神子様の降臨
村で生活していると、暦っていうのは大事です。
これもエッセル神様が教えてくださったことなんだって。
米や、植物を育てるのはある程度暦が重要なんだよって、教えです。
暦というのは、大きく4つに別れます。
春夏秋冬。
そしてそれぞれが、3つに分かれる。
始め、真ん中、終わり。
そしてさらにそれが3つに分かれる。
上旬、中旬、下旬。
1旬は、手の指の数と同じ10日なんです。
でもたまに11日の時もあって、それは国が発表します。
詳しくは分かんない。
でも時々、トゼへと買い出しとか、販売とか、そういうことのために行く人が、今はどの日なのか、って確認するようにしています。
神子様は、本当は太陽の周りを大地がゆっくり回っていて、それが1周するときにもとの暦になるんだ、と言ってたけど、正直大地が動くのは信じられません。でも神子様が言うから本当なんだって思います。だって、この大地がゆっくり動くのに私たちが気付かないのと、神子様が巨大な蜜の板を持ち上げるのは同じ理屈なんだ、って言ってたから。どうお同じなのかは聞いても分からない、神様並みの賢さがなければ理解出来ないことなんだと思うの。
そして今日は夏の季節。
夏の始めの季節の下旬になりました。
そして、またまた降臨のお告げ。
神子様は、大きな商会の御曹司で、冒険者なんだそうです。
神様なのに不思議?と思ったけど、エッセル神様も商人で冒険者だったんだそう。神様とはそういうものなんでしょうね。
それで、御曹司である神子様の手下のみなさんは、いろいろな恵みをもたらしてくれます。そして代わりに神子様の欲しいものを持って帰ります。
神子様がどんな風に私たちの作った物を喜んでくれたか、手下の皆さんはいろいろ教えてくれて、また、神子様がどんな活躍をしたかも教えてくれて、私たちにとって、手下であるナッタジ商船団がやってくるのはとっても楽しみなことなんです。
先日7歳になってすぐ、神子様は人族の大きな国の王子様になったんですって。
王子になっても全然変わらなくてひやひやする、なんて手下の人達は言ってます。
みんな神子様のことが大好きで、失敗談も面白おかしく話してくれるの。
そんな手下の皆さんから聞いたのは、どうしてもって神子様がごねて、冒険者パーティ宵の明星全員で、パッデ村に来たい、って言ってるそうです。
よく分からないけど、星をみんなで見てお願い事をする、のだそう。
みなさん困ったような顔をしてたけど、私としてはご降臨、大感謝です。
そして、夏の初めの季節下旬の最終日、ついにエッセル号に乗った神子様はいらっしゃいました。
「ダー君よく来たね。パンケーキを焼くから楽しみにしてね。」
そう飛び出したのはネコさん。
ネコさんは村長の孫で、この村一番の魔法の使い手です。
あ、それっておかしいよ、と思う人は多いと思います。
だって、この村は獣人の村。
ちなみに私も当然獣人よ。
だけど、魔法が使えます。
獣人が魔法?なわけないでしょ。普通ならそう言うよね。
だけど、ここパッデ村は神子様降臨の地だよ。
初めて訪れたときに神子様は獣人も魔法を使えるはず、使えないのは環境だ、なんて仰って、魔法の使い方を教えてくれたの。使えるようになったのは手下の人達に教えるように、って神子様が言ってくれて、その方たちがやってくれたんだけどね。
でも出来る、って神子様が言ったから私たちは信じることができて、信じることが出来たから、魔法が使えるようになったんだよ、そう、偉い手下の人が言ってました。
おかげで、今や、獣人の村にもかかわらず、何人もの魔法の使い手がこの村にはいます。時折やってくるナッタジ商船団の人達はいろんな魔導具をサンプルです、って言いながら置いていくけど、これが使えるのも魔法の使い手がいるからなのよね。
ちなみにこの魔導具、ほとんどは神子様のアイデアが産んだもの、なんだって。それと、サンプルっていうのは、使って感想を言ってもらうために置いていく物っていう意味だそうで、使い勝手の感想を言うだけで、もらえるの。
はじめはみんな恐縮してたんだけど、いろんな意見はお金に換えられない、っていうのが神子様の絶対のご意見で、それは本当なんだそうです。神子様の国では、このやり方も特許っていうのを持ってて、真似したら神子様にお金が入るような仕組みになってるそうです。
王子様でお金持ちで、商人の御曹司で冒険者。どこまでも立派な神子様です。
そんな立派なはずの神子様なんだけど、ネコさんのパンケーキって話で大喜び。
「ヤッター!」
って文字通り飛び上がって、そのままネコさんに突進しようとして、手下の人にシャツをつかまれ、グエッて変な声を出してました。
「まずは挨拶だろ。」
そう言って、頭を押さえつけられて涙目の神子様。尊い・・・・
私は、ネコさんに呼ばれて神子様の下へ。
なんとなく魔法を授かった私たちは神子様の近くに侍れます。
「あ、レレさんもよろしくね。」
うわっ、神子様、私の名前を・・・・
感激で涙が溢れます。
それを見てアワアワしてる神子様も・・・尊い・・・・
「あ、僕のママです。」
とってもきれいな人族の女の人。
ママって言ってるけど、まだすっごく若く見えます。
え?20歳?
私たち獣人なら普通だけど、人族としてはすごく早くない?神子様、もう7歳だよね?
でもそういうことは聞くのは失礼なんだ、って知ってるので、口には出さないようにしなきゃ。
そんなことを思っていたら、魔法を使える子だけじゃなくて、いつの間にか村中を走り回って子供たちを集めてきた神子様。
私より村の子供たちと仲よしかもしれないです。
特に手を繋いで引っ張って来られた、恥ずかしそうにしているモネちゃんには、ちょっとうらやましい、って思って、睨んじゃったかも。
ダメダメ。
神子様はみんなの神子様なんだから。
やさしい神子様は遠慮していた農師のモネちゃんも一緒に楽しみたいと思ったんですよね。
「ダー君。どうしてもこの時期には来たい、って言ってたってきいたけど、何かあるの?」
その疑問は、今最大のみんなの関心事です。
ちょっぴりお口に蜂蜜をくっつけながらパンケーキを食べていた神子様。
ネコさんの質問と、みんなの好奇心いっぱいのまなざしに、少し照れた表情をされています。
ちなみにほとんどの子供たちはみんなで神子様のことを【ダー君】ってよぶことにしてます。
あのね、ダー君は神子様って呼ばれると、ちょっぴり悲しそうな顔をするの。
「僕は普通の子なんだよ。」
って、寂しそうに言います。
だからね、女の子で決めたのは、神子様はやめようって。
でね、ダー様とか言ってたけど、それもちょっと悲しそうな顔をされる。
誰かがダー君って言ったら、とっても幸せそうに笑ったの。
だったら、って女の子みんなでダー君って呼ぶことにしたんだ。
そうしたらほとんどの男の子もダー君って。
たまにダー、なんて呼び捨てにしちゃう子もいるけど、心優しい神子様は、笑顔を向けてます。さすがに私は無理。ダー君ってよぶことにしてるの。
そうそう。
君付け、って、本当は男の子に対してよく使うんだけどね、この村では君は神子様だけのものにしました。
だって、ほかの男の子に神子様と同じ敬称なんて付けたくなかったんだもん。
今では男女ともちゃんかさん付けになってるの。
このことは、ダー君には内緒、だよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます