第14話 夢はそこそこ気楽に叶え
劇場版をくぐり抜けた俺だよ。
こんな事もあるんだねえ。最前列特等席って気分だ。
最高のシチュエーションに心が洗われた。
今日言うことある? なくない? 変わってしまったかつての仲間要素はアツいって事しか言及できる点がなくない?
持つべきものはハイスペックな家族だね。
俺がペラペラ喋ってる間に兄上がなんだかんだ解決してくれたよ。
以上。
というわけにもいかないので一応解説は入れよう。
その後の取り調べではっきりしたことだが、ミラベルさんは自供通りチンピラヤクザみたいな男に引っかかってしまい、あれよあれよというまに結婚詐欺に遭って借金を背負い、その件で脅されて犯罪に巻き込まれたらしい。
恋ってものは人を狂わせますねえ。
隣国で色々やらかしたミラベルさんの彼ピとそのお友達は、もうちょっと遠くの国まで逃げるつもりだったようなのだが、途中のこの国にミラベルさんの友人がいると知って今回の押し込み強盗を計画したようだ。
金持ちがいるっぽいから身代金取ろうぜー!というのはやっぱり後から付け足した即興の計画だったらしい。
貴族が来るらしいと彼ピ達に報告したのは、ミラベルさんとしては護衛が来るから強盗はやめておこうっていう提案のつもりだったんだろうな。彼ピ達はミラベルさんが想定していたより馬鹿だったので結局こうなったわけだけど。
後はまあ、そのまんまだな。
兄上は部屋を出た時点でもう、劇場周辺に怪しい奴がうろついていることにも、ミラベルさんがこっそり門や裏口の鍵を開けていることも分かっていた。
そして最初から、俺達が居た部屋の中に例の忍者じみた護衛を一人残していた。
そりゃそうだろうね。隠密行動向きの護衛ばかり連れてるような人間が、その程度しておかないわけがない。
俺とヴィオレッタさんの会話はそのまま護衛さんを通して兄上に筒抜けだったわけだ。
べつに兄上が陰険腹黒野郎だったわけじゃないよ。
ただ次期国王として、弟にも友人にも当然の備えとして一定の警戒を常にしているってだけだ。
人を信頼していないわけじゃないけれど、裏付けが必要な立場で生きている人間なのだろう。大変だねえ。
いやー、王家って怖いなあ。ちかよらんとこ。実家じゃねーか。
そんなわけなので俺は適当に時間をつぶしながら、周囲のゴロツキを兄上達が制圧することと、隙を見せたミラベルさんを護衛さんが倒すことを待っていれば良かったわけだ。
ミラベルさんは、ちゃんと耳を澄ませておけば、ゴロツキたちがやってきたはずなのに何の物音もしないことに気付けたはずだ。
でも友人を脅している罪悪感や、俺みたいな子供が名探偵じみたことを喋っているインパクトにすっかり飲まれてしまった。
そもそも好きでやってるわけでもないんだから仕方ないね。
売れっ子女優から犯罪者に転落し、そのさまを親友に一番嫌な形で知られることになったミラベルさん。
母国でいまも活躍していると信じていた親友に、酷い裏切りをされたヴィオレッタさん。
加害者なのはミラベルさんだけれど、俺としてはどちらも可哀想だと思う。
一緒に青春を過ごした二人の友情に、こういった形で幕が下りたのは悲劇と言って過言ではないだろう。
けれど、こんなことになってもミラベルさんへの友情を忘れないヴィオレッタさんに、ミラベルさんはきっと救われたはずだ。
そしてそのこと自体が、ヴィオレッタさんにとっても救いになっている。
二人は今でも、二人でひとつのような部分があるんだろうなあ。
今日も悪は滅び、美しい二人の女優の友情は泥に塗れつつも美しいままに結末をむかえ、頑張り屋のヴィオレッタさんは前を向いて歩いている。
いやあ、良いものを見せてもらった。
しみじみとお茶を飲んでいる俺の向かいには、今日は兄上が座っている。
ミラベルさんとその周辺のあれそれについて教えに来てくれていたのだ。
普通7歳児にそういう情報はいちいち聞かせないと思うんですけどね。いや兄上もこう見えて15歳だけれどね。
きっと子供ではなく一人の人間として扱ってくれているということなのだろう。多分。
「それで兄上、捕まった男達はどうなったのです?」
「うむ、余罪も多かったからな。死罪は免れまい」
「ミラベルもですか?」
「初犯のようだし、怪我をさせた相手も居なかったのだがなあ。俺たちがあの場にいたのが悪かった。一緒に死罪だ」
「そうですか……」
そっかー。うんうん、そうなっちゃったかあ。
ミラベルさんはミラベルさんでなかなか好きだったのだが、こういうこともあるだろう。
俺がほんのりしょんぼりしていると、兄上が悪戯っぽく口の端を上げてにっと笑った。
「表向きは、な」
ははーんなるほど。イケメンですね……。
「なにせ素晴らしい演技の才能を持っているからな。そういう手駒がひとつ欲しかった」
「よろしいのですか? 彼女はそんな訓練を受けて育った者ではないでしょう。兄上のお役に立ちますか」
「そこは嘘でもかわいそうだと言っておけ。まったく、お前は遠慮をしなくなったな」
「そのほうが兄上はお喜びになるようでしたので、僕は今後はこうします!」
そう言って胸を張れば、目の前の俺様系イケメンは大口を開けて笑った。そういう行為をしても顔が崩れないのがこの兄上のすごいところである。
「はっはっは、言うようになったなあ! まあよい。以前のお前も愉快だったが、今のお前もなかなかに愉快だ」
「僕も兄上はそれくらい口の悪いほうが好きです! ……それにしても、よかった」
ミラベルはもともと人気女優だ。しばらくはほとぼりを冷ますために表には出られないだろうけれど、いつか他の護衛兼諜報部隊の人たちのように仕事を請け負うことになるのだろう。
ということは、ひょっとすると兄上と一緒に城下町に出て、ヴィオレッタさんの劇場に行くこともあるかもしれない。
「……まったく、そういうところはそのままか」
兄上が俺の頭をぐしゃぐしゃ乱暴に撫でるせいで体が揺れて、お茶を持っている手がブレまくって仕方ないんですけれどやめて頂けますかね。
見ろよヴォルフがまた被弾して涙ぐんでるだろ。
いやあ、でも本当に良かったよ。
これからミラベルさんは親友の劇場に押し込み強盗に入った挙句捕まり、そこにいた王子に命を助けられ、逃げ場のない状況で諜報員というキツいお仕事を頑張っていかなければならないんですね! いやー良かった! 何かつらい事があったら是非俺にお知らせして欲しいなあ!!
「ところで、以前から思っていたのですが、事件の調査というのはなかなか早く終わるものなのですね」
「ああ、お前は知らなかったか。
女神の鐘という魔道具があってな、その前で発言した言葉が真実であれば鳴らず、嘘であれば鳴る、という効果があるのだ。これのお陰で、犯人が嘘の証言をしても騙されずに済むというわけだ」
「なるほど、便利な道具があるのですね」
すごいなー。
こわ……ちかづかんとこ……。転生時点でもう通った道だけど……。
いやちょっと待て。あの女神の嘘発見機能、人間でも再現できるようなレベルなのか? うそでしょ? 神様としての威厳が無くない? 人間を転生させることができるんだから凄いんだとは分かってるけど、それはそれとして信仰度が下がるわ。
まあそんなことはさておき、今までのパターンからすると、その道具の前で話さなけりゃいけなくなるが展開来そうだなあ。
なーんて、そんなわけないか! 俺は第三王子様だからな! そこらの犯罪者とは違いますよガハハ。
「さて、そろそろ戻るとするか。……と、伝え忘れていたな。ライア、来月のお前の誕生日に、ウィスタリアから客が来るだろう」
「ああ、たしか第五王女のエリステル殿下と、第七王子のルグナー殿下でしたか。」
「そう、その二人だ。今回の件がウィスタリアの人間の犯行だったからな。あまり大事にはせず収めたが、流石にある程度の謝罪をしたいとあちらの国から申し出があった。茶会への招待があるから出席するぞ」
「はあ、構いませんが、僕はたいして酷い目に遭っていませんよ?」
「そう言えるのがお前の良いところだなあ」
いやあ、本当に気にしてないので良いですよお茶会とか呼んでいただかなくて。面倒くさいし。
自分で言うのもなんだが、俺はよそのお上品な王子様と話が合うような人間じゃないぞ。
たしかルグナー殿下って11歳か12歳くらいの年齢だったはずだ。中二病発症しかけてたらどうしよう。
でも毎日王宮で優雅なタダ飯を食っている身分なので、お仕事をしないなどとは言えない。
「アストレイがいま丁度よそへ遊学に出ているだろう。一番ルグナー殿下と年が近いのがお前だ。
俺はエリステル殿下のエスコートも頼まれていて、手が離せない可能性がある。というわけでルグナー殿下の話し相手は主にお前がするように」
「それはまあ、僕が妥当でしょうね」
「そういうわけだ。では俺は帰る!」
そう言い残してさっさと部屋を出て行った兄上を見送り、俺はソファに座り直してため息をついた。
ちなみにアストレイってのはうちの次男ですね。
お客さんの接待って地味に肩が凝るんだよな。
まあ相手のほうも、公務でよその国に行ってニコニコしなきゃいけないなんて面倒だと思っていることだろう。王族ってつらいね。まだ子供なのになあ。
もしここで俺への女神のご加護が働いているなら、お姫様がとんでもねえ悪女だったりその逆だったりするかもしれないとかちょっと考えていたんだけれど、王子のほうはどうだろう。
虐待とかされてる可能性あるか? 王子なのに? 逆に王子だからこそワンチャンある?
とにかくもう決まってしまったことだ。
せっかくだから眺め甲斐のある子が来てくれると良いなあ。
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