第26話 異物混入済み戦隊
結論から言おう。
ヌルゲーである。
三人組と神官たちと俺で話し合った結果分かったことについて並べていこう。
まず三人組の性格。これがまあ素晴らしくよろしかった。
神聖さアピからのドジっ子演出で好感度を稼いだ俺の努力はなんだったのかというくらい、全員素直で真っ直ぐな子なのだ。
全世界うちの息子or娘になってほしい選手権が開催されたなら上位入賞は間違いない。
まあ好感度は上がり過ぎて困るということもないのでよしとしよう。少なくとも彼らはヤンデレ系の人種では無さそうなので。
一人目。
主人公属性のアカガネ・ハヤトくん16歳。
ツンツンした黒髪と釣り目がちの大きな目が印象的な少年だ。
今回は大人に囲まれてのシリアスな話し合いだったため若干固くなっていたが、言動の端々から察するに、本来は快活で能動的、怖いもの知らずな性質だろう。
勇気はあるが無謀さはあまりなさそうな、バランスの良い戦士タイプ。
女神から貰った神器は剣。
二人目。
清純派ヒロインなシラユキ・ルイちゃん16歳
黒髪ロングストレートにぱっちりした大きな目の、可愛らしくも凛とした少女。
多分三人の中で一番落ち着いている。というか落ち着こうと努力しているように見える。
話し合いの最中にきちんとノートにメモを取っていたあたり、真面目な子なのだろう。
全体を俯瞰して観察しておこうという意識がある。後衛タイプかな。
貰った神器は弓矢。
三人目。
アオイ・レンくんは二人より一つ上の17歳。
長身で筋肉質な体形や地毛だろう茶髪のせいで、いわゆる不良にも見えるが、話してみれば礼儀正しい子だとわかる。
どうやらこの三人は幼馴染だそうで、年下二人の面倒を昔から見ていたのがこの子だ。話から察するに恐らく学年は一緒。
二人に対して保護者意識が若干あるというか、自分が兄貴分だから守ってやらなくちゃ、という思いがあるように見受けられる。
素質としては彼も前衛向き。体格もタンクにぴったりだ。。
貰った神器は大盾。
そして四人目。
この三人の話を聞くに、頭脳派らしいクロミヤ・リッカくん16歳。
この子が邪神に憑依されて連れ去られた可哀想な少年だ。
彼についての詳しい話はまだ聞けていないが、優しくて大人しくて賢い、とても良い子なのだそうだ。
彼については今後親しくなるにつれて、三人から公開されるエピソードも増えていくことだろう。
突然邪神の入れ物にされ異世界で暴虐な行いをさせられるはめになった少年については、それはもう尽きぬ興味があるので色々と注目していきたい。
そして今回の悪役である邪神。
これについては三人組が女神から詳しい情報を聞いてくれていた。
この神は名前を持たず、いつからか存在していて、度々世に災いをもたらしていたらしい。
人格があるかどうかは、邪神自体とまともなコミュニケーションを取れたことがないので分からないのだそうだ。
大昔にも魔王にされた人間を助け出したケースはあるらしい。元魔王いわく、何かに塗り潰されるように自我が薄れ、邪神に取り込まれてしまった、という証言を遺しているらしいが、これも人によって若干内容が異なるのだという。
この名前のない邪神は特に目的地も無く彷徨い歩くだけの存在なのだが、それだけで周囲の人間に影響を与えてしまう。特に強い悲しみを体験したことのある人間は、邪神の影響を受けやすい。
どんな影響なのかというと、悲しみの原因を解決するために、ある種の加護のようなものを受け取るらしい。
といっても邪神なんて呼ばれている存在のすることなので、当然ロクなことは起きない。
妻と娘を失った男は二人の死体を蘇らせたは良いが理性の無いゾンビに食われ、日照りに苦しむ村の住民は水を飲まずとも生きていける体になった代わりに化物に変身した。
これはどうやら人を苦しめるために意図してやっているのではなく、邪神が人間とは違う価値観であるがゆえのズレらしい。
なおこの部分の話が進むたびに三人組の表情が曇っていく様子が大変よろしかったです。
そんなわけで邪神を討伐する場合、女神の加護を持つ少人数の戦士が対応することが良いらしい。
加護を持たない人間はよほど強靭な精神を持っていない限り、精神を邪神に汚染されて気絶してしまったり、眷属となって与えられた力で酷い目に遭ったり遭わせたりする存在に変質してしまうからだ。
世界の敵をなぜか少人数パーティで倒すのは王道展開だな。
素敵な邪神ちゃんに憑りつかれた可哀想な少年は、一応これまでの例から考えて、融合が完全に進んで魔王となってしまうまでの時間の猶予があるらしい。
残念なことに神器による邪神の現在地探しは難航し、思いのほか王都の近くに居そうだ、ということ以外は分からなかった。駄目じゃねーか。
まあこの反応の鈍さが、逆に邪神の力がまだあまり強くないことの証明でもあるそうなので、そういう意味では朗報である。
王家と神殿から王国の全住民に向けて、黒髪で黒い服を着た一人で出歩いている見知らぬ少年に近づかないように、という通達を出してもらったので、不用意に邪神と接触する民間人も恐らく減るだろう。
同時に、この少年は危険な魔法生物に憑りつかれた被害者であり、救出のために国と神殿が対策チームを結成しているので見かけた者は通報するように、という通達も出している。
というわけで俺と地球三人組は、神器の反応がもう少し強くなるか目撃情報が集まるまでの間は、王城付近の兵士用訓練施設で戦闘訓練をすることになった。
もちろんその間の衣食住は神殿と王国が用意するし、邪神討伐の旅の費用も全て持つ。彼らは女神の使途だからね。最上級の賓客扱いだよ。
俺にとっても最上級のお楽しみ要員なので一生懸命接待させていただきます。
あと何日の猶予かは分からないが、三人組と落ち着いた状況で交流を深める機会が出来たのは、願ってもないことだ。自然に親密度を上げていこう。
最初はド素人をどう育てりゃ邪神なんてものを倒せるのかと思っていたのだけれど、思いのほか三人組はそのあたりのことをきちんと考えていた。
女神から神器と加護を授かる際、地球で三人及び魔王候補くんがやっていたネトゲのキャラクターの性能を模した力を貰ったそうなのだ。
そのためハヤトくんは剣士のアタッカー、レンくんは大きな盾を持ったタンク、ルイちゃんは後方支援のアーチャーとして、ゲーム内のスキルを活かした訓練を行っている。
もちろんゲーム内と全く同じように動いて戦えるわけではないのだが、一から武芸を身に着けるよりはよほど現実的な対応だろう。
俺も女神の神器である杖をハヤトくん経由で貰っている。
10歳ごろから魔法の訓練を受けていたので、後方支援としてなら足手まといにならずに済みそうだ。
なお適正は状態異常魔法にかたよっていた。さもありなん。
どこか学校のグラウンドを思い出させる広い訓練場で、俺は三人の様子を眺めていた。
いま彼らはそれぞれ個人訓練として、王国きっての精鋭兵から指導を受けている。
ハヤトくんは神器の効果によって発動するスキルを実践的に使えるよう、長身の兵士から体捌きについてを教わっている。
最初はゲーム基準の決められた動きでしか技を使えなかった彼も、今は自然な足運びで敵の攻撃をよけたり、スキルによる攻撃を柔軟に運用して連撃を決めたりと、とても進歩しているようだ。
ルイちゃんは魔法で動いている的に向かって、自分も動き回りながら矢を当てる、という訓練をしているらしい。
彼女の神器は自動補正や追尾の機能を有しているようなのだが、それはそれとしてどの的のどの位置を射るかは本人が考える必要があるので、どの敵から倒せばいいのかという瞬発的な判断を鍛えているのだろう。
レンくんは大柄な兵士から指導を受け、敵の攻撃を怯まず受け止められるよう、メンタル面での訓練を受けている。
兵士の持つ大きなバトルハンマーとレンくんの構える大盾がぶつかり合う際の轟音は、離れて魔法の連射をしている俺にまで聞こえてくるほどだ。あれを正面から受けるのは相当胆力がいるだろう。
予想より順調にいっている訓練だが、この中で一番進捗が悪い、というか適性が低かったのが、このタンク担当のレンくんだ。
と言っても実際には素人としては上々なのだけれど、一緒に訓練をしているハヤトくんやルイちゃんがかなり素質があるため、相対的に彼が一歩遅れて見えているだけなんですけどね。さすが異世界産勇者は強いなぁ。
けれど当然レンくんは焦っている。
なにせ彼らの旅には、友人の命がかかっているのだ。
異世界が邪神のせいでピンチになっている、という漠然とした話よりも、友人が良く分からないやつに攫われたので、早く助けなければどんな酷い目に遭わされるかわからない、という現実味のある危機感が、彼に胃の腑を炙られるような焦燥感を味わわせていることだろう。
当然これを見逃す俺ではない。
天使のように優しくて、困っている人を見過ごせない第三王子様だからな。
ではさっそく彼の様子を探ってみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます