第4話 甘いカフェラテ 苦い思い

 それから一週間が過ぎた頃、夏見は学校を休んだ。誰でも体調が悪くなることはあるが、なんか……意外だな。そんなことを思いながら僕は下校していた。


「おい、坊主……車椅子の坊主!」


 振り向くと、エプロンをつけたがたいの良い男性が立っていた。


「えっと……」


 なんだか見覚えのあるような……ないような……。


「今日、夏見ちゃんはどうした? いつも一緒に帰ってるだろ」


 男性は僕たちのことを知っているようだ。辺りを見回し、記憶を巡らす。男性が立っている場所はカフェの入り口だ。そして男性の身なり……。

 ……あ。


「カフェの店長さん」


 店長はにかっと笑った。


✳︎


「そっか、夏見ちゃん今日は休みなのか」


 そう言いながら、店長は机の上にカフェラテを置いた。


「君、いっつも見栄張ってコーヒー頼んで、結局砂糖とミルクいっぱい入れてるでしょ。これなら君好みだと思うよ」


 ずっと見られてたのか……。なんか、恥ずかしいな。

 僕は、湯気がたちのぼるカフェラテを一口。


「……美味い」

「だろ?」


 がははと大きく口を開けて笑っていた店長は、あ、と何かを思い出したように言った。


「そういや……気になってたことがあんだけどさ」


 店長は急に神妙な顔になって、僕の耳元で言った。


「……夏見ちゃんと付き合ってんのか?」


 な!?


「んなわけ! ……ないじゃないですか……」


 お客さんの数が少ないとはいえカフェで大声を出すのはまずい。慌てて声を抑える……が、顔が熱い。

 店長はがはは、と笑う。


「だよなぁ」


 全く、冗談でもよしてくれ。


「いやぁ……もう少しでいなくなるんだから、恋くらいさせてやりたいって思うじゃん? 余計なお世話なんだろうけどさ」


 いなくなる……?


「引越しでもするんですか?」

「ん? ……あ、聞いてない? まずったなぁ」


 苦笑いを浮かべながら、頭をかく店長。


「あの子、病気を持ってるんだよ。余命宣告されてる」


 病気……。

 僕は自分の足をさする。


✳︎


 ただのめんどくさいクラスメイトだった。うるさくて、おかしくて。

 誰にも興味なんかない日々。

 一人で生きていたかった日々。

 だから、初めてだった。こんなにも夏見のことを知りたいと思ったのは。


✳︎


 次の日、夏見はいつも通り学校に来た。放課後の帰り道、車椅子を押してくれている彼女に僕は話しかけた。


「……夏見」

「んー?」

「病気を持ってる……本当?」


 彼女からの返答はない。……いや、後ろを振り返らなくたって分かってる。その息づかいも、車椅子の取っ手を握る力も、全てに戸惑いをまとっていることを。

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