印象の男だ。

顔や手など、肌の見える場所には、いくつも古傷があるのがわかる。なんとなくだが、おそらく見えていない服の下のほうが酷いのだろうと感じた。

目元はぼさぼさの灰色の髪で隠れていたが、それでもその奥の瞳が古びたランプのたよりない灯りを反射して、きらきらと不気味に輝く様子がよく見える。


「やあ」


口元に柔らかな笑みを浮かべ、男は友好的と言ってもいいくらいに穏やかな声を出した。掠れた、話し慣れていなさそうな細い声だ。

俺は返事をしない。この男がどんな反応をするのか、まだ様子を見たかった。

男は俺の態度は気にしていないのか、嬉しそうに勝手に話し始めた。


「よかった、すぐに起きてくれて。早いもんだなァ。王族ってのはやっぱり毒にも耐性があるのかな。最初くらいはこうしてちゃんと話したかったからさ。助かるよ。ありがとう。きみはライア・エル・ファルシールだろう。いいよ、挨拶をしてくれなくても。自己紹介をしてくれるなんて期待してたわけじゃない。誰の紹介も受けずに勝手に偉い人に会うと、仲良くしてもらえないんだ。知ってる。悪いことしたって思ってるよ。ごめんな……。かわりに俺が自己紹介するよ。挨拶はちゃんとしろって躾けられてんだ。俺の名前はローチ。ローチって呼ばれてる。バッタだな。俺の母さんが臨月の時にさ、用事があって出かけたんだ。そしたら偶然ルチグァに出くわしちまって。母さんは食われて死んじまったけれど俺は腹ん中に居たから助かったんだよ。運が良いよな。顔はちょっと食われちまったんだけど、それくらいで文句言っちゃいけないよな。そこを通りがかった人が拾ってくれて、ほんとに運が良いんだ。まあ取り上げかたが下手くそだったから出ベソになっちまったんだけど。そういうわけで俺、拾われた先で育ててもらって、仕事も教えてもらって、……覚えてるかなぁ。きみ、なんだっけ、王子様を一人塔にぶち込んだんだろ。あの王子様と取引してた奴隷商だよ。そいつに拾われたんだ、俺」


なるほど。

掠れた声のクソ長いほぼほぼ独り言のようなセリフだったが、案外聞き取りやすくてちゃんと頭に入ってきた。

にこにこしている男は相槌を打ってほしそうにしているので、俺は慎重に声を作る。相手を気遣っているような、優しい声だ。


「……それで、今日は一体どうしたんだい。僕になにか用があるんだろう?」


喋ってみると、思ったよりもかさついて潰れたような声が出た。舌と喉にまだ違和感があるから、毒か何かの影響が残っているのだろう。そう意識してみると、深く呼吸しづらいことにも気付いた。

大声を出して人を呼ぶのは難しそうだ。ここがそもそも声を上げて気付いてもらえるような場所なのかもまだわからない。

俺の言葉に、ローチはぱっと笑顔を浮かべた。まるで子供のような無邪気さだ。テンションが完全に狂人なので実に不釣り合いで不気味である。


「ああ、そう、用事があったんだよ。俺、それで、拾われた先で仕事を教えてもらってさ。うるさい奴を大人しくさせたり、客の要望に合わせて商品の形を整えたりするんだ。楽しかったよ。上手いってよく褒められた。天職だったんだ。けどまあ、あの王子様が捕まっちまってからは駄目だったよ。俺みたいな下っ端は逃げ切れたけど、社長は取っ捕まった。お偉いさんたちもな。警察ってたまには仕事するもんなんだなァ。俺がガキの頃に酔っ払いに散々ぶん殴られて顔が一回りデカくなっちまった時は無視されたもんだけど。そんときゃ上司が出てってその酔っ払いが二度と酒飲めねぇようにしてくれたんだけど……。ああ駄目だ。俺いっつも話が長いって言われんだ……。それでさ、仕事が無くなっちまったから、どうしようかと思って。暫くそのへんぶらぶらしてたんだけれど、なんでかな。なんか会いたくなったんだよ。すごく優しくて善良で天使みたいな王子様だって聞いてたからさ。そんな人がいるんならいっぺん見てみるのも良いなって。まあ社長たちは地獄に落ちてハラワタ引きずり出されちまえって言ってたけど。でも俺は多分、ほんとに天使みたいな王子様なんだろうなって思ってたんだよ。会えて嬉しいなあ……。ア、用事、そうだ。いや、べつに用事ってほどじゃない。でもきみ俺の周りの奴らにはずっと死んでくれ死んでくれって言われてたから……。知り合いも大体捕まってくたばっちまったから、まあ、なんて言うんだ? そうだ、お供え物。お供え物だよ。きみをそういうのにするんだ」


そう言ってローチは、へへ、と人の良さそうな笑顔を浮かべた。どこにでもいる青年のような笑顔は、この状況と彼の傷だらけの容姿とかけ合わされると、凶相としか表現しようがないものになる。

とっ散らかった説明だったがおおよそのことは理解した。

こちらのローチ氏は俺がルグナー殿下と楽しく遊んだ余波で潰れた人身売買組織の、人体をアレソレする部門の人間であり、失業したためやることもなく、なんかこうノリで俺をアレしに来たと。そしてお供え物にすると。

つまりめちゃくちゃ大ピンチというわけだ。

ははーんなるほどね。

完全に理解した。

誘拐監禁拷問イベントだ~~~~~~!!!!!!!


はーもう最高。王道。やっててよかった奴隷ネタ。

ありがてえな……。やっぱり神様ってのは居るんだ。人の頑張りをきちんと見ていてくれるものなんだよ。

いやあ、まさか邪神退治ストーリー展開中にこんな事が起きるとは思わなかったが、ある意味順当かもしれない。

なにせ普段はゴリゴリに警備の厳しい王宮で過ごしている身だ。

こういった危険にさらされるのなんて、本来はそれこそクーデターや戦争でも起きなければまずありえない。

それが偶然、こんな警備の少ない無防備な状況になったのだ。今を逃しては起きようのないイベントだった可能性がある。


しかし大変なことになったぞ……。

俺は皆の希望を背負って、いたいけな学生さん達と一緒に邪神退治に出かけたんだよ? 見送る皆は引き留めたいのを我慢して、心の中では泣いていたんですよ?

きっと生きて帰ってきてくれる……。大丈夫、あの子を、あの子達を信じて……。

そう思っている皆さんの耳に、俺が退治と関係ない私怨でズタボロのグッチョグッチョに拷問されて死んでしまった報告が届くんですか……?

最高じゃん……。俺をこんなに喜ばせてどうしようってんだ。アッ拷問でしたっけ! へへ! すみませんねお気遣いいただいて!

興奮しすぎてちょっと目尻に涙が滲んできたが、ここでボロを出すわけにはいかない。女神に監視されていないとは言い切れないし、ローチが捕まった時に、王子様はなんか楽しそうでしたなどと証言されては困るからな。

義理としてちょっと情報収集くらいはしておくか。


「そう、だったのですね。しかし驚きました。あんなにタイミングよく捕まえられてしまうなんて」


落ち着いた声を出したものの、語尾だけが少し震えてしまう。努めて冷静に振舞おうとしてはいるが怯えが滲む王子様ムーブだ。延々演技をし続けて生きているもんで、つい息をするようにスッと演出を入れてしまう。

ローチは会話をするのが楽しいのか、片手をふらふらと揺らして椅子に凭れかかっている。


「ああ、本当にタイミングが良かったんだ。知ってるかな。俺の住んでたとこじゃあさ、願いを叶えてくれる優しい神様がいるんだよ。なんでも叶えてくれるんだ。どうしてもどうしても許せない憎い奴を殺して欲しいとか、死んだ奴に何がどうなってもいいから会いたいとか、とにかくこの世が憎くて辛くて悲しくて仕方がねえから何にもないところに行きたいとか、そういうの全部叶えてくれるんだ。俺も会ったよ。何日前だったかな……。そのへんの山ブラブラしてブドウとか摘んでたんだけれど、そん時だ。急に目の前にガキが出てきてぶっ倒れてさ。かと思ったらふらふら立ち上がって、こっちに歩いて来て、そんとき俺はすぐわかった。ああこれが神様なんだって。すごくきれいだった。びっくりしたよ。良いことってあるもんなんだ、天の恵みっていうやつがさ。だから俺もお願いしたんだよ。どうかライア・エル・ファルシールと二人っきりになれるチャンスを下さいって。俺はこれでも謙虚なんだ。それに夢ってのはちゃんと努力して叶えなきゃいけないんだって知ってる。だからチャンスさえ貰えればそれでよかった。折角の機会を活かせるかどうかは自分次第なんだ。いつだったか俺の兄貴分もそう言ってたよ。兄貴は上司を仕事中に後ろから刺して手柄全部自分のものにしたんだ。その次の年にゃ部下に同じ事されてくたばってたけど。ああごめんな。また話がズレちまった。それで、お願いをしてさ。這いつくばって頭下げて、それで家に帰ったんだ。いいことあったなあって、あの日はよく眠れた。そうして今日だ。本当に会えたんだ。神様が天使様を連れてきてくれた。嬉しいよ……」


ローチは胸の前で手を組み、ほう、とため息をついた。まるで敬虔な信徒のようにも見える、穏やかな姿だ。

一回一回の話が長いんだよなあ。

しかしこういうタイプの人間の話を遮ると、どういう反応が返ってくるかわからないので、律儀に全部聞くしかない。まあいいけどな。狂人の一人語りは嫌いじゃない分野だよ。

けれど、そうか。これは実際邪神様のお導きだったということか。

どうりであんな不運のピタゴラスイッチみたいに、立て続けにハプニングが起きたわけだ。

邪神が一部地域では崇拝されているってのも納得だな。対価はどうであれ、現世利益のかたまりのような存在なんだから。

彼はそれを知っていて、うまく利用できたと。

彼が邪神に会ったのは、時期的に考えて、リッカくんが転移魔法を使って移動した直後だろう。

おそらくリッカくん自身は、ローチに会ったことに気付いていない。気付いていたならもっと急いで山の奥地まで行っていたはずだが、邪神の移動の反応は数日前の転移以来、この辺りをぐるりと回って、少しずつ人里から離れて行っているという緩やかなものだ。


「ア、ごめんな、俺話が長くって……。でも大丈夫だ。仕事は早いっていつも言って貰ってる。特技なんだよ。だいたいこればっかりやって生きてきたからさ。職人ってやつだよ。まあ連れてくるのはあんまりうまくやれなかった……。いつもなら別の奴がする仕事だから、慣れてないんだ。仕方ないよ。人には向き不向きってもんがある。もっと静かで広くて誰にも見つからないような良い場所があればよかったんだけれど、結局俺んちでやることになっちまった。地下を作ってて本当に良かったな」


そう言いながらローチは椅子から立ち上がり、部屋の隅へ移動した。

雑に積まれた毛布や木箱の下から、どうやら彼は仕事道具を取り出そうとしているらしい。

しばらくガサガサやったあと、ローチはがちゃりと音を立てて何かを持ち上げた。

その手に掴まれているのは……?

工具箱だ~~~~!!!!

人間を徹底的に痛めつけて破壊するという意志が滲み出る選択……!

輝かんばかりの害意に溢れている……!

なんて余罪の多そうな男なんだ……。こんなにも経歴について根掘り葉掘り聞きたいと思ったのはギルベルトさん以来かもしれない……!

もう完璧だよ。表彰したい。なんなら賞金も渡したい。

お前の行いについて子々孫々語り継いでいきたくて仕方ないよ俺は。名誉国民になってくれ。

しかしそういうわけにもいかないから、後で捕まって苛烈な取り調べを受けたのち死罪になるんだろうな。すまんね。俺が無力なばっかりに。


俺の前に、雑な造りだが頑丈そうなテーブルが置かれ、その端にがしゃりと工具箱が置かれる。

まず取り出されたのはハンマーだ。

えっ? こんな健気で可愛らしい高貴な子供を、そんな武骨な器具を使って拷問するんですか? わかってるじゃん。

椅子の後ろに縛り付けられていた俺の手が片方だけ解かれたが、震えていてうまく動かない。

意識は比較的明瞭だし喋れるものの、目が覚めた時と比べて薬が抜けてきたようには感じられないな。どうも薬の効果が一定以下にならないよう、調節して投与されているふしがある。

ローチは俺の片手を恭しくテーブルの上に乗せ、手首を上から握って固定した。

そしてふらりとハンマーを振り上げる。

鈍い音とともに、俺の指先にハンマーが打ち下ろされた。


「ッ、あ、が」


生まれて初めて聞くような鈍い悲鳴が自分の口から飛び出した。

薬の影響で喉も横隔膜もなにもかもの動きが鈍い。悲鳴すら潰れたようになって、大声は出なかった。なるほどそのための薬なのか。話せはするが、叫べはしないのだ。

二度、三度とそれが続き、小指から順に爪が割れて指先が潰れ、溢れた血がテーブルの上を濡らした。

痛みに耐えかねて涙を流す俺の顔を、ローチが心配そうにのぞき込んでくる。


「ごめんなぁ。きみ友達が一緒に町に来てたろ? きっと探してるよな。だからさ、見つかる前に終わらせようと思って。雑になっちまってる自覚はあるんだよ。いつもは爪と肉の間に針刺して、ちょっとずつ剥がして、それからこうするんだ。折角王子様相手にやるんだから、ほんとはもっと礼儀正しく丁寧にやりたいんだけれど……。それにしてもめずらしいね。まだ子供なのに。命乞いもしねえんだ」


異常者は俺の頭を優しく壊れ物でも扱うような手つきで撫でて、不思議そうに首を傾げた。

こういう場面で言ってみたいセリフがあったんだよな。

俺は相手の顔をぼろぼろ涙をこぼしながらも毅然とした表情で見つめ、ちいさく首を横に振る。


「命乞いをする必要など、ありません」

「ふうん。なんで?」

「仲間が助けに来てくれると、信じているからです……!」


痛みに耐えつつも瞳に希望を宿し、天使のような第三王子様こと俺はそう言い放った。

ローチはそれに、ぱちぱちと目を瞬かせて驚いている。

たのし~~~~!

このへんのやり取りはぜひお前の口から、後程取調官にでも伝えてくれ。

さて指も潰れたことだし少しは真面目にやるか。

相手の発言から考えて、ここは町中にあるローチの家なんだろう。多分危ないから近づくなって言われていた北西地域かな。

俺が居なくなったことには三人組もとっくに気付いているだろうが、慣れない虫の魔獣退治にてこずってすぐには探しに来れないだろう。

しかも例の人身売買組織の一員が居るのにミラベルさんからそのことについて何の言及も無かったということは、諜報員チームもローチの素性は知らなかったのだと思う。

全くカタギには見えない面相なので、完全にスルーしていたということも無いだろうけれど、少なくとも即座に誘拐事件を彼と結びつけることはなさそうだ。

この町はギリギリで邪神のジャミング範囲に入っているため、女神の天啓システムで俺の居所を知れるかどうかも怪しい。もし電波状況が良ければいけるかもしれないな。

この状況で三人組とミラベルさんが俺を探すのは大変だろう。街の住人をうまく説得して協力を得られるかがカギになりそうだ。


そしてアリア。

あいつはこの旅にずっと同行している。

ルチグァが出た時に馬車の扉の開閉係を俺がしていたのは、あいつがこっそり中に入れるようにするためだ。

しかし有能過ぎる変態諜報員の彼女の助けは、今のところ期待できない。

俺と素人三人組とギルベルトさんと、周囲からは見えないがアリアが旅に出た時、俺は第三王子の守りがだだ下がりした状況を狙って事を起こす悪党が必ず出る、と確信していた。

そして事が起きた際には、俺の身の安全はよほどのことが無いかぎり後回しにし、情報収集を最優先にしろ、とアリアに事前に命令していた。

あいつは変態だが王族直属のエリートだ。命令はなによりも忠実に守る。

そんなアリアがこの時点で出てこないということは、このローチという男の周辺に探るべき情報が落ちていたために、まだここには来られないということだ。

まあ別の諜報員とかち合ってしまって単純に忙しく、俺の危機に駆け付けられていないだけの可能性もあるけどな。


問題ないさ。

ある程度の傷は回復魔法で治るし、死んだところで俺が嬉しいだけだ。

パーティの最年少メンバーの悲惨な死を地球人組は吐くほど悲しみ、きっとこの出来事をバネにして成長し、諸悪の根源である邪神を必ずや退治してくれることだろう。

家族も国民もそりゃもう嘆き、それぞれに苦しむに違いない。けれど、きっと立ち直る。なんだかんだこの世界の住民は強靭なのだ。

その様子を直接見れなくとも、思いを馳せて無残に散れるなら、俺は十分幸せに逝くことができる。あと誰かしら立ち直れずダークサイドに落ちててもそれはそれで楽しい。

悲鳴を上げる俺の指先を一本一本丁寧に潰し、次にローチはペンチを取り出した。

いたーい!

こわーい!

それってどうやって使うの~!?

灰色のボサボサの髪に隠された目が、ゆっくりと三日月のように細められ、痛みによる涙と汗に濡れた俺の顔を嬉しそうに見おろした。


「王子様ってのはやっぱり綺麗なもんなんだ。仲間が来てくれるといいね。でも安心して。もし間に合わなくても、俺、飾りつけも得意だからさ。どんなふうになってるかよく見えるように並べて、ちゃんと展示するんだ。何を使ってその形にしたのかも、使った順番に道具を足元のほうに並べておいてさ。そうすると、そいつの仲間がみんな泣いて小便漏らしてペラペラペラペラ口が回るようになるんだよ。何でも話すからそれだけはやめてくれって言うんだ。まあ今回は何か聞き出したいわけじゃないけど……。でも俺、仕事は手ェ抜くなって言われてるから。全部ちゃんと最後までやるよ」


そう言う声は相変わらず優しく落ち着いている。

きっとこれまで展示された人たちが最期に聞いた声も、こうなんだろう。

いやまいったね。

おいおいやめとけよ。そんなことしたら俺のことを大好きな人たちが心に消えない傷を負っちゃうだろ。人の心が無いのか? 良いセンスしてんね。

ひとつの手心も加えなさそうな目の前の異常者に、俺は内心歓喜した。

拷問は真面目にクソほど痛いししんどいし最悪だが、それ以上に楽しくて仕方がない。

しみじみと自分のキチガイぶりを実感するけれども、産まれてこのかた一秒も休まず趣味に人生を捧げ続けた俺の体が、いままさに鬱展開のために捧げられようとしているのだから、これを本望と言わずしてなんと言うのか。

これが俺の生き甲斐だ。

さあ、ローチは次は何をしてくれるんだろうな?

楽しい仲間たちは、俺がどの程度壊されたところで救助に駆け付けるのだろう。十割損壊してるかもな!

面白くなってきたぜ……!!

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