第2章「国王復活、そして降臨」

第10話「復活国王」

半分は人間、半分は神。

人間の母に育てられた少年は母が病により倒れた後、その森を

訪れた。

そこで出会った竜に彼は自身の父が神であることを教えられた。


「お前の父は人と魔物、両方の共存を望む存在だ。だが無名故に

神々から出来損ないと言われて呪いを掛けられた。お前は自身の父親の

魂を持った半人半神だ」


父親に掛けられた呪いは神としての力の大半を失う事、人間として

生きることを強いられた。付き合った人間の寿命を奪い取り、

生き永らえるという呪い。その呪いを自分で終わらせるために

父親は人間と結婚した。そうすることで呪いは自己完結するのだ。

母親もその話をしっかりと承諾していた。

智恵と力、そしてカリスマ性を以て彼は魔物と人間が住まう国を

造り上げた。

が、それを快く思わない者もいた。彼等に何度も攻撃を受けた。

彼らが恐れているのは国を造り出した魔人、この青年だった。

彼はそれを知って結論を出す。


自分は死んだことにして、次の代に任せよう。


別の世界から連れて来た人間に王位を継承させる。その人間は

その世界では周りから嫌がらせを受けて本来持っているはずの

才能に蓋をしてしまっていた。だから彼は彼女を選んだ。

そして彼女の行動をサポートするために自分の知識に関することを

全て日記としてまとめていた。


「命令だ。これから来る異世界人を新たな王とする。俺の事は

可能な限り時が来るまで秘匿しておいてくれ。そして最大限、

彼女をサポートしてやって欲しい」


滅多に使わない命令という言葉。彼の言葉は今までで一番重い言葉だった。

そして今がある。

命令通り、だがかつての仲間たちは心の底からノエルに忠誠を誓っている。

それが分かっただけでも充分だった。

気付けば幹部に人間が増えていた。更に彼の理想へと近づいていた。


「…?オイ、ノエルの魔力が消えたぞ」

「本当ですね。魔力妨害?でもなさそうだが…」


カインたちは顔を強張らせる。嫌な予感がする。敵が動き出し、ノエルの身に

何かがあったのか。だが幹部たちの力はある。彼らを無力化できるような魔術、

結界が国にあるのか…。魔物を完全無力化してしまうほどの浄化の力を持つ

聖属性結界。それが張られていた。


「それも人間を使って張っている物だ…!」


ヴィーラが動揺していた。


「まさかノエルを使ったのか。何があった…!?」



アランに道を聞いて、ノエルはある場所を訪れていた。

人間が国民の大半を占めている国、グリア王国。

そこに存在する冒険家ギルドの総本部に創設された

研究所から消えたものがあるらしい。ギルドの

グランドマスター自らの希望によってノエルは呼び出された。その

青年は何処にでもいるような好青年だった。名前を

リアム・シーケンス。


「あの、消えた物って?」

「うわぁ、かなりストレートに聞いてきますね。消えたのは

実験材料ですよ。それなりに効果な人形なんですけど、消えてしまいまして」


人形?


「どうしても生物に対して行わなければいけない実験も存在する。

生物を活かすためにね。だけど今を生きる生物を使うのはダメだし

極限まで人間に似せた疑似人間を作り出したんです」

「作れるんだ、そんなのも」

「えぇ。結構費用は掛かっちゃいますけどね。で、受けてくれますか?」


何だろう、このモヤモヤとした感じ。この青年の言葉は何処か

モヤモヤする。本性が見え隠れした声を持っている。


「…ごめん。私には出来そうもないかな。だけどこれは私の仮説、

彼等も自我が芽生えて旅に出たんじゃないの?自由にさせてやればいいさ」


ここにいたら色々とヤバい気がしてノエルは早々と自国に

戻っていった。その姿を見てほくそ笑むリアムという少年は何か嘘を

抱えているようだ。

勿論それに気が付かないノエルでは無かった―。



景色は変わり、穏やかな風が吹き通る草原。

ノエルを照らすのは沈みかけた夕陽だ。


「来てしまったんだね、ノエルちゃん」


真っ白な肌にアッシュグレイの髪を持つ青年がいた。彼と同様の白い肌を持つ

少女もこちらを見つめていた。


「僕たちは君をずっと見守っていたんだ。それに、他にも君を

守ってくれる人たちがいるんだよ」

「その前に貴方たちの事を聞かせて。今の事も」


青年は嗤って頷いた。


「誰かは分からない。でも強力な睡眠魔法、否…君の意識に鍵を

閉められているみたいなんだ。でも完全には締め切られていないよ。

僕たちが上手く誤魔化して相手はどうやら仕事を終わらせたと

勘違いしているみたいだ」


リアムの元を離れてすぐに彼女は気付かぬうちに魔術にかかった。

彼らがどういった手法でかは分からないがノエルを守った。


「僕はそうだな…僕にだけはまだ名前が無いんだ」

「じゃあその子は?」


ノエルが目を向けると小柄な少女が会釈をする。彼女は自身を

シータと名乗った。誰かと話すのが苦手なのか何処か無機質に

感じられる。


「そうだなぁ…シータに合わせてラムダって呼んでも良い?」

「構わないよ。僕はどんなふうに呼ばれてもね。僕たちは君のために

作られたんだ。そんな顔をしないで、君の疑問をしっかりと解いて

あげるから」


ここはノエルの心を映した記憶を模した空間らしい。彼らはずっと

ここで暮らしており、ノエルにとって害悪に成り得る魔術などの力を

無力化していた。彼らは意図的に作り出された一種の人造人間だという。


「君の代わりに国を奮い立たせる男がいるんだ。彼の名前をカインという。

初代国王で君を見つけて才能を見出した人物だ」


彼がノエルのためにあれこれ働きかけていたらしい。ノエルの手助けと

なった日記も彼が意図的に書き続けていた。

ノエル消失時、国は災禍に見舞われていた。勇者である可能性を秘めている

国王がいない今がチャンスとある大国が軍事行動を引き起こした。それにより

被害は多く現れた。


「この結界は…?」


スカーレットは目を丸くする。国にいた全員が国を模した異空間に避難

させられたのだ。空などが水面の様に揺れていた。


「ベルグリアスの結界だ。幹部を残し他は怪我人の手当てにあたれ」


颯爽と現れて指揮を執る男の声に全員が明るい顔になる。かつての主、

カイン。彼は容姿こそ変化していたがそれ以外は何も変わっていない。


「久しぶりだな、スカーレットたち。数人は見覚えが無いが、まぁ良い。

面倒な自己紹介は後だ。何があったかは知っているが、落ち着こう」

「それよりも俺たちはカイン様の話を聞きたいのですが…彼らは一体?」

心核人形マインドドールという俺が作り出した種族であり、

新たな眷属だ。少し用があってな、今は死亡したことになっているし

彼等を使って色々手を回していたのさ」


勇気ヴィーラ愛情シュリンガーラ悲哀カルナ

怒りラウドラ…彼らはある人物の該当する感情を具現化した

存在だと言うのだ。


「―人間の国による襲撃か…。カルナ、調べは終わっているか」

「えぇ。潜入してしっかりと聞き出すことが出来ました。国へ

軍事行動を起こすときは教会の許可を得なければならない。要注意の

レッテルは国に張られているが、まだ軍事行動の許可は出していなかった」

「ならば俺たちが彼らを返り討ちにしても文句は言われないな」


周りが騒ぎ出す。カインはニィッと笑って、立ち上がった。


「先に手を出してきたのは相手だ。こちらが彼らを全滅に追いやる。

俺はその際に手に入れた魂を利用し、魔王となる。賢いお前らなら

この先は言わなくても分かるだろ」

「…魔王の力を見せつければ人間たちも考えを改めるでしょう。

賢ければ共存を選ぶ。人間と共存を望む我らにとって良い力として

利用できますわね」


テティスは何度も頷きながら話した。強い者には迂闊に手を出さない。

鏡のように接していけば相手もこちらの真意を理解し、友好を

求めるだろう。魔王の力を持てば人間の盾にもなることが出来る。


「新たな魔王が生まれれば、新たな勇者が誕生する…その因果を知っていたの

ですね。カイン様は。ノエル様は異世界人、彼女を重宝するのは今回のことを

知っていたからですか」

「深読みしすぎだ。全て偶然、たまたまだよ。ノエルは無事だ」


それが分かり周りは安堵する。


「魔物対策をしているな。まずはその結界を潰す。四方に用意されている

装置を破壊するんだ。俺は敵の本隊を潰す」


これは国王不在を狙った計画的な軍事行動。許可も得ずに身勝手に

大国はこちらに攻撃を仕掛けた。その天罰はすぐに下る。

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