ラッセイ少年の歩み

ラッセイの生誕

 「玉のようなかわいい男の子です。」


 主治医についている弟子が、部屋を飛び出して、リビングで知らせを待つ、この家の当主の下へと報告をした。


 「ほう、男の子か。よくやった。」

 カイゼルひげをくりくりしながら、当主は言う。

 子供も5人目ともなれば、慣れたもの。

 女の子の方が、戦略的には好ましいが、3人目の男の子、かわいいリーライの子だ、のびのびと育てよう。兄たちの力になれば良し、そうでなくとも、まぁ、子供が多いのは良いことだ。リーライの子だし、きっと器量も優れているだろ。将来、婿としてどこぞにやってもいいかもしれん。

 そんな風に皮算用をしつつ、自分の子を産んでくれた側室のもとへと向かう。

 この男、名をジークン・ダーネイリ。セメレンターレ国の中でも北部に位置するパーメイ領第2の都市タッセイとその周辺地域を代々、代官として任命される一族の長である。


 「おぎゃあ、おぎゃあ・・・」


 部屋へ入ると、元気に泣き声を上げる我が子に目を向けた。

 「おお、これはこれは。間違いなく女たらしになるぞ、ハハハ。」

 医者が抱くその子は、産まれたばかりだというのに、もう顔がはっきりしている。大きなクリッとした瞳は時折開くと、磨き上げた真鍮のようにしっかりと輝き、うっすらと巻き毛だろうと連想する髪は、ランタンの光を受けると、キラキラと赤い輝きを反射していた。


 「この髪だと、立派な魔導師になるかも知れんなぁ。美丈夫の魔導師か。こりゃ引く手あまただぞ。」

 ハハハハ、と笑う夫に、

 「もう、旦那様ったら、気が早いですわ。」

 ベッドの上で憔悴しながらも、幸せを溢れさせている、美しい側室が、そんな風に注意はしつつも、まんざらでもないようだ。


 そんな夫婦の幸せを感じたのだろうか、泣いていた子もいつの間にか泣き止んで、何かを掴もうと、両手両足を振り回していた。


 北の大地にもようやく新芽が眩しくなってきた、ある初夏のできごとである。

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