第4話「初陣勇者」
ノエルは自室にて再び日記を手に取った。
その古い手帳の中にラフムの文字を見つけてノエルはジッと読み続けていた。
「なんだか不思議だな…この日記。過去に書かれたはずなのに、今の
事を書いてるような?」
ユピテルがノエルたちのところに来るところも含めて現状と同じことが
日記には書かれていた。
その前のページでは日記らしくない書き方をされていた。一種の預言書、
もしくは小説を読んでいるような気分になる。
名前も知らない先の国王は何かしら予知能力を持っており、ノエルがここに
来ることもある程度把握しているのではないかと勝手な推測を立てた。
「ノエル様、出陣の準備が出来ました」
「え、えっと…」
メイド服を着込んだ女性は少しだけ赤面した。
「お恥ずかしい。まだ私は名乗っておりませんでしたわ。私の名前は
テティスと申します。スカーレットとは対極の存在です」
対極?どういう意味なのか一瞬分からなかったが彼女の服を見て納得した。
スカーレットはよく執事服を着込んでいる。テティスがメイドで
スカーレットが執事。対極的な存在だった。
「この剣をお納めください」
白い柄の剣。軽くて丈夫、そして切れ味も申し分ない。
「先の国王が貴方にと残した一品です。さぁさ、どうぞ」
「ありがとう。テティス、先の国王様はどんな人なの?」
「…貴方と同じ人間の男性ですわ。しかしそのある戦いが終わった後に
突然王位を返上してしまいまして」
そこにどんな背景があるのかは詳しく聞くことは出来なかった。
ノエルを先頭においてプラテリア連邦国の精鋭たちはラフムと対峙する。
不気味な出で立ちの魔物だ。
個々体もそれなりに力がある。油断は出来ない。
森を進むプラテリア軍の様子を窺っていた人物たちが大戦前に
対峙していた。
「洒落にならねえな。こっち側でも無ければあっち側として動いている
ようにも見えない…お前らは一体何者だ?魔王アウモスの下に就く俺たちの
同志とも見えない」
そう語るのは
名前の者に仕えているという。一方、彼が対峙している人物は目元を
剣が描かれた仮面で覆っている。あくまでも顔を晒すつもりは無いらしい。
「魔王になる予定の人物に仕える者。そして果ては勇者に仕える者だ」
「勇者…魔王になる予定…?なんだそりゃ」
「そっちの魔王にも伝えておくと良い。やられた分はキッチリ倍にしてやると
此方の主は意気込んでいたとな」
二人の剣が交差した。ディヴィジョンに課せられた任務はアウモスが
仕掛けたラフムの群れの行く末を確認すること。確実にプラテリアの力を
削ぐことが出来ればそれでよし。だがディヴィジョンはその仕事を全うできないと
悟った。目の前の男ヴィーラはかなり強い。
「因みに聞くけど、勇者は一体誰なんだ?」
「それを言うわけにはいかないな」
その気配に僅かながらノエルも気付いた。敵意は無い。ならば今は
放置しておいても良いだろう。それよりも目の前のことだ。
ラフムたちは同族を喰らうことで生命を維持しつつ力を付けているようだ。
「一体が分裂して、分裂した一体がまた分裂して…そうやって増殖し続けて
いたのか」
「何処のアメーバかスライムだよ…」
スカーレットの言葉に思わずノエルはそう声に出してしまった。この戦い
今存在するラフムたちを残らずのかき消してこそ真の勝利だ。一匹、異様に
巨大なラフムがいた。
「ユウシャ―ニンゲン―」
ドロリと背中から生やした羽を動かすと針のようなものを飛ばしてくる。
即座に反応し魔法壁を作り出して攻撃から全員を倒した。
「少し準備に時間が掛かる。絶滅できなくても良い、足止めをして!」
ノエルの指示に僅かながら周りは困惑した。
「だが、そんなことをしたら…」
「良いのです。スカーレット。私たちの長はノエル様でしょう?彼女の指示に
私たちは従っていれば良いのです」
そう言うのはテティスだ。彼女は何処からともなく巨大な剣を取り出した。
見た目の割に荒々しい戦い方をするのが彼女らしいと言うのだ。
彼等の実力ならば足止めなんて簡単だろう。そのうちにノエルはある魔法の
準備を進める。初陣に初めて使う魔法。しんぱいしかないが出来る出来ないではない
もうやるしかないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます