卒業と・・・

 それから1年。

 卒業後の進路をどうするか。


 あの1年前の事件の後、ティーゼは魔法学園から姿を消した。


 しばらくして、父親から手紙が来る。

 2度と町に戻るな、と。

 そして、家族もみんな町を出るから、と。

 

 権力者を敵に回せば、そこに自分たちの居場所なんてない。家族に申し訳なくて泣いた。謝りたくても、今家族がどこでどうしているのか。ネリアの下にその連絡が来ることは無かった。



 そして1年経って卒業が目前に迫った頃。


 ミネルヴァは、さらなる勉強をするために、王立の魔導師養成校を受験するのだという。

 「お前も、共に行くのだろう、ネリア。」

 ミネルヴァが当然のように言う。

 ルークは、冒険者になるのだという。

 両親が冒険者。その見習いとしてすでに登録を済ませた。

 「ネリアが冒険者になりたいなら、お金は用意するよ。」

 ルークが言う。

 そう。

 無料で育てて貰ったこの学園。指定された進路を採らないと、それなりの金銭を払う必要がある。

 ネリアは、その真摯な魔法への向き合い方が評価され、ミネルヴァをのけて魔導師養成校への推薦を貰ったのだ。評価のポイントはひとえにその研究熱心さ。

 基礎を磨き、しっかり学び、先達を承継する。

 安易な力の会得は怪我のもと。


 後で分かったことだが、ティーゼの杖は特注品。

 いくつもの魔法陣を組み込んで、無理に許容以上の魔力を収集強化し、属性を付与。あれ以上の使用は、魔導師の命を奪いかねない代物だったとか。そう。いずれ魔力を過剰に奪うか、扱いきれない魔法によって杖が爆発するか、それとも術者に魔力が逆流入するか。

 どっちにしても、努力もせずに手に入れた扱いきれない力だった、そうネリアは思った。そして、それを反面教師にこつこつと反復してきた、それが認められての魔導師養成校推薦だ。

 そしてこの推薦を蹴ることは、指定進路を否定することになる。要求される金銭をネリアは払う術はない。ルークはああ言ってくれてるけど、人の好意を当てにするなんて、誰かに頼るなんて、自分には絶対ムリだ。

 だったら、この推薦を受けるしかないのかな?


 「別にイヤなら、すぐに家に入っても良いぞ。」

 なんのこと?

 意味不明なミネルヴァの発言に、心底疑問を持つ。

 「どうせ養成校を出たら僕の側室になるんだ。今からそうなってもかわらんだろ?」

 ?

 何を言ってるんだろう。

 そりゃ、たまに、行くところがなければ僕が養ってやる、なんて、言ってきてたが、彼特有のジョークだろうと、笑い飛ばしていた。

 「だってそうだろう?庶民がわざわざこんな所に来る目的なんて、玉の輿狙い、に決まってる。わかってるさ。初めっから僕狙いだろう?両親も2属性持ちの側室なら庶民でも構わない、と認めているんだ。」

 「ちょっと待って。私は側室なんて、まっぴらご免よ。」

 「ああ、ネリア。そこは理解してくれ。僕だって正室にしたいのはやまやまだけどさ。やっぱり身分の壁ってのはあるんだ。だが安心して欲しい。僕らの子供はきっと立派な魔導師になる。そうすれば、次期当主だって夢じゃないさ。」

 「あんた、馬鹿なの?冗談じゃない。誰があんたなんかの物になるって?あのね、私は身分を笠に着る奴も、それにへこへこするやつも、大っ嫌いなの。あんたの嫁になるぐらいなら、一生一人でいるわよ。」

 「・・・まさか、ルークが狙いか?」

 「だから何言ってるの?」

 「ティーゼに聞いてるんだ。貧乏人の子が這い上がるために、男を捜しに学校へ来たんだってな。」

 「ちょっ、いくらなんでも失礼だろ?ネリアに謝れよ。」

 「冒険者風情が偉そうな口をきくな。」

 「ここじゃ、身分は関係ねえ。」

 「ああ今はな。だが直に卒業だ。立派な身分社会が待ってるぜ。」


 身分を笠に着る奴。身分にへいこらする奴。ああ、私はそれが嫌いだ。

 父が、ティーゼの親にへいこらしていた、あの姿を見て反吐が出た。

 絶対にこうはならないと、何かに誓った。

 立派な魔導師になると、あこがれのジョッチェを見て誓った。

 もし、推薦を受けて、養成校に入ったら、ミネルヴァみたいな奴がいっぱいいるだろう。庶民だと蔑むお貴族様。

 魔導師は国や貴族、組織に仕えるのが普通だけど・・・

 あとは研究者になる、のか・・・

 でもなんか違う。

 自由に生きたい。

 誰からも指図されない、そんな生き方がしたいなら・・・


 冒険者?


 ルークを見て思う。

 ルークから聞かされた冒険譚。

 知らない町、知らない人。

 どこに行くも留まるも自由で。

 高ランクになれば、そこらの貴族より優遇されるらしい。

 魔導師は重宝される。

 ネリアぐらい優秀な魔導師は、そうそういない。

 そんな風に朗らかに言われたら、そうなのか、なんて思ってしまう。


 冒険者。

 どこへでも行ける。

 そうだ。

 一つ行きたいところがある。


 他の国には、火を吹く山があるのだという。

 図書館で見つけた地質学の本。

 土魔法をなんとか工夫できないかと読んでいた本だけど、そこで見つけた火を吹く山の話。

 火を吹く山を見れば、氷魔法みたいに新しい魔法がつくれるんじゃないか。

 だって、土である山、そして火がいっしょにあるんだから。


 「火を吹く山、それを見てみたい。」

 ぽつりと言うネリア。

 「?火山?僕、見たことあるよ。その時は火は吹いていなかったけどね。」

 とルーク。

 「なら、両親の見習いになって、火山を見に行くかい?」

 「でも、私お金がないわ。ルークに貸してもいたくもないし。」

 「だったら、支度金は?」

 「支度金?」

 「そうさ、優秀な魔導師は引く手あまただからね。母のパーティだって2属性の向上心旺盛な魔導師は喉から手が出るほど欲しいのさ。それこそ支度金をたっぷり出して迎えたいぐらいにね。」

 ルークは、そう言うとウィンクした。



 そして、卒業。


 無事わたしはルークの母がリーダーを務めるパーティに入った。

 未成年のうちは見習い冒険者。私はルークの父の見習いになる。彼もルークと同じ土魔法の魔導師。2属性持ちの自分を大喜びで迎えてくれた。

 ルークは自分の母の見習いだ。

 ルークが大げさに言って私を助けてくれたと思ってたけど、全然違う、とその母親は豪快に笑った。この子が魔法学園に行って、一番の収穫はネリアを連れてきたことだよ、そんな風に言ってくれる。

 私は支度金という名の大金を貰い、それで、学費を完済。プラスで装備を調えることまでできた。


 卒業。


 そして私は旅に出る。

 新しい魔法に出会う旅。

 知らない国へと、知らない人へと、出会う旅。


 こうして、ネリア13歳。冒険者の道を歩み始めた。



 その後、火と土からマグマの魔法を完成させ、虐殺の輪舞へと加入する。

 が、それはまた、未来の別の話・・・


                      (完)

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