第11話 飛ばない兎


 私の目の前で花火があがった。それは綺麗で美しくて残酷で。明媚な星空に溶けていく光の花は色褪せることなく私の脳裏に焼き付いていた。

 余命宣告を受け、友を失い、私はこの世界に、神様に失望した。そんな中、キミを見つけた。誰の力も借りず一人で過ごすキミを。話しかけるなと言わんばかりのオーラで周りを寄せつけない。だから話しかけたの。こんな世界でもまだ諦めたくなかったのかもしれない。希望を持ちたかったのかもしれない。生に縋るために。

 彼はいろんな持論を持っているみたい。

 ねぇ、私ほんとは聞きたかったんだ。


「人は何故生きるの?」


 って。でもきっとキミは怪訝そうな顔をするでしょ?

 キミに病気のことを聞かれた時は戸惑ったよ。だって人のことに全く興味なさそうだったから。なんだかおかしな人。そう思ってつい、全部話しちゃった。

 過去のことを話しているうちに蘇る記憶。ずっと止まっていた計画を、私は再開した。机の引き出しの奥底に眠っていた手帳を引っ張り出す。


『死ぬまでにやりたいこと!』


 とうに諦めていた残り二つを実行することにした。


──あのね私、湊のことが好きなの


 本当はちゃんと言えたらよかった。でも手帳を見られてた。鞄の内ポケットに入れてたのに、慌てて入れたかのように入ってたからまさかとは思ったけど。

 好きじゃない人でも告白したらいいことにしてしまおう。自分自身を騙してしまえばいい。


 湊が好きだ。


 何度も心の中で唱えた。でも私の心の霧は晴れない。思わず溢れる涙を隠し、私は先に帰ってしまった。

 次の日からも私は普段通り接した。悟られたくない。早く終わらせて、私は死ぬんだから。

 湊と喧嘩をした日。突然意識を失った湊に私はひどく怯えた。このまま目を覚さないかもしれない。私を置いていなくなってしまうかもしれない。怖かった。

 すぐに目を覚ましたことに安堵したけど、湊は一人で出ていってしまった。彼の目を見てすぐにわかった。このまま離れてはいけない。今すぐ追いかけないと。考える暇もなく私は追いかけた。すぐに追いつき、声をかける

 ねぇ、湊は気づいた? あの時すごく怖かったこと。湊に拒絶されるかもしれないって怖かった。でも話しているうちに恐怖は溶けていった。そして霧が晴れ、自分の心の内に秘めた感情があらわになる。


「ねぇ、湊。好きだよ。初めて会った時からずっと」


✳︎


「雨音ってさ、恋ってしたことある?」


 病院のベッドの上で彼女は問う。


「したことないよ、なんで?」

「いや、恋ってなんだろうって思ってさ。ねぇもしさ、雨音が恋をしたら僕に教えてよ。恋をするのがどういう気持ちなのかさ」


 ねぇ、はるか。恋ってね、楽しくて、ドキドキして、どうしようもなく苦しいんだ。


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