第15話「火蓋勇者」

宴らしく料理が用意された。

あまり気は乗らないんだけど…そう思いながら勧められた料理に

手を付けようとしたがスカーレットがそこにスッと割って入ってきた。


「これ、酒が入ってるでしょう。彼女はダメですよ。まだ飲めないんです」

「そのナリで?」

「貴方だって魔王。彼女の種族ぐらい見抜けるでしょう?この酒は人間には

少々キツイ」


たかが従者の言葉に耳を傾ける意味は無い。しかし今は周りに他の

魔王がいる。迂闊に動けば彼らに不信感を与えてしまう。


「そうですね。失礼しました」


メイド(ノエル)は皿をテーブルに置いた。

今のところ相手は動きを見せない。が、このまま平穏に事が進むようには

思えない。


「そういえばダリューン、君のところに勇者がいると言うのは本当ですか」

「何故そう思っているんだ」

「こちらだって色々情報網があるんですよ」


向こうから仕掛けてくるか。


「勝手に勇者を増やすだなんて、新参者にしては少々大胆過ぎませんかね?」

「そうか?魔王にはそんなルールがあったのか。俺は新参者故に知らなくてね。

知ってるのはどっかの魔王が裏で国を操って俺の国を潰そうとしたって

ことぐらいだ」


二人の視線が火花を散らす。周りの空気も重くなる。


「ま、待ちなさいよ!こんなところで戦いは―」


カルミラを制止した人物がいた。ギル、彼が止めたのだ。

一線を超えた二人の魔王。二人の魔力がせめぎ合う。フッと力を

抜いたのはダリューンだった。


「そういえば勇者云々の話をしていたな」

「それが何か…ッ!?」


歩けないはずのメイドは既に目前に迫っていて、片脚を横に広げ

体は地面擦れ擦れになるまで下げられていた。胴の前を通る腕、その先には剣の

柄がある。メイドは素早く剣を抜いた。抜刀術というわれるものだ。

歩けない人間のメイド、そう思わされていたからこそアウモスは僅かに

反応が遅れ頬に傷を貰う。

周りの魔王たちですら驚いた。メイドはカチューシャを外す。


「歩けない、じゃなくて…んですよ」

「お前の相手は俺じゃない。俺よりも被害を受けた人間が相手だ。

お前の余命は後何分かな?」

「何をふざけた事を…!そうだ、ミリアは―」

「私の事か?」


小柄な少女が悪戯っぽく笑った。


「ふぅ、大変だったんだぞ!楽しかったか?私を下僕の様に扱うのは」

「どういうことだ…ますます分からないぞ!」

「簡単な話だろ。ミリアは洗脳なんか受けてなかった。演技派の魔王だな、ミリア」


ダリューンがそう言うと彼女は胸を張る。


「当たり前だ、カイン!私だって立派な魔王なのだ!」

「カイン!?馬鹿な、貴様は確か…私がこの手で…」

「そう。その手で俺は種族を無理矢理変えられた。愛しい人間を襲う怪物に、な」


ダリューンの顔から表情が削げ落ちた。


「何人の人間を喰らったか、分からなくなってしまった。これが二度目の

決意だ。魔王になり、俺は人間の盾となる。人間達の希望である勇者を守り

悪を喰らう魔物になる」


アウモスは青筋を浮かべる。容姿は大きく変化し、名前も彼は変えてずっと

生きていた。自分の過ちにやっと気付く。まさかこの自分が油断して

死を招くなど。

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