第5話 オールドカフェのラストDay

 まゆかは諭すように言った。

「これは典型的な呪い商法ね。まあ、人間には復讐心があるから、呪い産業というのは、呪いの藁人形も含め、無くなるときはないかもしれないね。

 でも聖書の御言葉には『復讐は私のすることである。あなたは自らの手を汚してはならない』と書いてあるわ。もちろん、私というのは神であり、あなたというのは、人間のことだけどね」

 春樹は驚いたように言った。

「昔「復讐するは我にあり」という映画があったけど、その我というのは人間じゃなくて、神のことだったんだね」

 まゆかは答えて言った。

「その通りよ。復讐を大金に変えた人は、どうしたわけか原因不明の精神病にかかったりしているわ。だから、復讐するよりも許した方がラクね。許すということは、その出来事そのものを忘れ去ってしまうということよ。

 一流と呼ばれる芸能人はみな、そうしているわ。だって、過去にこだわっている

と、現在の障害になり、仕事が無くなってしまうものね」

 おばあちゃんの顔は、急にパッと輝いた。

「私、一銭の金も払わなくてよかったよ。もし呪いの依頼をしてたら、今頃は精神病院で死んでたかもね」

 春樹は釘を刺すように言った。

「人を呪わば穴二つということわざがあるが、結局復讐を果たしても、自分も今度は人を傷つけて平気な加害者になってしまう。

 そういえば、聞いた話だけど、中学の頃、不良からひどいいじめを受けていた平凡な男子が、アウトローになって復讐を果たしたが、気分は晴れなかった。

 そしてその男子も、アウトロー時代、あまりのブラックなやり方に嫌気がさして、アウトローを卒業し、クリスチャンになって亡くなったんだって。

 今は天国にいるかもしれないね」

 やはり、神の御心に逆らうとそのときは、自己満足感に浸っても最後は地獄である。


 春樹は溜息をついた。

「復讐せずに、忘れなさいか。そんなことはわかりきったことだけど、でもそれを実行するのは難しいな。

 復讐って人間の本能なのかな?

 十戒でも最初にあるだろう『あなたは殺してはならない』と」

 まゆかは即答した。

「私の場合は、イエスキリストを信じて許すことができたわ。

 人を許すためには、まず自分を許さなきゃね。傷ついた自分をも許すことね。

 自分は人から攻撃されても、イエスキリストがついててくれていると思うと、なぜか強くなれるの。

 イエス様は、防犯カメラの如く私を見張っててくださってるの」

 春樹は首元の十字架のネックレスをさわりながら言った。

「この十字架は、人気ナンバー1であるアクセサリーであるけど、元は処刑道具であり、イエスキリストは神に逆らう人間のエゴイズムの身代わりになって、処刑道具である十字架にかかって下さったなんて話を聞かされたことがあるぜ」

 まゆかは、思わず手を組んで祈り始めた。

「イエス様、私たちは許すことが苦手で、神の御心に逆らうようなエゴイズムを行いそうになりますが、どうかお守り下さい。

 今日は、いろんな出会いがありました。

 私と出会った人が皆、神の恵みがありますように。アーメン」


 一週間後、オールドカフェの前を通ると、あざやかに咲き誇っていたあじさいの木が無くなり、シャッターが閉まっていた。

 もう、会えることもない一期一会の出会い。

 さようならの言葉すらもないままの別れ。

 でもまた会えるときが訪れるかもしれない。


 good-by オールドカフェのラストDay

 もしどこかで会ったら気軽に声をかけてね。

 そしてあのときと同じように、カフェでいろんな話ができたら楽しいだろうな。


 (完結)

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☆ 九十歳レトロカフェでの3つの勘違い物語 すどう零 @kisamatuma

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