第21話 心の友は掴んで離すな

初めてできた友からの友情をセルフで失った俺だ。

今回はちょっと綱渡りが過ぎた。

解決方法が思いつかないからゴリ押ししちゃったもんな。

それでも権力と信用の力さえあればなんとかなる。

こういう時に無条件で、第三王子さんが言うんならそうなんやろな……。と思って貰えるべく俺は普段から可愛く賢く優しい王子様ムーブをしている。

あと、そういう子が巨悪を倒すべく頑張る過程で死んだりすると皆の顔が曇って良いでしょ。いつでも準備万端だよ。汚職してる宰相とか魔王とか現れてくれて良いんですよ?


今度こそ解説はいらないのでは?

僕は非力な王子様なので通報しただけですよ?

と思うけれど一応必要そうな部分について話そう。

まず俺が騎士さんと二人きりになった際、室内に例の忍者じみたスキル持ちがおらず、内緒話をしても問題ないと判断した理由。

いや、今更だけれどあれ何て呼べばいいの? 忍者でいい? 忍者でいいか。

俺がよそ様のお船に遊びに行くということで気をきかせた兄上や父上が忍者を付けてくれていた可能性もあるが、これは最初に隠し通路に入る時、ルグナー殿下がめちゃくちゃ警戒して子供以外通れないだろという隙間しか開けずに扉を通ったため、隠し部屋までは来ていないと思っていい。


次にルグナー殿下がこういう特殊な人材を確保している可能性。

これについては、俺は無いと思っている。

そもそも、うちくらいの大国でもおそらく王や第一王子のもとにしか配属されていないであろう貴重な人材が、うちより小さな国の第七王子のもとに居るとは考え難い。

それから、ルグナー殿下自身がかなり忍者に対して警戒してたってことは、間諜対策をプロに任せられていない可能性が高いと思った。

あとあの扉の入りかただと、仮にルグナー殿下に忍者的な護衛がいたとしても、そいつもついて来れないだろ。

そして檻のある部屋に先回りしている可能性も低い。そんな貴重な手駒を持っていたら、待機させてないで自分自身の護衛に使うほうが自然だ。

というわけで、これはもう推理というか、こうだったらいいなあっていう希望的観測ですね。

結果的に大丈夫だったからセーフセーフ。


次に騎士さんの対戦相手がわかった理由。

これはもう俺の勘だよ。

ルグナー殿下はゲスなんだからきっとこうする、っていう信頼ともいえる。

もし俺が彼と同じ立場だったら、あの状況で中途半端に騎士さんをケガさせたりなんてしない。

そんなことをするよりじっくり精神を削って、それでも心の折れない騎士さんの姿を楽しむ。

多分ルグナー殿下はこのためにわざわざ、騎士さんが警戒せず、なんならちょっと心を開いちゃうような人材を船で雇ったのだろう。

雇用者一人一人の性格までよく理解している素敵な雇用主ですね。


成功していたら楽しかっただろうなぁ。

本当は、邪魔なんてしたくなかった。

なんなら俺だって、騎士さんが気にかけていた気弱そうな船員を、そうとは知らずに殺してしまって苦悩する姿を間近で見たかった。すごく見たかった。いまから見せてくれないか……? 駄目か……。そうか……。

けれど俺があの場で己の欲望を優先して、その後じつはルグナー殿下の企みに気付いていたと知られてしまうと、騎士さんからの好感度がかなり下がるだろ?

だから船員さんを助けるしかなかったんだ。


騎士さんと二人で話したいと言い出したため、案の定ルグナー殿下にはちょっと警戒されてしまった。

うまいこと言いくるめる言葉が思い浮かばなかった俺は、今回生まれて初めて誠心誠意俺のありのままの気持ちでお願いをした。

「いやがらせを、したいのです」なんてね。

まあ嫌がらせをしたかった相手は騎士さんじゃなくてルグナー殿下なんだけどな。嘘は言ってないよ嘘は。

しかし俺の心からの素の笑顔ってそんなにヤバいんですかね。全員から引かれたんですけど。

どうして? 俺はこんなに天使のように可愛らしいツラをしているというのに?

土台の良さだけでは誤魔化しきれないゲスさが滲み出ているんだろうか。生きざまは表情に出るって言うもんね。

これからも演技には気を遣っていかないとなあ。


ルグナー殿下が船員が気絶しているだけだと気づいて、殺さないと勝負がついたとみなしませんよ、とか命令しないよう、はしゃいでみせて余興を早く終わらせたり、細かい調整がそこそこ大変だったよ。

ギルベルトさんがこんなぽっと出の小僧の言うことを信じてくれて助かった。

おかげでクズの友人のクズとして登場し第一印象最悪だった俺も、多少は好感度を稼げたことだろう。そうだといいな。

実はギルベルトさんには、まだ詳しい話を聞けていない。うちで保護したけれど、よその国の王子が起こした事件に巻き込まれていた人だからな。

密告した俺は当事者ではあるものの、きちんとした事情聴取が終わるまでは、あまり長々話す機会は貰えないことだろう。

早くこれまでの鬱展開エピソードとその際の心境について聞きたいなあ。


あの日、無事ルグナー殿下の寝室に戻りぐっすり眠った俺は、美味しい朝食をいただいて城に帰ると、速攻で裏切って父上に告げ口をした。

そこで父上は例の忍者タイプな護衛さんを船に送り、裏付けをとってきてくれたらしい。

ギルベルトさんに付けられていたあの首輪は、違法な人身売買で使われるような魔法道具だったのだという。

このあたりの国ではどこも、奴隷の売買は違法だ。

これはいわゆる国際法に近いものだと思ってくれて良い。違反すれば貴族でも王族でも、それ相応の罰が与えられる。

王族であるルグナー殿下の犯罪が見逃されず、しっかり捕まえられたのはそのためだ。


これからルグナー殿下は取引相手の奴隷商についてだとか、首輪の入手方法だとか、そういったことを追及されるのだろう。

裁判は普通に考えてまだまだ先だろうが、この件で幽閉にでもなるだろうな。

といっても王族には、こういった際に一つだけ、実現可能な内容であればどんな願いでもしていいという権利がある。いわゆる王族特権だ。

大抵はこれを使って、減刑したり幽閉先での待遇を多少改善してもらう。

けれど何を言ったとしても幽閉先にはきっちり監視がつくので、これまでのような悪事を働くことは出来ないだろう。


そんなわけで悪は大体滅びた。騎士さんもついでに船員さんも無事である。

俺は今日も美味しい朝食を食べ、紅茶を飲み、こんな事件があったので普段より不安げなヴォルフを安心させるようににこっと微笑んだ。

世は全て事も無し。大丈夫大丈夫。

そうして俺が寛いでいると、部屋のドアがカカカカンと物凄い勢いでノックされた。

困り顔の護衛さんが扉を開けると、護衛さんごと吹き飛ばすような勢いで、変態役人ことアリアが入室してくる。


「ライア殿下! 先程ルグナー殿下が王族特権を使用し、女神の鐘を用いてライア殿下に対する公開質疑を行うと……、ら、ライア殿下?」


俺は立ち上がってアリアを出迎えた。お前はどうしようもないショタコンだけれど本当に情報が早くて有能だな。

すっかり外出の準備を整えているこちらの様子を見て固まるアリアに、可愛い第三王子様スマイルを向けてやろう。


「ああ、アリアか。見ての通り準備は万端だ。きっとルグナー殿下は出来るだけ早く来てほしいとおっしゃっているのだろう? 父上にお出掛けの許可をいただかなくては」


こうくると思っていたよ。

ルグナー殿下は取り調べも裁判も待たずあっさりと罪を認め、早々に王族特権を使うことにしたわけだ。

自分の減刑ためではなく、俺を自分好みの形で道連れにするために。

勿論俺はそんなことをされても捕まりはしない。共犯じゃないからね。けれど彼の企みが上手く行ったなら、当然評判は最悪になるだろうな。

いやー、流石ルグナーくん! 心の友よ!

その肝の座りっぷり、俺は好きだよ!

やっぱり悪役ってのは、へこたれずにしぶとく頑張ってくれる存在じゃなきゃね。

入口からどいたアリアが頬を染めて口元に手を当て、プルプル震えながら俺とヴォルフと護衛さんの背にお辞儀をし、見送りをしてくれた。地味にいやだ。


せっかくお友達が、お家に帰る前にまた俺と遊びたいって言ってくれてるんだ。勿論かまわないとも。

なにせ俺は心優しい王子様だからな。お誘いには快く応じるに決まっている。

せいぜい楽しくやろうじゃないか。

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