ある冬の話
赤ん坊はまだ9ヶ月ほどで、その母親は13歳か14歳だったかしら。
目を見張るぐらい綺麗な親子だったわ。
なんでも、奴隷だった母親が、主人の息子のお手つきで産まれたのがその赤ん坊だったみたい。
私はその母親の教育係みたいなことをしていたの。
その子も赤ちゃんから奴隷だったみたいで、言葉も不自由だったわね。
ただ、自分の子を守ることに必死で、そのためにいろいろ熱心に学ぶ子だった。
あんまりおしゃべりもせず、なんか人を見透かすような目をしていたし、なんていうか、あまりに綺麗で、そうね、私は嫉妬もしていたのかも知れない。
その子のことは、だからあんまり好きじゃなかったのよ。
それに、なんといっても待遇がね。
私は雇われたメイドで、あの子は買われた奴隷。
なのに、家事仕事はもっぱらメイドの仕事で、あの子はまず礼儀作法を中心とした勉強をしていたわ。教養のある私が先生役も熟していたから、その間、普通の仕事からは免除されることも多かったけどね。
あの子は、他の奴隷と違って、メイドの仕事も手伝いたがった。
自由時間、という名の、私の本業の時間にも、メイドたちを見つけては、「お仕事ください。」とたどたどしく言ってきた。
私は水魔法が使えるから、水周りの仕事も多い。
冬場で辛い水仕事を随分振ったけど、嬉しそうにやっていて、連れてきていた赤ん坊もそれを見て喜んでいたみたい。
赤ん坊の方は愛想が良くて、まるで私たちが言ってることを理解しているみたいだったわ。
魔法に興味があるみたいで、魔法を使うとキャッキャッと笑うから、こんな率先してできる魔法を見せてたっけ。
いつの間にか、みんなの心を掴んでいたのを今でも懐かしく思い出すわ。
それにしても、なんでゆっくりしていてもいいのに、お手伝いをしようと、頑張るのかしら。嫌がらせだってやってたのに。って、ちょっとだけよ。そんなにやってないわ。
私は一度不思議に思って聞いたことがあったんだけど、
「精霊様が、一緒にお仕事したら仲良くなれるよって言った」
なんて言ってたわ。
まぁ、おつむも弱かったみたいだしね。
精霊様が色々教えてくれたり慰めてくれるからなんにも怖くない、なんて言ってたっけ。
うん、おつむが弱い子だったのよ・・・・
それにしても、迷惑な子達、だったのは間違いないわ。
だって、あの子達を狙って、強盗が押し寄せたんだもの。
旦那様の私兵の皆さんたちがなんとか追っ払ったけど、たくさんの人が死んだわ。
家も庭もぐちゃぐちゃだったし、押し入られた方なのにいろんな人から責められたみたいで、ご主人様も相当苦労しているもの。
それだけじゃないわ。
あの子達が失踪した。
気がついたらいなくなってたの。
そのあと、私兵の皆さんにも何かがあったようで、団長を務めていたゴーダン様はじめ、特に優秀だとされていた皆様が次々と辞められたの。
団長のゴーダン様は元々有名な冒険者で、剣も魔法も優れてらしたわ。有名人好きのご主人様が口説き落として団長に迎えたって聞いていたけど、なんていうか、怠惰な感じがしていたかしら。
でも渋くていい男だってのは、間違いないわね。
その副官のミランダ様も、誰よりも凜々しくて理知的で、男女ともに憧れていた人が多かった。彼女も一緒にいなくなって、使用人達の嘆きも凄かったわね。
ゴーダン様に憧れて追っかけてきたっていうかわいい男の子もいたわね。なんて言ったかしら?ラッセイ君、だっけ?
子供だけど、ものすごく腕が立つって噂だし、何よりいつも朗らかで、私兵団の皆さんに可愛がられていたようだった。
それになによりもヨシュア様。
言っては悪いけど脳筋の集団にあって、唯一の頭脳。
本当の意味での私兵のとりまとめ役。
私はメイド長として、また、使用人達の頭脳として、彼とは警備の面や旦那様の日程調整などでお話しする機会が多かったけど、いつでもやさしくおだやかで、微笑みながら目を見てお話しなさるの。ちょっとどぎまぎしちゃうけど、できるだけ威厳を持って接したわ。
でもね、私も罪な女ね。
あの笑顔は、私だけに向けられたもの。
きっと、彼は私のことが大好きだったんでしょうね。
目を瞑ると彼の私に対する愛情溢れる笑顔が・・・・ってやだわ、私ったら、道の真ん中で何を立ち止まっているのかしら。
オホホホホ・・・・
それにしても、私兵の要であるそんな4名がいなくなったあとは、さすがに旦那様も戦力不足を嘆かれたようです。
それでもお屋敷を襲った襲撃犯について、旦那様や私兵団の総力でもってなんとか調べたようですけどね。
ただそれも、解雇された4人がヒントを残していった、なんて噂をしている人もいるようですけど。
今は・・・・
その関係で裁判が開かれるなんてお話しが出ています。
ちょっとギスギスしたいやな空気が流れているんですよね、お屋敷は。
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