少年ラッセイの夢

 ラッセイは母親譲りの容姿と、その明るい性格で、家族からも使用人や父の部下たちからも、大層可愛がられて育った。

 側室の子、といえど、誰も馬鹿にする者はいない。

 そして、教育も兄姉たちと同じように、立派な家庭教師があてがわれた。


 が、残念ながら、というか、ラッセイは生憎と勉強は好きではなかった。

 そもそもジッとしていられない子で、その分、運動神経は騎士団長も驚くほど。

 「坊ちゃんは、立派な騎士になって、兄上たちのお役に立ちそうですなぁ。」

 そういう騎士たちに、ラッセイは決まってこう答えた。

 「兄上たちのお役に立ちたいのは立ちたいんだけどね。僕としては、冒険者になりたいんだ。」

 「ほう、冒険者ですか。叔父上様は、すばらしい冒険者だそうですなぁ。」

 「うん。でも、僕の目標は違うんだ。僕の夢は『夢の傀儡』に入ること。ねぇ、知ってる?夢の傀儡ではまだ未成年の男女が、すごい剣技や魔法を使って、魔獣を狩りまくるんだよ。すごいよねぇ。」


 ラッセイは叔父ノーザンが帰って来る度に、冒険の話をせがんだものだった。

 特にお気に入りは『夢の傀儡』。最近流行の謎のパーティだ。

 なんでも、リーダーは剣も魔法も凄腕の商人、だそうだ。

 そしてその商人に従うのがS級の魔導師とかいうから分からない。

 他にもS級ドワーフがいるかと思ったら、見習いの子供たちをぞろぞろ連れている。

 何がすごいと言って、見習いの子供たち。

 まだ未成年なのに、グリズリーレベルを一人でひょいひょい倒すんだ、と、ノーザンは身振り手振りで面白おかしく話してくれた。


 気がつくと、少年ラッセイの夢は冒険者、しかも夢の傀儡になることだ、なんていう始末。


 「立派な冒険者ってのはなぁ、魔物をやっつけるだけじゃねぇ。困ってる人々を助け、未知に挑み、夢を追いかける命知らずをいうんだ。いいか。冒険者でも騎士でもなんでもいい。お前は強くなる。だがな、強ければ強いほど人に優しくあれ。いいか強いからと暴力で弱い奴をしたがわそうなんてのは、実は弱っちい奴だ。本当に強い奴は誰よりも優しいんだ。お前の大好きな夢の傀儡のエッセルって男はすごいぞ。一見優男で強そうには見えないがな、弱そうな奴をカモにしている奴を見るとなニコニコしながら飛び込んでいくんだ。『僕の方が彼より強いから、けんかするなら僕との方がわくわくするよ。』ってなぁ。俺は見たんだ。あれは驚いたなぁ。やつは簡単に体重が自分の2倍もありそうな奴にそう言うと、殴りかかってきたそいつを簡単に伸しちまいやがった。それでな、なんて言ったと思う。はは、ありゃ傑作だ。『相手が弱すぎて僕の方はちっともワクワク出来なかったよ。』だとさ。そのあとも傑作だったなぁ。メンバーのガキどもに、説教されてしょんぼりしてやんの。どっちが子供かわからんねぇ。」


 何度も聞いたノーザンのその話。

 少年ラッセイの夢は冒険者になって夢の傀儡に入れて貰うこと。

 強い剣士になって、ワクワクするような冒険をいっぱいすること。

 弱きを助け強きをくじく。

 「僕は誰よりも強くて、誰よりも優しい冒険者になるんだ!」



 ラッセイは8歳になると、魔法の通り道を通すことになった。

 その赤銅色の髪から、魔力は多いと期待されたとおり、火の魔法を使えるようになった。

 魔導師になることも勧められたが、やはり好きな剣を極めたい。

 その頃になると、普段の稽古の剣術だけでなく、パーティを解散してギルドの副ギルド長となったノーザンにも冒険者式の剣を習っていて、同年代では向かうところ敵なしの状態になっていたからだ。


 ラッセイの魔力量は、充分なものではあったが、問題もあった。

 騎士として魔導師を名乗るには、理解が足りなかったというのもある。

 ラッセイの魔法は手のひらやせいぜい腕の中に収まる程度でしか発動できなかった。

 火を飛ばすような魔法には術式の理解が必要だ。それを覚えて理解するだけの時間を魔法に使うなら、1回でも素振りをしたい、そういう子に育っていた。

 だから、焚き火を起こすことは可能だし、母のために竈に火を熾すのは得意だが、それ以上の鍛錬を拒否。

 それを大人たちに認めさせるだけの、剣の才能があった、ともいえる。


 ラッセイは、今日も今日とて、剣の稽古をお願いしに、町の冒険者ギルドを訪れるのだった。

 

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