第8話 小柳先生

学校に着いたケンジはなるべく平静を装い、

なるべく目線を人や物に注視しないように

気をつけた。


とにかく学校生活のハードルが上がって

しまった。

龍騎士だった事は他の学年まで知れ渡り、

朝から女子には登校待ちされ、写真一緒に

写ってだの、連絡先交換してだのとても

気まずかった。


ウチの学校には、アイドルみたいなイケメン

がいたが彼はどうしたのだろう?

彼もこんな女の子に話しかけられる毎日

だったのだろうか?


化学室が化学・魔導室になっていたのは

驚いたが、なるべく平静を装った。

担任も各教科の先生も今までの世界と

変わらなかった。


しかし、さすがに魔法基礎の授業があるの

には焦った。

初めて見た魔法の先生は、絵に描いたような

イメージ通りのお爺さんの魔法使いだった。

コウモリかトカゲか分からない謎の生き物

を肩に留らせた時には手が震えた。


更に困ったのは僕がいた世界では無かった

謎の選択科目の授業だ、大まかに魔法系と

技術系、騎士や剣士、戦士(ウチの高校の

レベルだとせいぜい戦士、良くても剣士

ごく稀に騎士)などの武道系と別れるのだが

龍騎士は魔法系と武道系に跨っている為、

担当する先生がいないのだ。


いや、正確に言えば担当する先生は武道系

でも魔法系でも良かったのだろうけど先生

が拒否したのだ。


休み時間に職員室をたらい回しにされた

挙句、午後の後段から自習になってしまった。

山ちゃんもマコトもそれぞれの選択科目の

教室や実習に行ってしまい、空白になった教

室で選択科目の表をクラスで眺めていると、

金髪の日本人とは思えない見た目の女の人が

立っていた。

「…あの?…何か?」


「私は養護教諭の小柳アリサ、保健室の先生

ケンジ君よね?」


「は、はい…」(ハーフの人かな)


「君は私と校長先生が直接指導する事にな

ったの、ヨロシクね!」


「宜しくお願いします」


困った事になった…今の内に図書室で元の

世界に戻る方法を調べりゃよかったな。

しかも適性検査を受けたのは"こっちの世界"

の僕だし、どうしよう…


急に不安になってきた。


「とりあえず校長室に行こうか」


保健の先生に連れられ校長室まで向かう廊下

の途中で気付いた。

入学した当初のオリエンテーションで先生達

の紹介がされた時この先生はいない、元の

世界にいた保健の先生は違う人だった。


「そうだケンジ君、コーヒーのMサイズが半額

になるクーポンあるんだけどいる?帰る時

に"駅前にあるマクドナルド"で使えるよ」


「え?え?ありがとうございます」


いきなりマクドナルドの話をされて驚いたが

悪い人ではなさそうだ。


…一緒、違和感を覚えた。


通学に使う駅前に、マクドナルドがあるのは

"元の世界"だ…!


「先生…!まさか…!」


振り返る小柳先生の顔がニヤリと笑った。

日が少し傾き始めた光に照らされ、一瞬空気

が固まったように感じた。


「やっぱり…君は"こっちの世界"の宮本賢治

君ではないね」

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