第17話 剣道部

2020年6月6日土曜日1000

体育館


「やめ!少し休憩しよう」


朝のウォーミングアップ後、ひたすら素振り

や足捌きの練習をしていた。

汗でTシャツがびっしょりと濡れていた。


「…神林先輩は僕に剣道部入れって言わない

んですね」


「君は龍騎士の修養で剣の訓練をしてるだけ

だからな」


「それに剣道部は神林先輩以外いないんです

か?」


「適性で武道系の生徒以外にはやる意味が

ないと思われてるし武道系の生徒は授業で

剣技や格闘技をやるからこっちには来ない

んだ」


「剣道部の試合とかないんですか?」


「ある、部員がいないから一度も出た事が

ないが…でもいいんだ、家は剣道の道場を

やっているし家に帰ればちゃんとした練習

相手がいる、個人でも大会は出ているから

な」


「じゃあ何で剣道部を?」


「…なんでだろうな」


「僕はここで練習させて貰ったばかりだし

剣道の事はよく分からないけど…礼儀作法

や集中の仕方だとか、なんか剣技も大切

だけどそれ以上に人として大切な事を教えて

いるような…適性とか関係なく剣道って

意味ありますよ」

「すいません、なんか生意気な事言って」


無言になった神林に、何か悪い事を言ったの

かと思って見ると、彼女は静かに泣いていた。


「すいません!なんかマズい事言いました

か!?」


「ううん、いい、その通りだな君の言う

通り、意味あるよな」


その時、泣いていた神林先輩が僕に初めて

笑顔を見せた。

この神林先輩、あまり笑わないし正直少し

怖い人だと思っていたが、とても美人な事

に気付いた。


「適性があろうがなかろうが、剣道って

人として大切な事や成長する為にあるんだ、

それをずっと誰も分かってくれなかった。

皆、適性が、どうせ市民だからどうせ剣士

じゃないからって」


「…」


「適性がなんだと言うのだ、私だって好き

で剣士の適性な訳じゃない、親が剣士だから

家が道場だから…でも私は私だ、私は剣道が

好きだ、適性はたまたまだ。剣士や騎士、

戦士じゃなくても剣道は人として大切な事

を教えてくれる」


「僕もそう思います」


「でも、それを言ってくれたのは君が初めて

だ、嬉しかった」


「いえ…」


「よし、じゃあ練習だ!」


「はい!」

少し、神林先輩と心の距離が縮まった気が

する。

神林先輩は剣道の良さや意味を広めたくて、

部活をやっているのだろう、でも僕が感じる

のは神林先輩が適性というシステムに坑がい

たくて、適性が全てじゃないと信じたくて

ずっと"部活動"をしているのではないかと

思った。

そして練習していて気付いたのは神林先輩は

剣道中に魔導力を一切使っていない。


「なんで先輩は魔導力を使わないんですか?」


「ルール上ダメなのは勿論なんだが、魔導力

を込めた剣の威力は洒落にならないからだ

…君は龍騎士だし魔導力と剣の組み合わせが

どれだけの威力があるのを見るのもいい勉強

か…」


そう言うと神林先輩は外に出た。

手近にある木の枝を手に取ると、魔導力を

枝に込めた。

「魔導力が枝まで行き渡っているのは分かる

よな?」


「は、はい」


すると、何もない空中に素振りをした。

その瞬間、凄まじい風圧が発生して辺りの

砂を突風のように吹き飛ばした。


「な?枝でもこれだ、危険だろ?強力な力

は責任が伴う、もし万が一市民相手にこれ

を使ったらひとたまりもない」


「そうですね…」


「だからだ、力は操れる事が出来て正しい

使い方を知ってこそ初めて意味を持つ、意味

を持たない力は暴力にしかならない。それを

忘れないでほしい」


「はい、分かりました」


「じゃあ練習再開だ」


しばらく練習をしていると、神林先輩が

トイレに行って1人になった。

ほんの少し、好奇心で魔導力を出してみた。


「えーと魔導力を腕から竹刀に…」


青く薄い煙が竹刀の先から立ち昇る。

「集中…集中…」


すると、竹刀の周りの煙が竹刀に張り付いた。

竹刀が青く染まる。

「おお!…で、これを振り下ろすと…」


竹刀を勢いよく振り下ろした。

すると爆音と共に凄まじい風圧、いや爆風

が巻き起こり、体育館の金属製の扉を変形

させ吹き飛ばした。


「…あら?」


吹き飛んだ扉がグラウンドにバウンドして

転がっていた。


「…何をしている?」


腹の底から縮み上がるような声に振り返る

と、明らかに怒っている神林先輩が仁王立ち

している。

「あ、あの…」


「だから何をしている?」


夕方、駅から帰る途中自分の魔導力を手の中

で握ったり離したりしていた。

神林先輩にしこたま怒られ、学校の先生にも

怒られてしまった。

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