第5話「太陽勇者」
スカーレットが一度距離を取ると同じように相手から距離を取った
人物がいた。ソーマとスカーレット、二人が互いに背中を預け合っている。
「攻撃したら分裂…俺にもノエル様のような魔法でも使えれば
良かったんだがなぁ」
「そうだな。たまたまあの方が魔法が得意だった、たまたま俺たちには
それが不得手だったというだけの事だ」
「相も変わらず冷静だな」
「これでも内心困っているんだが」
短い会話をした後、二人は互いに後ろに剣を向けた。スカーレットの剣は
ソーマの目前に迫っていたラフムに、ソーマの刀はスカーレットの
目前に迫っていたラフムに突き刺さる。
「後何分だ」
「残り2分だ」
「楽勝だな」
「当たり前だろう」
二人は果敢に駆けだす。同時刻、ディヴィジョンと名乗る男は
やむを得ず撤退していた。その場に残っていたヴィーラの元に
真っ黒なコートを着込んだ男が現れる。
「撤退させることが出来たようだな」
「はい」
「やはりアウモスの手先か」
「そのようです。が、どうにもあの男にはもう一人バックにいるような
気がしてなりません」
「そうか。お前が言うのならそうなのだろう。俺たちも一度退くぞ」
「良いのですか。戦いを見届けなくて」
ヴィーラは彼にそう問う。彼はふと笑みを浮かべた。
「あの娘にヒントはくれてやったさ」
「遅いですジェラールさん。既に5分ほど遅れております。幹部の恥です」
「そこまで言われないといけないのか…もうちょっとオブラートに
包んでくれませんか?」
「では…遅いです!!」
「オブラートっていうかドストレート!?」
ジェラールと呼ばれた男は肩に担いでいた槍を軽く回してから構えた。
彼は巨人と精霊の混血。体躯はかなり大きい。しかし細い。
水を司る精霊の母を持つ彼もまた水を操ることが出来る。
「後1分ぐらいでしょうか」
「そうね。1分ぐらいは耐えなくては」
ノエルの背後にある魔法陣、その時計の針が少しずつ12時に向けて回り
続けていた。欠片も残さず相手を滅する。普通に考えればそれは難しい。
しかしそんな大変なことを可能にしてしまう魔法の存在が日記には記されていた。
「準備は出来たよ、皆ぁ!!!」
ノエルの声賭けに全員が反応した。夜であるにも関わらず眩くあたたかな
熱が一帯を覆っている。
「これは本物だな…」
ジワリと額から汗が滲む。全員が汗ばむほどの熱。ラフムたちも只事ではないと
集団となってノエルをどうにかしようと立ち向かってくる。
「太古より大地に射す聖なる星―
古代天体魔法:
炎の塊は地面へ墜落する。太陽が地面に落ちて来たと言っても
過言ではない。ラフムたちの悲鳴が聞こえ、光が落ち着いた頃に全員が目を
開いた。破片すらそこには残っていない。
喜ぶプラテリア連邦国の戦士たちの様子を見ていた魔王アウモスは
その水晶を怒りのままに破壊する。
「何故だ…何故あんな人間の子娘が古代魔法を扱える!?魔王ですら
あの魔法だけは扱えていないのだぞ!!!」
「珍しいわね、貴方が荒ぶるなんて」
空を統べるハーピィの女王イリス。彼女もまた魔王の一人。彼女が来たことで
ようやくアウモスは平常心を取り戻す。
「古代魔法を扱う人間が現れるとは驚きでしたよ。あの男以来だ、あの男ですら
命を差し出してやっと扱えたと言うのに」
「古代魔法?そんなものを扱う人間が現れたと言うの?」
イリスさえも驚いている。最後に水晶に映っていた少女は確かに人間だ。
「それだけの力を持つ人間…勇者となる可能性を大いに秘めているんじゃないの?
勇者が現れる、つまり勇者と対を為す新たな魔王の誕生の予兆…」
彼女の言葉にアウモスも頷いた。
「ヴィーラという人物に心当たりはありませんか」
「?さぁ、知らないわ。貴方が知らないことを私が知っているわけないでしょ」
アウモスは「それもそうですね」と返しつつその名前を再び復唱する。
ディヴィジョンを退ける実力者。魔王になるであろう人物に現在は仕え、
何時かは勇者に仕える存在であると自称していた。
戦いも一段落して勝利を喜ぶ宴会が開かれた。どうもこの国の住人は祭りが
大好きらしい。そこで途中から参戦してきたジェラールと話し込んでいた。
「改めましてジェラールと申します」
ノエルは上を見上げているのに気づき彼は膝をつき彼女に目線を合わせまた
頭を下げた。
「申し訳ありません。従者である私が主君を見下ろすなどと無礼な事を」
「あ、良いの良いの。でも凄い高いね!流石巨人の混血!」
190㎝を優に超えているであろう長身。なんと250㎝もあるという。
「未だに迷っているのですか?ノエル様。自分がこの国の王となって果たして
良いのかどうか、と」
思っていたことを当てられて少し顔を赤らめる。何度も思ってしまう。
人間の自分がここで国王なんてしてもいいだろうか。その自信が無い。
「この国は人間と魔物が仲良く共存する場所。貴女が王になることは
人魔の共存の象徴であると言う事なのです。この国に貴女を恨む、憎む
存在はいませんよ」
「ありがとう、ジェラール」
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