第6話 逃避行

「逃避行」


わけもなく西に向かった

あてもなく西に行こうとした

まだ明けきらない高速道路を

逃げるように西に走った


少しでも早く

少しでも遠くに

行こうとした

この街を離れること

それだけを考えていた

この街が怖かった

この街が嫌だった

この街の

雑踏が

人ごみが

景色が

職場が

空が

すべてが怖かった

毎日恐れおののいて暮らしていた

自分で決めて

自分でこの街に来て

自分だけでこの街で暮らし始めた

それだけで

僕は十分に壊れていった

苦しかった

辛かった

毎日後悔ばかりしていた

毎日逃げることばかりを考えるようになった

毎日が地獄のようだった


きっかけを探していた

言い訳ばかりを考えていた

君のことがなくても

僕はきっと

遅かれ早かれ

この街を逃げ出していたことだろう

だから

君はまったく気にしなくていい

君のことは

確かに衝撃で

僕はずいぶん取り乱してしまったけれど

まったく気にすることなんかないんだから

きっかけを探していただけだから

言い訳を考えていただけだから

ちょうどそんな時

君が誰かを好きになって

君が誰かと肌を合わせてしまって

そんなことを偶然に知ってしまったものだから

僕は自分でこうなってしまっただけだから


いつの間にか明るくなっていた

僕は仕方なく

サービスエリアに寄って

甘いだけの缶コーヒーを買ってがぶ飲みした

甘いだけの缶コーヒーを買ってがぶ飲みした


君が去っていった日曜の早朝

僕も出て行った日曜の朝

たぶん9月の最初の日曜の朝


僕が見た最後の絶望風景



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