第3話 大人の関係※
脳が溶ける、とはこんな感じの事を言うのかな。
4年付き合った男にも、その前の男にも、こんな激しく躰を求められた事なんて無かった。
イッてもイッても、課長は私を求めてくれて、躰が、心が、“女で良かった”と歓喜する。
課長は私の腰を掴み、一層奥に入り込むように突き上げる。
その途端、強烈な快感が脳まで駆け走った。
星が光った様に目の前がチカチカし、シーツを力任せに引っ張り背を反りかえし、私は絶頂を迎えた。
『…お風呂、はいらなきゃ…。』
そう思いながらも、私の意識はそこで途切れた。
ーーー
ぎゅっと抱きしめられる感覚に、意識が浮上して重い瞼を上げれば、そこには見慣れない腕。
『…誰だ、この人…』
ぼーっとした頭をゆっくりと後ろへ動かし、私は硬直した。
薄らと髭が生えた課長の寝顔がそこにあったからだ。
やっと昨夜の出来事を思い出し、思わず顔が赤くなる。
『…私、課長とシちゃったんだ…。』
ぐるり、と首を回せばここはホテルでは無く、生活感ある部屋。
私の部屋と違うのは一目瞭然。
という事は、課長の部屋という事になる。
『…処で、今、何時?』
課長の腕を逃れようと必死でもがいていると、目に入った掛け時計に顔面蒼白になる。
「8時7分!?や、やばい!遅刻!」
勢いよく躰を起こした処で課長も目を覚ましてしまい、全裸の私は流石に戸惑った。
叫んでもいるのだから起きても仕方が居ないのだが。
「あ?まだ、8時だろ?」
そう言うと課長は私をまた布団の中へ引き戻した。
そして、枕元に置いていた自分の携帯を掴むと、何処かへ電話を掛け始める。
「…あ、鹿島か?南だ。…井之頭が体調悪いって昨夜連絡入ってたの忘れててな。ああ、頼む。じゃあ、週明けにな」
課長は会話が終わると携帯の電源を切ってしまい、私はまた彼に組み敷かれていた。
「え!?か、課長、朝から、するんですか!?」
私はマジで狼狽えた。
今迄の男共は、どちらかというと淡白な方だったので、朝から求められた事なんて1度も無い。
『…つーか、課長、35歳でしょ!?だって、ほら、35歳くらいから性欲も後退するっつーでしょ!?夜だって、何回した?3回はシたよ!?』
「あ?お前、おっさんは朝の方が良いんだよ。それと、名前で呼べっつっただろ。ぺナルティーな」
課長が目を細めて口角を上げたかと思った途端、私と彼の位置が逆転していた。
私が課長を見下ろしている。
「自分で挿れて」
その言葉に顔が、更に赤くなる。
多分、耳まで真っ赤だろう。
「すげぇ、耳まで真っ赤」
「は、恥ずかしいんです!」
実を言うと、数える程しか上に乗った事が無い。
付き合った男は3人だし、基本下で動いて貰うのが当たり前だったし。
「あ、あの、実は、私、上でするの慣れてなくって…」
「…ふ〜ん。そうか…。なら、教えてやるよ」
ゆっくり、ゆっくりと口端が上がっていく。
「え゛!?」
「上手く出来たら、ご褒美をやる」
課長は妖艶な笑みを浮かべて私の後頭部を掴むと引き寄せる。
唇が重なると、どちらともなく舌を差し出し、絡め。
気持ちがいい。
いや、心地がいい、のか。
男らしい掌で私の頭を撫でると髪を梳かして全身を撫で上げる。
それだけで、昨夜の感覚を思い出し、一気に躰が熱くなるのが分かった。
唇が離れると課長は私の腰からヒップを撫で上げ
「お前には色々教えて来たが、こんな事まで教える事になるとはな」
くつくつと笑う。
イジワルに笑うのにどうしても目が逸らせないでいた。
「ゴムくらいは付けた事、あるだろ?」
こくり、と頷けばパッケージを渡され、パッケージから取り出すと空気を入れない様に丁寧に被せて行く。
本当に男なんだな、と実感してしまう。
コレで散々、啼かされたのだ。
『…というか、アイツはこんなに硬くなかったように思うんだが。人其々なのかな?それにしても、課長って結構遊んで来たんだろうな』
「若い頃はそこそこ遊んだとは思うが、今はそんな事無いから」
読心術でもあるのか、課長は私を引き上げ
「さて、授業を始めるか」
鼻血が出そうな程、色っぽい顔で微笑んだ。
…本当に、昼までたっぷり手取り足取り腰取り、教え込まれた。
『…腰が、腰がぁ〜〜〜!』
動けずにぐったり、と息絶えていると、課長は満足そうに私の背中にキスの雨を降らせ、部屋を出て行った。
ーーー
それから何時間経ったのか、目が覚めると辺りは暗い。
すると、急に腹が減った、と自己主張する様に腹の虫が泣き出した。
辺りを見回すが昨日着ていた服が見つからない。
ベッドから這い出すが、抱き潰されたお蔭で“生まれたての小鹿”ゴッコ状態。
『…まったく、気持ち良かったけど、ここまでされると悪意を感じる』
裸体のままトイレに行く訳にもいかず、薄手のタオルケットを躰に巻き付けてコソコソとトイレに向かった。
トイレの済ませスッキリ、とドアを開けたがこの家に自分以外人の気配がしない。
ヨロヨロしながらも他の部屋を見て回るが、課長の姿は見つけられなかった。
しかし、私のシャツと下着が洗濯され、干されているのに顔を赤らめてしまった。
多分、スーツはクリーニングに出してくれたのだろう。
クリーニングに出してくれたり、洗濯してくれたり、意外だと思ってしまう。
まぁ、あれだけ人に指示できるのだからそういった事も手馴れているのだろう。
着る物も無いので寝室に戻り、ベッドに腰掛けた処で玄関の開く音が聞こえた。
『…あ、帰って来た?』
また立ち上がりドアノブに手を掛けたが、私はドアを開けれずにその場に立ち尽くした。
「この前は、ごめんなさい。…あのね、もう一度、話し合いたいの」
「………」
「私も大人げなかったって反省してる。ごめんなさい。あの日、謝る事が出来なくって、」
その時、カツン、と何かを蹴ったような音がすると、女性の声は一旦止まった。
「…も、う、新しい女、作ったの?」
「違う。…大人の関係だ。…俺はお前とやり直すつもりは無いし、部屋に居る女ともどうこうなるつもりは無い」
私はその言葉に息を飲んだ。
確かに『寂しさを分かち合うか』と誘ったのは私の方。
あの時は恋愛感情なんて無かった。
お互いに。
抱かれた、という事で課長に対しての見る目が変わり、完全に異性として対象になっている。
それは課長も同じだ、と思い込んでいた。
いや、何処かで、課長も私の事を異性として見てくれて、特別な関係になったんじゃないかって、何処かで期待していた自分が居て。
“大人の関係”そう、大人の関係でしかなかったのに。
こんな事くらいで泣きはしないけど、意外と胸が痛い。
私はベッドに潜り込み、必死に眠りに就こうと奮闘した。
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