第3話「森林勇者」

プラテリア国は元々とある竜の加護のある大森林だったのだ。

森を管理する精霊ドライアドにより先代王が認められて国を作り出した。

そのドライアドがノエル・エーデルローズの前に姿を現すことになる。

精霊に相応しい美麗な容姿の女性、ドライアドのユピテルという。


「この度は此方の要請に答えていただき誠にありがとうございます。

ノエル様、貴方がいれば百人力です」

「大袈裟だよ。私はそんなに強くない」

「まぁまぁそう御謙遜なさらないで。と、この会話は一先ず置いておいて

こちらでは手が付けられない魔物…というべきでしょうか…」


ユピテルの顔は真っ青だ。しかしさっきの言い方。疑問形であるのが

ノエルは気になった。それについて彼女は聞いてみた。


「ノエル様とアランさんの前でこれを言っても良いのでしょうか…

いえ、今は緊急事態ですので。良いですか、特にお二人は落ち着いて

聞いてください」


真剣な眼差しを二人に向けた。ここに来て可笑しな冗談を言うわけもない。

知性的なドライアドがここまで慌てるのもまた珍しい。空気は重い。

ノエルが深呼吸をしたのを見てからユピテルは重い口を開いた。


「ラフム…この中で最も長寿な貴方なら聞いたことがあるでしょう?

ダンピールのスカーレットさん」


意外だな。スカーレットはどうやらこのメンツの中でかなり長寿らしい。

見た目は20代だがやはり魔物…否、吸血鬼の混血児。スカーレットはやはり

ラフムという存在を知っているようで険しい顔をしていた。


「ユピテル殿が言うのを躊躇う理由が分かりました」

「えぇ…では話します。ラフムとは何なのか―」


有名な書にエヌマ・エリシュというものがある。たまたまゲームが好きで

その存在を名前だけは何となく聞いたことがあった。黒魔術で生まれた

人間モドキ、それがラフム。魂を無理矢理変質させた際に出来上がる

人間になれなかった欠陥品だ。それは生命への冒涜と言う事。

なるほど、人間であるノエルとアランにこれを話すことは躊躇うのも

無理は無いだろう。


「無理を承知でお願いをさせてください。ラフムの軍勢はゆっくりと

此方に侵攻してきています。魔力とも違う禍々しい瘴気を放ち森を

侵食しているのです」

「魔力…正確には魔素というのですが。魔物は基本魔素濃度が濃くても

楽に身動きを取ることが出来ます。人間の場合は個人差がありますが…

魔素の中で自由に動き回れる魔物にとっても、瘴気と言われるものは

毒と同じです。一種のウイルスのようなもの」


スカーレットは細かく解説を入れた。正直有難い。魔物にとっても瘴気が

毒ならば人間にだってかなり影響が出る。それがこの美しい森を破壊しながら

侵攻しているのだ。


「国にとっても大ダメージだな。どうするよ、姫さん」

「どうするって…」

「王は黙って俺らに指示を出せばいい。俺たちはアンタが望む勝利のために

命を懸けるだけさ」


アランはニィッと笑う。他もまたやる気が十分あるようだ。情けない、覚悟が

無いのは自分だけだったのか。


「ユピテル、そのラフムの群れの居場所は?」

「この国から北へ7キロ離れたところに今はいます」

「そうか…アリーシャ。結界の準備をしてくれるかな?瘴気が何処まで流れてくるか

分からないから国に張るんだ。無意味でも良い、完全に遮断する必要は無い」

「分かりました!」

「ならばノエル様。私もアリーシャの手伝いに回っても宜しいでしょうか?」


モモネが名乗りを上げた。勿論許可を出す。女性陣二人には国の防衛に回って

貰う。これはこの世界に来てからの初陣になりそうだ。


「あの、どうしたのですか。スカーレット」


モモネは彼に声を掛けた。


「ラフムは端的に言えば人造魔獣。自然に湧いて出てくることはありません」

「…あ!まさか、誰かが意図的に作り出しプラテリアに差し向けていると、そう

考えているのですね?」


スカーレットは小さく頷いた。その“誰か”はこれから積極的にプラテリアを

潰しにかかるだろう。

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