第7話「騒動勇者」
儀式は無事に終了した、ノエルの口からそう告げたことで幹部たちも
ようやく落ち着いた。彼らはすぐにドライアドたちに謝罪した。
「ユピテル、ベルグリアス様は外に出られないの?」
「出ようと思えばきっと出られるはずです。しかしそうすることが
出来ない理由があるのだと彼は言っておられました」
そうできない理由。しまった、しっかり聞いておけばよかったかな。
手に握っていたのは青い鱗だった。それを見て全員が言葉を失う。
「これはベルグリアス様の鱗!一体どうされたのですか!?」
「え、えっとこれはその―」
そのちょっとした会話を教えた。自分でも思い出した。欲しいのなら戦いを
終えた後にくれてやるという口約束があった。
「1枚や2枚じゃないな…竜の鱗は何処の国でもかなり希少だ。折角
こんなにたくさんあるんだからアクセサリーにでもしたらどうだ?姫さん」
アランの言葉に誘われるようにノエルは頷いた。アリーシャはその鱗を加工して
ネックレスを作ってくれた。綺麗な青色のネックレス。
「とても美しいですよノエル様」
「美しいのは私じゃなくて鱗の方だけどね」
「良いではないですか。これから継承式ですし」
継承式という名の祭りですけどね、と彼女は付け足した。この短期間で既に
三回祭りが開かれているように感じるんですけど…。
継承式の主役であるノエル以上に周りがはしゃいでいた。ノエルの正装として
用意されたのは濃い青色の鱗が目立つ淡い水色のドレスだった。
「おぉ~!!スカーレットもテティスも皆も正装してる!!」
「あまり慣れない服装だな」
アランも然り。スカーレットとテティスはそれぞれ使用人の服装を着込んで
いる。そしてスカーレットは右胸ポケットに、テティスは髪に
白い薔薇のコサージュと髪飾りを身に着けている。
「すぐに継承式は始まります。さぁ、お着替えをしましょう」
部屋の扉はテティスによって閉められた。
「…何か圧を感じたな」
「女性のプライバシーなところですからテティスも神経質になっているんだろう。
俺たちはさっさと式場に行こう」
会場。だが何処か騒がしい。スカーレットたちに気が付いた国民の女性が
いたので彼は声を掛けて事情を聴く。
「彼らです。人間の方々が来られまして…」
スカーレットはアランのほうを見た。アランは頷き人混みを掻き分けて
進んだ。やってきた人間達を見てアランは顔を強張らせた。
「フン、アラン。お前はこんな腑抜けた奴らと生温く生活していたのか」
「親父…!」
「親父ッ!?アランの父親なのか…!」
筋骨隆々の男、名前をラディナタ・ヴェール。アランにとってはこんな男を
親として認めたくなかった。強くはなったがあれはただの虐待だった。
「何だその口の利き方は。俺より強くなってからそんな口を利け」
「ッッ!!ぅらアアアアアアアアアアアアアア―」
怒りのままアランはラディナタに殴り掛かるもすぐに捕まり裸拳を
打ち込まれた。後退しかけた彼の首根っこを掴みアランを地面に叩きつけた。
その後は馬乗りになって―。
「―待ちなさいッッ!!」
着替えをしていたはずのノエルがテティスと共にこの場にやってきた。
「その人は、アランは正式にこの国の人間だ。いや、それよりも
息子にそんなことをしても良いわけ?父親失格だわ」
「やはりアラン。お前は温くなったな。こんな小娘に忠誠を
誓ったというのか?それだけの力がある猛者なのか?こんな脆弱な
人間に従うためにヴェール家が存在するのではないのだぞ!?」
地面が割れるほどの威力で顔を殴ったラディナタ。アランは無抵抗のままだ。
「国に入ってくるなとは言わない。だけど、これ以上アランを傷つけないで。
頭ン中、お花畑な脳筋クソジジイが頭脳明晰で頼れる兄貴を殴ってんじゃねえ!!!」
ノエルが叫んだ。まさか彼女からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
子ども染みた悪口だがその言葉にも相手は乗ってきた。
「貴様、今…なんて言った!?」
「時代遅れの教育しかできない脳みそ筋肉クソ野郎って言ったの!!アンタみたいな
人がアランの父親?面白くないジョークだね。幾ら笑いのツボが浅い人でも
笑えないわ。だってアランのほうがよっぽど強いもの」
「私が誰だか分かっているのか?」
「ヴェール家。生まれつき人外染みた身体能力を持つ戦闘一族でしょ。
それが何?」
乾いた音がした。ノエルの細い体は勢いに負けて地面に倒れた。
全員の敵意はラディナタに向けられた。
「立てアラン。貴様をもう一度躾け直す」
無理矢理立たせて歩かせた。ノエルの制止でスカーレットたちは
怒りを抑える。
「分かってる。アラン!」
ノエルの声を聴き、彼は後ろを振り向いた。
「迎えに行くよ。待っててね少しだけ」
ノエルは親指を立てて見せる。腫れあがった顔で僅かに
笑ったアランは再び歩き出した。ノエルは早速ソーマ達に仕事を
任せる。彼等の居場所についてを調べさせる。
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