受験。そして・・・
タクテリア聖王国へ行きたいなぁ。
13歳になったラッセイ。
騎士になるか冒険者になるか、進路もそろそろ本気で考えなければならないお年頃。
あいも変わらず、勉強嫌いの剣術好き。
すでに、タッセイではほとんど負けることのない腕を身につけたラッセイだったが、噂に聞く『夢の傀儡』はこんなもんじゃないだろう。
特に最近お気に入りはAランクとなったという噂の『弾刃爆滅』。
見習いの頃から名を知られたその少年は、今や世界で100人もいないと言われるA級だ。20代でのA級なんてもはや生きた伝説で、彼の噂をギルドで集めるのが、ここ何年もの日課となっている。
ただ、何があったのか、夢の傀儡が活動をやめた。
ラッセイはどうしても夢の傀儡がどうなっているのか知りたくて、弾刃爆滅の行方が知りたくて、タクテリア聖王国へ行くことを望むようになっていた。
そんなラッセイに兄が教えてくれたこと。
タクテリア聖王国には国立の騎士なんかを養成する養成校がある。
ここは、自国の貴族ばかりではなく、広く世界中から、そして、なんだったら身分すら関係なく、受け入れてくれるらしい。
本当だったら治世者養成校に行って欲しいけどね、まずは騎士を養成する剣使養成校に行ってごらん、そう兄に言われて、ラッセイは、その提案に乗ることにした。
一生懸命に試験に真面目に打ち込むようにね、家族から暖かく送り出されたラッセイ。
実技試験が中心だから、得意ではない座学が少々ダメでも大丈夫、そう聞いての受験だった。
「ラッセイ・ダーネイリ、セメンターレ国の子爵令息だね。よく我が国にやってきてくれたねぇ。この学校では他国の貴族は大歓迎だ。人脈と国を超えた友情作りに励んでくれたまえ。さぁ、今からは実技。遠慮せず君の持つすべての力を我々に見せてくれ。なぁに、勝つことが合格の条件じゃないからね、誠心誠意全力を出してくれればいい。」
そんな試験官の言葉に、さすがは勇者の国、大国だ、と頷くラッセイ。
だから、一切の忖度なく全力で、全身全霊かけて剣を振るった。
カキン!!
最初の一太刀。その一太刀で試験官の剣が大きく弾かれる。
あれ?
試験官は青い顔をして、飛んで行く自分の剣を眺めている。
「あの・・・」
「あ。そのなんだ・・・想像以上に、君、強いね。油断して、緩く構えてしまったよ。失敬失敬。」
ハハハ、と笑う笑いが、なんか引きつっているような気がするが・・・
どうしよう、えっと、終わり、とか?
そう心の中で首を傾げていると、2人の男女が、慌てて試験会場に入ってくる。
コソコソと、今、相対していた試験官に耳打ちし、3人でしばらくなにやら話し合っていたようだが・・・
「では、今から本当の試験を始めます。」
後から来た女の試験官が、そんな風に言ってきた。
本当の試験?
「今、君は合図の前に切り出したからね。本当は3人の試験官が揃ってからじゃないと斬りつけちゃダメなんだよ。」
後から入ってきた男の試験官は、まるでラッセイが物を知らないかのような言いようで、そう諭した。
「そうだったんですか。」
なんだ、試験官は3人なのか。誰と戦うんだろう?
なんかよくわからん、そう思いながらも、頷くラッセイ。
すると、もといた試験官含め、三人がラッセイに向き合って剣を構えた。
「え?3人相手?」
そう驚くラッセイに、問答無用、と、一斉にかかってくる3人。
慌てて、その剣を順番にいなし、はじき、懐へと入り込むラッセイ。
何度か打ち合い、そして離れてはまた駆け寄る。
さすがに剣士を教える者達、だが・・・・
お互いに、決め手なく、睨み合うこと、数回。
「いつまでやってる!」
そのとき、大きな声が試験場を震わせた。
試験官のうち2人が、その声に反応して、声の方を見る。
その隙を見逃すラッセイではなかった。
速攻で二人の意識外から斬りつけて大きく剣を弾く。
その様子に驚いて、1歩下がったもう一人に上から大きく剣を打ち付け、剣を手放させることに成功。
一瞬のうちに武器を失った試験官3名。
「そこまで。」
小さく、最初からいた試験官がつぶやいた。
試験は・・・・不合格。
なんで?
座学は2の次。実技での成績だったはず。
3人相手に辛勝とはいえ、勝った自分が、不合格?
が、仕方ない。
国に帰るか?
13歳。まだ未成年の身では、まともに働くこともできないし。
やむなく帰国したラッセイは、さらに剣の勉強に励み、15歳、成人。
諦めきれず、武者修行の旅と称して、自国を巡りつつ、再びタクテリア聖王国へ。
魔獣を狩り、盗賊を狩り、小銭を稼ぎながらの、物見遊山。
そんな生活を続けていた16歳のあるときのこと。
あこがれの『弾刃爆滅』が今は請われて傭兵をやっているという。
ラッセイは、迷わず、その貴族の門を叩いた。
そして、無事傭兵として雇われることとなる。
あこがれの人の部下になる、その夢が叶った瞬間だった。
その人と、パーティを組んで冒険者として名を馳せるのは、また別の話。
そして、その人よりもなお心を震わせる存在と出会うのも、また別の話。
(完)
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