息子のやらかしと、儂の対策
息子を屋敷に戻した後も、報告だけは受けていた。
抜け出して、近くの村やダンシュタの町に出ては、フラフラとしているようだった。
勉強で座っていることが出来ない、という報告を受けたときはさすがにため息が出たが、なに、優秀な番頭を使える力量さえ付ければ良いだろうと高をくくっていた。
どうやら息子には多数の子分とでもいう者がついているらしく、わざわざダンシュタからやってきては、なにやら連んでいる様子。人望があるなら喜ばしいことだ。たとえ金が目当てだろうが、それだけ寄ってくるということは、金の使いどころが上手いという証拠。息子は商人の才能に長けていると言って良い。
そう思っていたのだが、5,6日もすると、報告内容が変わってきた。
はじめは商売女にそそのかされたようだった。
乳が大きいだけの、その年増女に、息子はたぶらかされ、女を知ったようだ。
まぁ、それだけなら問題ないだろう。商売女なら病気にだけは気をつけさせねばならんが・・・
そう、監視の者に命じて、放置していたが、どうやら一度女を知って、たがが外れたようだった。
昼夜問わず、ダンシュタに出かけては、好みの女を見つけて、空き家や路地裏に引っ張り込む。強引に事に及んでは、笑えと、自分の頭を撫でろ、と、命じて、従うまで暴力を振るう、を繰り返しているようだ。
「奥方様の面影がある者達が被害に会っているようです。」
そんなふざけた報告もあったが、そんなのは関係ない。
とにかく監視の者に、被害者へ金を掴ませるように命じ、儂は尻ぬぐいを行っていた。同時に憲兵への心付けも忘れない。このダンシュタでこの程度で儂に文句を言う者もいないだろう。なぁに、一時のこと。はしかみたいなもんだ。そのうち息子も飽きるだろう、そう思っての事なかれ主義ではあった。
が、そんな日々が、半年も続いただろうか。
儂はザンギ子爵へと呼び出されたのだ。
「お前の息子がやりおったぞ。」
子爵は苦虫をかみつぶしたような顔で、そう言った。
「娘を犯そうとして、自害されたそうじゃないか。」
儂もそのことは知っていた。
どこぞ他の都市からやってきた商家の娘、というのがまずかったようだ。
ことの及ぶ前だったということもあって、物取りの犯行に見せかけて、路地裏に捨てた、と聞いてはいたのだが・・・
「被害者が領主まで訴え出てな。とりあえずはお前が作った通りすがりの物取りという線で押し通したが、何度も通じるもんではない。領主派の憲兵にもそろそろ勘づかれそうだし、なんとかせよ。」
憲兵、というのは、都市内の警邏をする守護兵だ。
その所属は一応は領主のものとされているが、各都市の代官が、各領地では組織のトップにあたる。当然任命権はじめ人事権は一時的には代官が持つ。
しかし、その昔、長年同じところでこういう仕事につくと、地域の有力者との癒着などの問題が起きる、などと言って、特に上級の者の定期的な移動を推奨したバカがいた。領主どころか王家にも顔がきく、前会頭だ。
とくにこの領の領主とは仲が良かったらしく、憲兵の半数から3分の1は、領主から直々派遣されていて、現地雇用の役目も担っている。
だから、すべての憲兵が思い通りに動くわけではない。
まぁ、実質のトップは子爵の子飼いだから、ほぼほぼ思い通りではあるが、領主派に主導権を渡すようなことがあっては、今後色々やりづらいのは確かだ。
儂はなんとかせねば、と、頭を悩ませつつ、帰途についたのだった。
幸い、というか、息子は、先の事件で、目の前で自害されたショックで引きこもっていた。
だが母の喪失を埋めていた行為である以上、再発は考えておくべきだろう。
そう頭を悩ませていた折、とある報告を受けた。
井戸で水浴びをしていた我が家の女奴隷を、息子が襲った、というのだ。
我が家の奴隷だと?
家畜と寝起きをしているために、みんな薄汚れているが、そんな汚いヤツらでも息子はいいのか?
その日、儂は息子を呼び出して、真意を問うことにしたのだった。
「おまえ、奴隷を襲ったらしいな。」
「奴隷?あの女、ですか?そうか、あれは奴隷だったのか。」
「よくあんなきたないものに触れられるな。気がしれん。」
「水浴びをしていましたから。それに・・・」
「それに、なんだ?」
「小ぶりの乳が、ママにそっくりで、とても愛おしいと思ったのです。」
「ふむ。」
「この前、屋敷の敷地を散歩していて気付いたのですが、小ぶりの乳の女がたくさんいました。あれらは奴隷なのですか?」
「家畜小屋に住んでるヤツらか?あれは奴隷だ。儂の持ち物だ。」
「時折で良いのです。あれらで俺を癒やしてもらえないですか。そうすれば、俺、勉強も頑張るよ。」
「んー・・・」
「立派な跡継ぎになる。だから・・・」
「どんなやつがいい?」
「・・・反抗せず、優しいのがいいです。ママみたいに俺を包んでくれる人。」
「あれらは人ではない。」
「奴隷、でしょ?いなやはないはず。優しくしろって命じたら優しくしてくれる。頭も撫でてくれるよね。」
「・・・1つの季節に1度だ。」
「いいの?」
「それと、湯浴みをした者以外は触ってはならぬ。これが守れないときは、即刻中止だ。女は、儂が選んでやる。」
「ほんと?やったぁー!」
喜び勇んで退室する息子を見て儂はやれやれ、とため息をついた。
それと同時に自分の思いついたアイデアに、感心したものだ。
やつに与えるのは、子供がいい。初潮を迎えて次の指定日。
子供を産める身体になった褒美として、屋敷での滞在許可を与えよう。
その際、湯浴みをさせて、簡単な衣服を与えよう。
食べ物も与え、息子の慈悲を与えると言って送り出せば、これは立派な祝いの儀だ。祝いの儀なんてものを奴隷に施してやる、なんと儂は心優しい飼い主か。
時には妊娠する場合もあるだろう。奴隷の子は奴隷。儂の資産が増えるということ。善きかな善きかな。
子爵の命令への対応と、息子の満足、資産の増加。
一石二鳥どころか三鳥だ。
やはり儂は天才だ。
この作戦ははまり、息子も落ち着き、儂の繁栄はさらに大きくなっていった。
跡継ぎ問題すらも、儂の頭を悩ませることは、何もない。
息子もあれから多少は勉強をするようにもなったし、人の扱いは本当にうまいもんだ。
奴隷が子を産み、けっこう死にはしたが、それでも育つ者はそこそこいた。
結構結構。
資産は増える。
増えたと言えば、笑いが止まらなかったできごともあった。
あれは2年ほど前だったか。
通りがかった領都の子爵がうちの奴隷親子に目をつけた。
二人を購入したいという。
思わぬ金が手に入り、この作戦は実は一石四鳥だったのかと、ほくそ笑んだものだ。
思えばあれが、最高潮か。
いや、あのあとも商会は順風満帆。
儂が天才だと、誰もがほめそやしていたはずなんだが・・・・
どうしてこうなった?
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