第13話「女給勇者」

車椅子生活にも少しずつ慣れて来た。

プライバシーなところはテティスやモモネたちが献身的に手伝ってくれる。

移動の際にも周りは気を使ってくれている。

あの戦いから一週間は経過した。国の被害も消えて、元の通りになった。

ダリューンの元に届いたのは一通の招待状だ。


「そんな風に来るんだ」

「元は茶会だったからな。そのうち魔王が増えて揉め事を解決する場に

変化した。今回は新たな魔王が誕生したと言うのがキッカケだな」


主役はダリューン。参加できる使用人は二人まで一人はスカーレットと

彼は最初から決めていた。


「枢機卿が絡み、国王がこの国への進軍を決めたという情報を聞き出しました」

「あぁ、悪いな。グローザ」


彼女もまたダリューンの配下。ダリューンがノエルの配下になったことで

今は彼女もノエルの配下だ。グローザは元々、アウモスに操られた配下だったらしく

ダリューンが彼女に掛けられた呪いを解いたという。つまり彼を良く知っている。


「彼は配下を道具同然に扱います。そして彼は予想外に弱い。今頃、彼は

かなり焦っているでしょうね。魔王と勇者が同時に誕生してしまった。

これは彼にとっては計算外、自分が覚醒するはずの儀式のはずの戦争で

自身には何の利益が無かったのだから」

「この茶会の主催者はアウモスだったな。随分と穴だらけだ、自分で

逃げ道を塞いでいる」

「他の魔王たちの存在を忘れるほどに貴方たちが彼を翻弄していたという

ことよ。この状況は上手く利用すればもっと私たちが上手になる」


何人もの魔王が集まる中で何か荒事を起こせばアウモスは完全に他の

魔王から孤立することになる。そうならないような策を彼は練っているだろうが

無駄だ。彼をこちらは逃がすつもりは毛頭ない。


「えっと…この小さな妖精さんは?」

「私はこれでも古い魔王の一人、精霊女王カルミラなんだけど!久し振りじゃん

カイン、死んだなんて嘘ついて!!」

「今はカインじゃねえ。ダリューン・プルメリア、二代目国王ノエル・エーデルローズの配下だ。んでもって魔王」

「の、のの…」

「のの?」

「ノエルって…初めましてね!」


何か溜めるからちょっと腑抜けてしまった。魔王と言えども彼女は何処か

楽観的で軽い性格のようだ。魔王もまたそれぞれ性格がある。全員が悪という

訳ではない。悪は割と少ないらしい。


「まさかカイ―ダリューン。ノエルも連れてくの!?」

「あぁ。ノエルにはメイド服を着てもらう。後は彼女の魔力の質を上手く

隠すためにこれを身に着けてもらう」


渡されたのはカチューシャ。


「魔道具であり、メイド装束の必須道具、な。いざって時は俺が

合図を出す。そしたらカチューシャを外せ」

「分かった。じゃあすぐに着替えてくるね!」

「あ、そうだノエル。そのカチューシャもそうだが俺の合図があるまでは

車椅子に乗っていろ」


ノエルが頷いた。彼の意図をカルミラは理解する。


「歩けない弱っちい人間ですって皆に見せびらかすのね!」

「そうだ。念には念を入れておいて損は無い。が、お前と同じ

古参の魔王にこの事を伝えておいてくれないか。少なくとも彼は

今回の事に関わっていないんだろう?」

「あーギル・ヴァーミリオンの事?ならアタシが伝えておいてあげる!」


カルミラにも従者がいる。一人はドライアドのユピテル。そしてもう一人が

ダリューンがカルミラにお願いされて作り出した心核人形のトラスト。

彼がギルという人物とカルミラが通信する際の例えるなら通信機器

携帯のような役割をするようだ。


「宴の会場は既にギルが用意しているらしい。俺も名前を知っている程度で

どんな奴かは分からないんだ」

「でも敵ではないと確信が出来るのですね」


スカーレットの問いかけに頷いた。


「向こうも俺たちと同じだ。相手から仕掛けられない限りは仕掛けない」

「―お待たせしました、皆さん」


テティスが車椅子を押していた。乗っているノエルは紺色の

メイド服を着ている。偽装は完璧、後は暫く迎えを待つだけだ。

主戦力はこの宴でしばらく戻ってこない。ならば相手は確実に相手を

崩すためにこの期間を狙って戦いを挑んでくるだろう。しかし心配はいらない。


『久しぶりの再会ですぐに要求とは、ふてぶてしいな相変わらず』


ベルグリアスに救援依頼をしたときに言われた。彼の結界が張られている以上

相手は迂闊に攻め入ることは出来ない。他の戦力は全て敵陣に送り込み

全滅させる。二正面作戦だ。宴に参加するダリューンたちは全員で

アウモスという魔王を倒す。

ついに会場への扉が現れ迎えが来た。


「我が主ギル様より命令を貰い迎えに上がりました」


悪魔のメイド。感情が削げ落ちたような表情で淡々と仕事をする。


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