絶望風景～だからまだ僕は生きていられる～

第5話 抜け殻

「抜け殻」

９月１日

日曜日　早朝　曇り空

女の抜け殻

一人ぼっちの部屋

雨上がり

秋の気配

ベランダから見下ろす街

すべてを失った街

決めていた

もう決めていた

今日で消える

今日からいなくなる

この街を捨てる

仕事を捨てる

この部屋を捨てて

どこかに行ってしまおう

焼け残った写真

争いの痕跡

生きていた名残り

すべてを整理して

街が目覚める前に旅立とう

小さなカバンに詰めて

あてのない旅へ

いや

逃げ出すだけだ

もう嫌だ

もう耐えられない

騒々しい街

狭苦しい部屋

過酷な仕事

見苦しい人ごみ

気の遠くなりそうに渋滞

裏切った女

自分の馬鹿さ加減

後悔ばかりの毎日

もう逃げ出そう

逃げ出してしまえばいい

誰にも告げず

どこにも知らせず

残された力で

静かに

静かに

車窓の風景

僕の見たもの

希望に燃えてやってきたこの街

歯を食いしばって頑張ってきた

フラフラになっても歩き続けた

倒れても立ち上がって歩き続けた

それでも

気がついたときは

どうしようもない状態だった

あの時と同じ景色

僕が見た

失踪という行為の前の

絶望風景