第1.5章「拳聖の確立」
第6話「滅竜勇者」
宴も終えて今は争いごとも無く穏やかだった。
だがそれも長くは続かないらしい。長くこの国、というか森に住まう
ドライアドのユピテルが話す儀式の話。
この森は竜の加護に護られている。樹木や草花が育つために必要な水の
恵みをもたらす竜ベルグリアスはドライアドたちの願いを聞き届け
加護を与えた。その代わりに優れた長が現れたとき、その者と
戦わせろという。
「で、今回は私だと」
「えぇ、そういう決まりですので」
ユピテルは他人事なので笑顔で言っているがノエルにとっては無事に
帰れるかどうかだけが心配だった。
「心配いりません。ベルグリアス様は例え敗者であっても怪我を完治させてから
帰してくれますから」
「その辺はしっかりと気を使ってくれるんだ…」
半透明の道を進み、扉を潜る。水の竜らしい空間。上を見上げると水面から
陽の光が差し込んでいる。そして奥から歩いてきた男は青い髪をしていた。
「また人間か。まぁ当然だな。で、名前はなんだ。俺の名前はもうドライアドから
聞いてるだろう」
間違いない、この男がベルグリアスという竜だ。
「ノエル・エーデルローズです」
「ノエルか。ではやるとするか、ねッ!!!」
ベルグリアスのフルスイングのパンチに慌てて反応する。
「合図も無しですか!?」
「さっさと攻撃しないと一方的に叩き潰しちまうぜ?強いから
王になったんだろ!!!?」
圧がある。今にもノエルは心が折れそうだった。剣を抜いて立ち向かう。
袖が切れ、ベルグリアスの腕を覆う強固な、しかし美しい鱗が見えた。
「どうした?鱗を見るのは初めてか?欲しいのならこれが終わってから
やるよ」
「え、良いんですか?だって鱗は―」
全て言い切る前に彼のボディーブローでノエルの体は後ろに吹き飛ばされた。
上手く受け身は取ることが出来た。
「何度言わせる気だ?さっさと来いって言ってんだ。殺す気でな」
確信した。この竜は俗にいう戦闘狂だ。ただ暴れ回るだけではない。
頭の回転も速い。何人も人間などの戦い方を見てきているのだろう。
元の世界でどれだけ漫画を読み漁ってきた思ってるんだ?
どれも中途半端にヲタク気味になっていたがその中でも魔法等は何度も
見て来た。魔法が得意な体質になっていると言うのなら使えるだろう。
何かを察したのかベルグリアスは愉し気な笑みを浮かべて両手を広げた。
「―メガフレア!」
巨大な爆発。流石に一発で自爆は御免こうむりたい。少し威力は抑え目だ。
やはり相手はピンピンしている。
「前の男はこんな魔法は使っていなかったな。どれ、もう少し
付き合ってやる」
「ホントに?何があっても文句は言わないでね?」
「言わねえよ。人間が竜相手にどこまで喰らい付いてくるのか、それを
見るのが楽しみなのさ」
残虐非道な悪人ではない。あくまでも彼にとっての遊戯であり、それはレベルが
高いから試練にも成り得る。満足すれば彼もノエルをここから勝手に解放してくれるだろう。先ほどの魔法以上のものを見せる必要がある。
炎で挑むのも、水で挑むのも少々分が悪い。よく聞くあれを試してみるか。
「天地を轟かせる―」
「なッ!?お前まさか―!!」
「鋭き雷光―」
「それは―!!」
「宇宙に座すは巨大な星―
古代天体魔法:
太陽に続き再び放たれた古代魔法。それを簡単に放つことが出来るノエルの
力にベルグリアスは驚嘆する。流石に彼は無事では済まされなかった。
半竜化することで上手く衝撃を和らげることが出来たがふら付いていた。
「くっ、クククッ…まだ体が痺れてる。あの男と同等の力、もっと経験を
積めば超えるかもしれないな。そうなったら俺も危ねえなァ…」
ベルグリアスは天を仰ぐように体を逸らせた。息を吸う音が聞こえ直感的に
ノエルは両耳を塞いだ。
常人ならばもう動けない。耳を塞いだノエルでさえも無事では無かった。
足元が覚束ない。視界はぼやけていた。今が好機だと踏んだベルグリアスは
拳を突き出した。それがノエルの顔を叩く前に止まる。肩に突き刺さった
ノエルの剣。ノエルは自慢げに笑っていた。
「さっきのは勿論演技じゃない。だけどこっちは技を喰らう前から
狙ってたカウンターだよ」
剣を抜き、血を払い鞘に納めた。ベルグリアスは自身の傷口に触れる。
並大抵の武器では傷のつかない肉体を保有する自分がまさか傷を
負うとは思っていなかった。
「滅竜、か…?」
「付加術を教えて貰ったんだ。で、それをちゃんとした魔法にしちゃおうって
考えて編み出したのがこれ…滅竜剣ブルムンク!」
ベルグリアスは再び笑った。
「俺を前にして新しい魔法を作り出すとはな。何度も驚かされるとは思わなかった。
が、まだまだ詰めが甘い」
巨大な鉤爪とブルムンクが交差する。ふとベルグリアスが手を下ろした。
「流石に遊び過ぎたかな」
「…?」
「長くやり過ぎるとドライアドも国民を大人しくさせるのに
苦労しちまうだろうし」
水で出来た鏡、そこに映るのは慌てふためく幹部たちにドライアドの
ユピテルたちが色々と説明をし続けているところ。
「帰ってやれ、ノエル。今までで一番楽しませて貰った」
「ベルグリアス様は―」
「“様”だなんてやめろ。お前には俺の友を名乗る権利をくれてやる」
シッシッと追い払うような仕草をするベルグリアス。悪い竜では無かった。
痛みもいつの間にか治まっていたのだ。
「また、また来るねベルグリアス!」
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