第19話 マコト

「僕はケンジだよ…でも、この世界にいた

僕じゃない」


「どういう事?」


「信じて貰えるか分からないけど…」


山ちゃんに、突然訳も分からずこの世界に

来た事、この世界に来て今まで起きた事、

自分のいた世界の話を伝えた。


「なるほどな…確かにあの日、龍騎士だって

ケンジが言った日、魔導力が凄い弱いなって

違和感を感じたよ、あの日から入れ替わって

たんだな」


「そう、気付いてたか」


「まあね…でも分かった、内緒にしとくわ

でもマコトには自分から言った方がいいな」


「え?まさか…」


「マコトは気付いてるし、怪しんでる」


「マジか、全然分からなかったわ…」


「そりゃマコトは…いや、いいや」


「なんだよ」


「何でもない、とにかくマコトはマジで

気付いてる、直接自分から言った方がいい」

山ちゃんは立ち上がると自転車に跨った。


「じゃ!また学校で」

「あ、そうそう、俺はこっちの世界にいた

ケンジも好きだけど今のケンジも好きだよ」


そう言い残すと山ちゃんは自転車で行って

しまった。

「…やっぱりバレちゃうよなぁ」


自転車をこぐ山本は考えていた。

あのケンジも悪い奴じゃない、こっちにいた

ケンジは何処となく影がある奴だったけど、

アイツにはない。素直でいい奴だ。

しかしながら察しが悪いと言うか、鈍感な所

はパラレルワールドでも共通だった。

バレないと思ってた所も、マコトの事も。

「…なーんでこうアホなんだろうなぁ」

山本は笑ってしまった。


2020年6月6日土曜日2000

宮本家宅ケンジの自室


(やっぱり自分から言った方がいい)


山ちゃんから言われた事が、頭で反芻された。


「やっぱり言った方がいいよな」


時計を見ると、もうマコトがバイトから

帰る時間だ。

「行くか」


スマートフォンのアプリでメッセージを送っ

た。

「今夜、話したい事がある」


意外にもすぐ返信が来た。

親にコンビニに行くと行って家を出た。

春の終わりの夜風は少し肌寒い。


自転車をしばらく漕ぐと、マコトがバイト

しているコンビニに着いた。

駐車場には自転車に跨ったマコトがいた。

「ごめん、待った?」


「ううん、今出て来た所、どうしたの?何?

話したい事って?」


「その…なんて言うか…」


「…?」


「マコトが怪しいって思っている答えを伝え

に…」


「??」


「実は…僕は"この世界の僕"じゃないんだ」


「…やっぱりか」


「やっぱりって…気付いてたの?」


「うん、気付いてたよ、キミが現れたのは…

ケンジが龍騎士だって分かった日かな?」


「全部気付いてたんだ…」


「それにね、あの日の前日にケンジと話した

事を忘れてた…ううん、キミは当然知らない

からね」


「え?あ…まあ…」


「あと魔導力が何となく違うよ、うん」


「そ、そっか〜」

(身近に魔導力か分かる人には分かるのか…

身内に適性持ちがいなくてよかった)


「何処から来たの?」


「魔導がない世界…かな」


結局、マコトも僕が"こちらの世界の僕"では

ないと気付いていた。

友人達を置いて、何か約束みたいな事をして

去っていく程この世界の僕は何かに追い詰め

られていたのだろうか?

色々マコトと話した後、帰り際に少し気に

なる事を聞いてみた。

「僕が現れる前日に、こっちの僕に話した事

って何?」


「…うーん…内緒!」


「ええ!?…まあ…いっか」


「いつか話すよ、じゃあね!」


マコトを見送った僕はちょっとコンビニまで

買い物と言うにはあまりに遅い時間に

なっていることに気付いた。

勿論、両親に怒られた。

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