星に願いを
神子様が話してくれた恋物語。
牛飼いと織り姫様の恋物語は、とっても切なくて、遠く星の川を隔てた年に一度の逢瀬を楽しむ身分違いの男女のお話でした。
その年に一度恋人たちが会えるのが、七月七日で、これは神子様たちの世界の暦なんですって。
神子様は、記憶持ち。いわゆる前世を記憶している方です。
記憶持ちの人はそれなりの数はいるけど、神子様はこことは別の世界で生きた記憶を持ってるんだって。その同じ世界の記憶を持っていたのがエッセル神様。私たちが神の国と言ってるのは、その別世界のことなんだそう。
でも、やっぱりそこはエッセル神様や神子様のいた世界なんだから神の国に間違いはないよね。そんなの当たり前だと思うけど、何故か神子様はそれを否定されます。神の力を持つ神子様がいた世界が神の世界じゃないならなんなんだろう?
神子様の世界の暦は数字で表すそうです。
それで季節を合わせると、7の月は夏の真ん中の月なんだって。正解かどうかはわからないけど、神子様が勝手にそう決めたんだ、って言ってました。ちなみに春が3・4・5で、夏が6・7・8、秋が9・10・11、冬が12・1・2にしたって言ってました。
難しいことはおいておいて、神子様は前世の行事に合わせて7月7日に笹に願いを吊してみんなでお祈りしたいんだ、って言いました。
自分たちだけじゃなくて、せっかくだからパッデ村も全員でやろう、ってことにしたんだそう。本当に優しい神子様です。
そんなわけで、1家に1本の竹をそれぞれ手分けして持ってみんなで楽しく帰ります。竹取に参加していない家もあるから、その分も手分けして採ってきました。
最後に、村の真ん中にでっかい竹を飾ろう、ということになって、かなり大きな竹を1本。これは同行した村の力自慢のおじさんが2人がかりで担いでいます。
村に帰ると、あらかじめ説明されていたようで、短冊と呼ばれる、願い事を書く板が多数用意されていました。
村では簡単な文字も勉強できるし、字が書ける人は多いです。
それでも勉強が苦手で字が書けない人もいる。
けど、絵でもいいよ、って神子様。
みんな思い思いに字や絵でお願い事をかいて竹に吊していきます。
ふふふ。
お肉が大好きな人が多いですね。
字でも絵でもお肉がいっぱい欲しいって書いてる人がたくさん。
あとは恋人、かな?
家族?
あ、神子様の絵だろうな、っていうのもいっぱいです。かくいう私も・・・アワワワ・・・私は内緒ですよ。神子様の横で・・・なんて、願ったら・・・罰当たりでしょう・・・でも願うだけなら、ね。
短冊、だけじゃなくて、どうやらいろんな飾りもつけてるみたい。
神子様とお連れの方は、一生懸命、大きな竹に飾り付けをしているようです。
あ、それはなんですか?
神子様はどうやら笹の真ん中に切り込みを入れて、端っこを通し・・・ん、お船、ですか?葉っぱでできたお船です。
「すっごぉい。」
私が横で驚くと、ちょっぴり顔を赤くした神子様は、そんなことないよ、って否定します。
「うまくできてれば、川に浮かべて遊べるよ。」
そう言って、私にも教えてくれました。
他にも、余り布で鳥や人、兜を作って、作り方を教えてくれます。折り紙って言って本当は紙で作るんだけどね、なんて言ってます。
そんなことをしていたら、どんどん人が集まってきて、請われるままに、みんなにも一緒に教えていくの。せっかく二人っきりだったのに・・・
て、あれ?
私、神子様の横で二人っきりでお話しできてたよ。
さすが、神子様の伝えたおまじないです。私の願い、叶っちゃったかも!
もっといっぱいお願いしなきゃ。
私は、神子様にお礼を言って、慌てて自分の家の竹にお願いをいっぱいつり下げました。
家族のこと、私のこと、村のこと、そして・・・神子様のこと。
しばらくは村のあちこちで竹がゆらゆら、短冊がユラユラ。
なんだかいっぺんに華やかになった感じ。
これはとってもいいものです。
毎年夏の真ん中の上旬には、七夕祭りを行いましょう、もうそんな話で村は盛り上がっています。
ナッタジ商船団がやってきても、いつもお祭り騒ぎだけど、やっぱり神子様が降臨されると、お祭り度が違うね。大人も子供もみんなずっとワクワクし通しで、なんだか浮き足立ってます。
浮き足立ってる、って言ってもなんていうのか悪い意味じゃなく、フワフワと幸せな感じ。そうまさにこれが神の国、なんだろう。
神子様たち一行は、森に入って獲物をいっぱい獲ってきます。
凄腕の冒険者として有名なんだって。
村の人も獲ってくることはあるけど、敢えて探してまでは狩りません。
だから、ほんと、お肉がいっぱいで、みんな大喜び。
他にも、土いじり。
お茶碗を土で作って、竈で焼くんです。
村でも神子様に伝えられて壺を作って、蜂蜜を入れたりするけど、食器は木でつくるから、いろんな形に食器とかを作ってるのは珍しい。
神子様のお母様は、これを作るのがとっても上手なの。まるで魔法みたいにいろんなものができていきます。
実はね、ペンダントなんかも。
フフフ。
私は神子様のお母様ミミ様に神子様のペンダント、作ってもらっちゃいました。土でこねて形を作るんだけど、土って場所によって色が違うんだそう。パッデ村の近くでもいくつか違う土があって、神子様はミミ様のためにいろいろ集めてくれるんだ、って言ってました。
違う色を上手に組み合わせて、お人形もできちゃうの。
神子様のペンダントは、特に髪の毛が秀逸です。
小さな輝く色とりどりの石が黒っぽい髪の毛に散りばめられてるの。
これは、私の宝物にします。
ペンダントだから頭に輪っかがあって、紐を通せるようになっている。
独り占めはだめだから、ネコさん、チチちゃん、それにナオさんとか、一緒に習った村の女たちで、たくさんあとで作りましょう。そう言うと、ミミさんはニコニコして、神子様を作るのに必要な土をたくさん置いていってくれました。
夏の真ん中の上旬7日目。神子様の前世での七月七日。
祭は最高潮を迎えました。
毎日お肉をいっぱいたべさせてもらったのに、今夜もドォーンと、丸焼きです。
村の広場に、櫓を組んで、その中に短冊を吊した竹を入れちゃいます。
7日間風にさらされた竹は、随分乾いていてサラサラいってます。
「ダー、そおっとそおっとだぞ。」
「失敗したら火事になるから慎重にね。」
「小さく小さくね。」
「もう、分かってるって。僕だって火のコントロールは一番練習してるんだから!!」
フフフ。
神子様は、お仲間にいろいろ注意を受けてほっぺを膨らませています。
このあと、お願いを火にくべて、星まで届けるんだそうです。
「ファイア。」
小さく神子様が言うと、ボッと大きな音が鳴って、真ん中の大きな竹に火がつきました。
私も火の魔法を授かったけど、小さな火種を起こすのが精一杯。神子様は本当にすごいと思う。
「あーあ、炭になったよ。」
「でも、燃え広がってないからセーフでしょ。」
なんて、お仲間とわいわいやっている神子様。
火は徐々に他の竹にも広がってやがて櫓の中はパチパチと想像以上に燃え始めました。
竹は燃えるときに危ないから、櫓は土魔法でしっかり固めてる、そうです。
ものすごい音と、赤い炎が、ときおりブワッて広がって、村を、夜空を駆け上がります。
すっごくきれい。
火は怖いものだって思ってたけど、こんなにもきれいなんですね。
まるで神子様のよう・・・
火が大きくなると、笹でくるまれた獣まるごとが、ドォーンとその中に放り込まれました。
肉の焼かれるいい匂いが、村中に広がり、みんなのお腹も大合唱です。
願いを書いた短冊も、炎に焼かれ、やがて、夜空へと舞い上がる。
届け。
みんなの願い。
遠く、星の彼方へと。
最初にくべられていなかった竹も、次々に炎に放り込まれます。
みんな、自分の願いが星まで届けと、キラキラした目で煙を追います。
ヒラヒラヒラヒラ・・・
炎を見つめる私の手元に、一枚の短冊が。
どうやら一番大きい竹の、そのてっぺんに付けられていた短冊が、炎を逃れて私のところへやってきたのでしょう。
その短冊には、愛しい愛しいやさしい文字。
一緒に短冊を書いていたから、これは神子様の文字だってすぐに分かりました。
いっぱいお願い書いてたから、1枚ぐらいいいよね。
私は誰にだか分からないけど言い訳しながら、その板をそおっとポッケにしまいました。
これは一生の宝物にしよう。
そこには愛しい文字で優しい言葉が。
『ずっとみんなと笑っていられますように。アレクサンダー・ナッタジ』
< 完 >
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