第24話 森の熊さん(魔獣)
片山さんが指差す方向の森から巨大な影が
出てきた。
広場に現れたのは巨大な熊だ、しかも二足
歩行をして近付いてくる。
体長は2mを超えてるのではないかと思う位
巨大だ。
「たまたま通りすがりの…って訳でもなさそ
うだな、やるしかないか」
山ちゃんがハンマーを構える。
何処からその勇気と闘志が湧くのか不思議な
位この世界の彼等は切り替えが早い。
「先手必勝!」
マコトがヤバい勢いの水を吹き出すと山ちゃ
んもハンマーで殴りかかった。
熊は水を寸前でかわし、山ちゃんを手で吹き
飛ばした。
「ハンマーの防御がなかったらちょっとヤバ
かったな、ケンジ頼む!」
「…!?わ、分かった!これでも!食らえ!」
しかし、熊は木刀を振り下ろした時の衝撃波
を横に受け流すと飛び掛かってきた。
「オラアアアアア!」
その時、片山さんが正拳突きを繰り出すと、
熊の動きが止まった。
左手で片山さんの拳を受け止めている。
そして、熊も空手の構えをしていた。
「クマ公…テメェ、格闘技を知ってやがる
な」片山さんがニヤリと笑った。
熊は昔はただの小熊だった。
彼は人里離れた山の中で静かに暮らしてい
た。
しかし森はソーラーパネルの開発で切り開か
れ、母熊と一緒に森を去った。
ある時、餌を探しに人里へ降りた母熊はハン
ターに駆除されてしまった。
餌が無くなった時、小熊だった彼は徐々に体
力を失い死の際に立たされた。
その時、咄嗟に口にした柿の実が魔素汚染さ
れていた為、小熊は魔獣になった。
魔獣となり生き延びた熊は、自分の居場所を
求め彷徨い歩いた。
そして大山に流れ着いた時、山から見下ろす
所に一軒の道場を発見した。
道場の中にある神棚に果物を発見すると、熊
は道場に入り込み果物を食べた。
「誰かな?」
熊が後ろを振り向くと、吹けば飛びそうな老
人が立っている。
熊は本能で老人に襲い掛かろうとした瞬間、
後ろに吹き飛ばされた。
老人の正拳突きに吹き飛ばされたのだ。
熊は森に逃げ込んだ。
次の日、同じ道場を覗くと昨日の老人が稽古
をしていた。
そして軒先には果物が置かれていた。
魔獣になり知性が増した熊にも、果物を置く
理由が分からなかった。
「食べなさい」
老人は後ろを向いたまま言った。
その日から熊と老人の奇妙なコミュニケーシ
ョンが始まった。
初めは餌を求めに行くだけだったが、その内
に熊は老人の稽古を見て、見様見真似で同じ
事をする様になった。
成体になるにつれ知性が更に増した熊は、老
人を師匠や親のように慕い始めた。
更に何年か経った冬、いつもの様に熊が道場
に行くと老人は倒れていた。
熊は老人をどうする事も出来ず、眺めていると
老人が自分の巻いていた帯を震える手で手渡
した。熊はその帯の意味を理解していた。
「最期の弟子は熊だったか…これもまた運
命…これが免許皆伝だ」
老人は死んだ。
熊は寂しかった。
老人が亡くなり道場が無くなった後、自分の
中の老人が消えないように、毎日熊は森の中
で見様見真似で覚えた型を稽古した。
そしてある時から熊の中に新たな感情が芽生
えた。
「強い者と戦いたい、自分が覚えた技を使い
たい、強くなった自分を老人に見てもらい
た、褒めてもらいたい」
そう思い始めてから数年後、この時期になる
と色々な高校生が大山に魔獣退治に来るよう
になった。
もしかしたら強者もいるかもしれない、そう
思い様々な高校生に戦いを挑んだ。
しかし、全力を出せば殺してしまうような人
間とは、満足な戦いは出来なかった。
しかし今日、暴れた山ミミズに拳で殴り掛か
ったあの少女、彼女は本物だ、野生の勘で強
者と感じた熊はどうしてもあの少女と戦いた
くなり現れたのだ。
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