濁思

夜月

第1話


暗い夜道を歩く。

私の目の前はとても濁っていた。


川沿いを歩く。水面に浮かぶ光は月明かり。

そして濁った人間だった。

私はそいつを見て、吐き気がした。嫌気がさした。そいつは私を見つめている。目を逸らすとそいつも逸らす。堂々巡りだった

そいつは私なのだから。

私はその時、気がついた。濁っていたのは私だ。私自身が濁りを持ち合わせ、生きていた


私の濁りは私を殺していく。


私には大切な人がいる。私の中で一番大切な人だ。

その人にとって私は友人の一人でしかない。それ以上でなければそれ以下にすらある。私が勝手に大切と思っているだけだ。

その人は私とは違って今を生きている。毎日を変わらず生きる私の大切な人は凄いと思った。だから私はその人に惹かれてしまう。その人といる時間は私には宝物のようだった。その人が笑うと嬉しくなった。その人と話す時だけは濁ってないような気がした。それだけで私の何かは満たされていった。

これを恋心と呼ぶのかは私には分からない。

私にとって一番大切な人は誰かにとって特別な人なのも分かっている。片思いであって片想いではないと思っている。いや。本当は両方なのかもしれない。片思いと片想いは似て似つかぬものだと知った。


私は濁ったまま消えていくんだろう。私が消えたところで世界は何も変わらない。何十億いる命の中の一つでしかない。そっと消えてもいつか忘れられる存在だ。

生き苦しさと息辛さを感じながら生きる私に存在する理由を渡してくれる人はいない。さよならを言わずに消えていく私だ。


濁思は消えぬまま。私は今日も私でいる。

いつか私は誰かの大切になれるのだろうか。

私に生きてていいんだと教えてくれる人はいるのだろうか。生まれてきてくれてありがとうと一つだけの証明をくれる人はいるのだろうか。

私の世界は濁ったまま。私が私を濁らせたまま。私は今日、さよならをする。

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濁思 夜月 @Yotsuki1014

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