第9話「標的勇者」

関節を取ったアラン。藻掻けば関節を極められるラディナタは歯を噛み締める。


「俺が弱い、だったか…だけどアンタから学べるものは無いな」

「何だと…!」


アランはラディナタの背中を踏み付けてノエルの元に歩み寄る。彼女の隣に立ち

実の父親を見下ろす。


「俺は勇者に忠誠を誓う拳聖アラン・ヴェールだ。エレン、お前は

どうするんだ」


アランは彼に目をやった。しばらく沈黙を貫いていたエレンはノエルの元で

片膝をついた。


「これからお仕えしてもよろしいのでしょうか」

「良いよ。来るもの拒まず、だからね。というわけだから、もしもまた

こんなことが起こるようなら私は手加減しないよ」

―もう一度、自分を躾け直した方が良いんじゃないの?




国に戻ってくると群がっていた国民たちが集まってきてノエルやアランの名前を

叫んでいた。かなり心配を掛けてしまったようだ。

アランに投げつけられたのは服だった。投げたのはテティスだ。


「さっさと着替えなさい。そんな姿で式典に出席するなんて許されないわ」


白いYシャツをすぐに着て、再びアランは歩き出した。


「見た?アラン様の体…!!」「えぇ、見たわよ!///」


なんて声が耳に否が応でも聞こえてくる。歩みを速めてノエルも正装に着替えてから

式典に参加する。自分が今回は主役なのだから、あまり迷惑を掛けるわけには

いかないよね。

翌日、エレンも正式にこの国の住人になったことで新たにエレンの

ファンクラブが出来上がっていた。何処のアイドルだ、ていうぐらいだ。

エレンは特に子どもに懐かれていた。アランがクールな印象を受ける

男だが彼はその逆なのだ。愛嬌のある表情と小柄な体躯故、子どもたちは

彼のほうが接しやすいのかもしれない。


「え~お兄ちゃん、もっと遊んでよー!」

「ごめんね。僕もお仕事を任されてるんだ。終わったらまたここに

戻ってくるからね」

「むぅ…分かった。絶対に来てね!」


微笑ましい。遠目で見ていたノエルは思わず顔が緩んだ。

アランのほうもまた女性と話をしていた。


「えぇ~?アラン様、異性とお付き合いしたことは無いのですか?」

「意外だわぁ」

「家の都合であまり異性と関わる機会が無くってな」


こちらはドロドロの三角関係。アランは気付いているのかどうか知らないが彼の

両脇に立って話している女性たちは火花を散らしていた。女の恋愛戦争は

恐ろしい。

この国は美男美女が多い。そんな気がする。前の王様も案外顔が良かったのかも。

アランとエレンの関係は年子の兄弟。兄がアランで、弟がエレン。



アウモスは冷静を取り繕っていた。

ヴェール家もまた彼の傀儡だった。アランがプラテリア連邦国の幹部をしている。

少し掻き乱してやれば崩壊のキッカケを作れるかもしれないと第二の仕掛けを

行ったがそれも簡単に崩されてしまった。


「(まぁ、良いでしょう…ここからですよ。盛り上がるのは)」


ほくそ笑み、次の悪巧みのために裏で彼は糸を引く。

次の勇者は出させない。勇者の存在はこれから邪魔になる。

新たにプラテリア国の王になった人間は勇者になるであろう可能性を

大いに秘めているのだ。



「そろそろ動いてくる」


特別に作られた亜空間を住処として活動している者たち。

その中にヴィーラも混じっていた。


「アウモスという魔王ですね」


ヴィーラとは違う。泣き顔の仮面で目元を覆っている男。名前を

カルナという。


「そうだ。だが俺たちは迂闊に手が出せない。極限まで手は出すな」

「我慢できるのですか?貴方は…カイン・プラテリア様」


魔物たちの住まう森に突如現れた強い魔物であり、プラテリア連邦国の

建国者カイン・プラテリア。彼は裏からずっとノエルたちを

見守り、時には魔の手から守っていた。


「そうだな。どうにか我慢しなければいけないな」



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