愛の巣魔法学園

 そこは、王都の一角。

 王都に入ると、大きな山が見える。そのてっぺんには王城。

 そしても水路で結ばれたその山の中腹には、王立(厳密には違うのだが)の魔導師養成校もある。

 ただ、それは貴族とか有力商人だとか、特別にすごい人に見いだされた子弟が入れる特別な中でもさらに特別な人達が通えるのだという。


 でも、私が入ったこの学校だってすごい学校だわ、と、ネリアは思った。

 この学校の子供たちは、みんなネリアのように、学校関係者がスカウトしてきた魔導師になれそうな子供たちで、少数精鋭の教育が施されるのは、馬車で誰かが言っていたとおり。ここで数年学んだ後で、あの王立の魔導師養成校に推薦で進むことも出来るという。そう、庶民からは高嶺の花と思われるあの学校のプレスクールの役割すら持つこの手の学校は意外と多いのだとか。そのほとんどがお金をとって養成するのに対し、この学校はすべて寄付や国からの補助金で成り立っている。

 多くの優秀な卒業生は、進学の他、貴族や有力商家に雇われることになる。またそれがイヤなら、指定の金銭を払って免除して貰うということも可能。そうやって実家に帰ったり、または冒険者になる者もそれなりにいるのだという。


 愛の巣魔法学園。

 それがネリアの通う学校の名前だ。

 特に全寮制というわけでもないが、ネリアたちのように地方から来る者がほとんどであるから、ほぼ全寮制みたいなもの。

 学校といっても、小さな平屋建ての建物が一つ。

 中は、大きな講義室が1つと、小部屋が複数。

 だが、敷地は広い。

 その広い敷地の中には、厩舎もあれば、畑や、また、彼らの寮もある。

 ある程度の範囲魔法が練習できるようにと、だだっ広い敷地が用意され、時に連れてこられた魔物が放たれて駆逐の実習までできる。

 王都に数ある魔法学校の中でも、その敷地は有数だといえるだろう。


 やっぱりすごい。

 ネリアは、集められた子供たちを見て、また、そんな風に思った。

 同期、といえるのか、この秋の季節の入学生として集められたのは、ネリアやティーゼを入れて7人。

 話によると、下級貴族の娘だとか、どこそこ村の村長の子、とか、高ランク冒険者の子供とか、豪農の次男坊。そうそうたるメンバーだ。そう、ネリアを除いて。

 普通だったら、町であのまま生きていたら、決して会うこともないだろう人々。

 彼らがネリアの同期だった。


 実際問題、どの期も、似たようなもので、魔導師の才能を見せるのは、有力者の子弟であることがほとんどだ。その大きな理由は遺伝的要素が大きいから、としかいえない。ネリアのように突然変異のような形で産まれる子の方が、イレギュラーなのだ。だがイレギュラーなだけに、他の子と違う独特な成長をする場合も多い。

 「だから、身分や何かで下に見てると、あっという間に立場が逆転するのが魔導師の世界です。同じように魔法を学ぶ仲間として、お互いを尊重し、そこにつまらない身分なんかを持ち込まないように。」

 入学式、というのだろうか。初めて全員が集められ、これからの授業について説明したあとで、校長のジョッチェは、そんな風にみんなの前で語ったのだ。


 そのおかげかどうか、一人身分が限りなく下であるネリアを蔑む者はいない。

 ただ、みんな甘やかされて育ったためか、自分のことをろくに出来ないので、イライラして手伝う、なんてことはよくあることで・・・・

 ここに来て半年。

 主に座学で、魔法とは何か、から始まり呪文を覚えたりイメージ力を高めたりといった基礎力を養成中のネリアたち同期の、いつの間にかリーダー的存在になっていて・・・


 半年を過ぎた頃から、実技もやっと教えられるようになり・・・


 そこで、ネリアは、火と地の二つの属性に才がある、と教えられた。

 ネリアの同期で、2つもの属性が使えるのはネリアともう一人。

 貴族の息子、水と風の属性持ちのミネルヴァだけだ。


 この頃になると、魔力の適性の個人差がはっきりとしてきた。

 才能が無い、と、諦めて学園を去る者も、例年出てくるのもこの頃で、ネリアの同期もご多分に漏れず、すでに3人が学園を去っている。


 1年後。

 残るは、ネリアにミネルヴァ、お嬢様=風の属性ティーゼに、冒険者の子=土の属性ルークのみ。

 この頃になると、ほぼ実戦形式の訓練が行われる。

 魔法の工夫と、威力の向上。

 新たな呪文と、そのイメージの構築と。


 「基礎が大事です。座学で学んだことを忘れずに。」

 そう叱咤激励する教師たちに、一生懸命食らいついていく。


 特に2属性持ちには新たな試練。

 二つの属性をいかに効率的に使えるか。

 

 ミネルヴァのように風と水の魔法を持つ者は、2属性持ちではポピュラーで、その応用は確立されている。そう、氷魔法。

 彼はその魔法を手に入れようと、勉強中。

 確立された魔法式は美しく、イメージも容易。


 まさに完成間近の氷魔法を見て、リーダーを自負していたネリアは焦っていた。

 火と土の魔法を持つ者はいないわけではない。むしろ水と風に次いで多いとさえ言える。しかし、残念ながら、それを合体させる技なんて、氷みたいに確立されていない。石つぶてに火を纏わせる、というような二重発動が関の山。二重発動だって、普通の魔導師には難しいけど、なんか、もっとあるはず。ネリアは本をあさっては、そのを探していた。


 焦っていたのはネリアだけじゃない。

 ティーゼも焦っていた。

 時折帰省するも、雇い人の子が2属性でどうして1つしか属性がないのだ、と、親には問い詰められ、使用人には、優れたネリアに対したいしたことは無い、などと 陰口をたたかれているのを知って・・・

 学校にいる間は特に持っていなかった嫉妬心を、帰省のたびに募らせて、なんとかより強力な力を得ようと、自分が持っていてネリアが持っていないものにすがるようになる。すなわち金の力。

 野良の風の魔導師を集めては、じぶんの魔法の向上方法を探らせているのを、このとき、ネリアが知るよしもなく・・・


 一方、ルーク。

 ルークの両親は現役の冒険者で、自分も将来は冒険者だと思っていたルークにとって、2つもの属性がなくても、立派な土の魔法の使い手となることで十分活躍できると思っていた。2つの属性があれば、それだけできることが増える。しかしそれは選択肢を増やして、決断の幅を増やすことになる。冒険者にとってちょっとした時間の差が命取り。なら選択できる幅が少ない方が、エラーは少ない。

 仲間意識はあるものの、そこに競争、という変な対抗意識を持たないのは、地に足がついた経験によるものともいえる。冒険者はパーティの中で自分の役割をしっかりこなせればそれでいい。同じ能力なんて無駄でしかない。だから、このチームはなかなかいい。そんな風に考えていたのだけれど・・・


 そう、事件は、間もなく2年になろうとしていた、そんなある演習旅行の最中に起こったのだった。

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