第12話「襲名勇者」

「一度に大量の“肉”を食すのは危ないと理解していたではないですか」


ベッドに体を預け、何度も呻き声をあげていたカインにテティスは

そう声を掛けた。返ってきたのは痛みを堪えるような呻き声だった。


「魔王と勇者の同時誕生。他の魔王たちもこのことに

気付く頃でしょう」

「…捕虜はどうだ。手は出していないだろうな」

「問題ありませんわ。アランとエレンが看守として居座っております。

拳聖二人の前ではほとんどの兵士が塵芥ですわ」


思わず苦笑を浮かべた。拳聖が二人もこの国にいるとは、な。


黒い悪魔はゼクス・ヴァニタス、紫の悪魔はアハト・メランコリー。

どちらもカインが召喚した悪魔。かなり古参な悪魔だ。

彼らは眠るノエルを見つけ、彼女を保護した。既に魔術師も確保済。

彼女を国へ連れて帰って任務完了だ。


「あの人が言っていたのはこう言う事か」


ノエルは既に勇者としての力に目覚めている。


「魔王と勇者の同時誕生。非常に稀な事です」

「人食いの魔王が命よりも優先させるほど大切に扱う勇者か」


ノエルの白い指がピクリと動いた。綺麗な青い瞳は真っ直ぐ彼らを

見上げる。


「よぉ、ノエル・エーデルローズ様。俺たち色々あってアンタに仕えることに

なった悪魔。俺がアハトで、そっちがゼクス。俺たちを召喚した本人は魔王に

覚醒、アンタは喜ばしいことに勇者になったわけだ。おめでとう」

「うん、ありがとう(?)」


一先ず礼を言ったノエルは簡略的に現状を知っているようだ。

国に戻ってくると国民全員が彼女の周りに集まってきた。


「お帰りなさいませ!ノエル様!!」

「お…おう…。えっと、ただいま?」


本当に大きな戦いがあった後かよ!?

異常というかなんというか、絶望的ではあったがそこに元の国王である

カインたちが参戦し形成は一気に傾いた。そのおかげでこのテンションだ。

今は足に力が入らない。恥ずかしい話、自力では動けなさそうだ。


「こちらへ、ノエル様」


車椅子に乗せられた。押しているのはスカーレットだ。彼が連れて来た場所。

そこにいたのはカインという男だ。そして彼の新たな部下たち。

スカーレットは一礼して部屋を出て行った。


「初めまして。俺はカイン、お前をこの世界に連れ出した張本人。何の説明も

無くてすまなかった。こちらも色々と姿を見せにくい状況で、日記やら

手紙やらで色々と情報は教えてきたつもりだ」

「いいえ、助かりました。ありがとうございます!」

「俺は今では死人として扱われている。君を間接的に殺そうとしたアウモスという

魔王の罠に嵌まってしまってな。種族まで変えられてしまった」


人を喰らうことで生きながらえる魔物、食人鬼。種族を変える魔法など

あったとしても使用者自身も危うい。その代償を魔力にすることが出来るだけの

力を持った魔人らしい。


「敬語は止めてくれないか。今の名前はダリューン・プルメリア。ノエル女王の

配下の一人」

「女王?…私が!?」


長い溜息を吐いたノエルに対して彼女に敬礼するダリューン。

新たな名前と共に第二の人生を歩む気満々らしい。

それなりに姿も変化しているらしい。


「じゃあダリューン。この結界はベルグリアスの結界だよね?」

「あぁ、この事か。俺は彼と通話する手段を持っている。だから

頼んだ、それだけだ」


うん、もう驚く暇も無いわ。

これがこの世界での常識なのだろうか。戦争は終結し、プラテリア連邦国の

強さは広く知れ渡る。新たな魔王の誕生を機に新たな物語が始まる。

ダリューンの知り合いである古き魔王、精霊女王シエラ。彼女の報せにより

新たな魔王と勇者は魔王の集会所へ向かうことになる。


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