第11話「残酷国王」

ヴィーラたちの存在はノエルもラムダから教えてもらった。ヴィーラたちはノエルの

心を複製し受肉した人造人間。ヴィーラたちとラムダたちを作り出したのは

カインだった。彼はノエルの命を常に優先して動いていた。


「待っている間に僕たちの姉と兄たちを紹介するよ」


ラムダとシータは双子らしい。確かに似ている。似ているのは彼らだけでは

無い。一台のピアノ、力強くも優しい音色を奏でた青年がこちらを

見つめていた。


「彼は長男のシグマ。寡黙だけど良い人なんだ」


シグマは淡い藍色の髪を持っている。更に場面は変わり、可愛らしい玩具が

散らばる子ども部屋に。無垢な笑顔でこちらに手を振る少年。


「僕たちより少し前に生まれた三男のイオタ。知能は僕たちよりも幼いんだ。

でも僕たちにとっては良い兄だよ。!」


イオタはノエルの元に近寄り身を屈めた。


「兄さんは甘えん坊。撫でてあげて」


シータが静かにそう言った。軽く頭を撫でてやると彼はニコッと笑った。

満足したらしい。更に場面は変わる。

綺麗な花々が咲き乱れる場所、その中心に置かれた机。対面して

座る男と女性。それぞれ淡い赤い髪と淡い緑の髪を持つ。


「次男のガンマとその妹であり長女のデルタ。ガンマ兄さんもデルタ姉さんも

他の兄さんもみんな僕たちを大切に思ってくれてるんだ。そろそろ時間だ。

僕たちも君を解放してあげないとね」

「もう、会えない?」

「会えるよ。僕たちはずっと君の隣にいるからね」



その頃、勇者を捕らえた大国の王フェルメナールは歓喜していた。

この勇者を魔物の国より救い出したという口実を広げれば他国も

自分たちに敬服するだろう。


「むっ?なんだ、これは…ッ!!!?」


悲鳴。転がっていたのは人間の首。そして奥から歩いてくるのは血濡れの

男。舌なめずりをした男は不気味な笑みを浮かべる。


「首はいらねえ。だが、お前たちが大量の人間を連れて来てくれたおかげで

これから先、暫くは空腹に悩まなくて済みそうだ」

「くう…ふく…?」

「あぁ。どっかの誰かさんのせいで種族を変えられちまってね。人間と

仲良くしたいのに人間を喰らう怪物にさせられちまった。でもお前らみたいな

欲塗れの人間なら幾ら食っても問題はねえな?」


男の剣はフェルメナールの腕を切り落とした。それに齧り付いた男の笑顔が

更に歪む。


「き、貴様!!我を誰だと思っておる!!!」

「誰って…俺の食糧。それ以外、あるわけ無いだろう?が、そこの枢機卿と

魔術師と共に暫くは生かしてやる」


人食いの怪人が召喚したのは悪魔だ。彼らに指示をしたのはノエルの保護、

そして何処かに身を隠す魔術師の確保だ。残りの二人の身柄はヴィーラたちが

回収する。


「魔王に勇者…なんて久しい、そして喜ばしいことでしょう!」


フェルメナールは後悔する。もういなくなったとされていた男が

生きていた。この男さえいなければ…否、いなかったとしても運命は

変わらなかっただろう。


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