第39話 足りない

 ぶっ倒れちゃったカタリナさんが目覚める気配がない。


 今日の夕食は俺が作るかな。


 図面を眺めると、厨房と食堂らしき部屋が三箇所もあった。


 とりあえず、養護院区画に近いところを改装しよう。なんで三箇所もあるのか分からないけど……カタリナさんが起きたら聞いてみるかね。


 子供達のお世話をメイドさんに任せて、厨房の改装に向かった。


 最初に来た時と違う厨房と食堂だ。この部屋も壁に穴が空いていたり、テーブルや椅子も脚が折れていたりと、なかなかの荒廃具合。


 クリエイト魔法とクリーン魔法でサクッとリフォーム。瞬く間に綺麗な厨房と食堂に変わっていった。


 厨房には地下に通じる階段があったけど、今日は手を付けない。一度中を覗いてサーチ魔法で確認してみたけど、生体反応がなかったので、入り口は封印じゃ。


 綺麗になった厨房に、食材とずん胴や鍋やらと調理器具を並べていく。火の魔石も木材もあるし……厨房の一角を拡張して大きな竃も作っておいた。


 竃があれば、パンとかピザっぽい料理も出来るな!


 残念ながら、自分でやわらかいパンを作った事がない。料理人も雇わないといけないね……。


 手持ちで出来る料理は……。


 唐揚げだな!


 あと、野菜スープも出来るな!


 ストレージの中に、ミンツの街で買ったパンもあるし、メニューの種類より量で誤魔化そう!


 いきなり大所帯になっちゃったから、少し勝手が違うね。


 調味料や食材の手配をどうするか……料理人さんが雇えたら色々教えてもらおうかな。王城の厨房も見せてもらって参考にしよう。


 かー、やばい、忙しいわぁ。


 最初に家を作った時より楽しいかも。


 フフーフーン、フンフンー


 鼻歌のリズムに乗って料理を盛り付けていった。


 ふむ、なかなかちゃんとした食卓になったんじゃない。


 俺、がんばった!



 子供達と、眠っていたカタリナさん、一緒に食事を取るのに躊躇するメイドさんとテーブルを囲む。


 謎の食前の祈りをして、唐揚げを頬張った。


「「「おいしー!」」」


 育ち盛りの子供達にはやはりお肉ですね。


 皆、しっかり食べて大きくなれよ!


「こちらのお肉は、さっぱりして食べやすいですね。お野菜が入ったスープも、こんなに味があるなんて驚きました」


 カタリナさんが、一口食べる毎に歓喜の声をあげている。また、驚きすぎてぶっ倒れないといいけど……。


「護衛の方々は何人いるのかな?」

「はい。四方の警備が八人、控えが四人でございます」

「それじゃ、警備の人達の食事を取り分けておくから、後で届けてもらっていいかな?一人ずつ分けておくね」


 ささっと厨房に行き、大きい木皿とお椀を十二個出す。


 サラダと果物もあった方が良いよね。


 梨のようなリンゴのような果物を、ザクザク切り分けて添えていく。噛むたびにねっとりとした甘い果汁が出る果物なのだ。


 それなりに綺麗に盛り付けれたかな。


 ちょっとしたプレートメニューに見えなくもない。


 うんうん、上出来!


 警備の人の休憩室とか寝床に食堂もあった方が良いのかな……。守衛区画とか作ろうかな。忘れないように板書に書き記す。


 唐揚げをお腹いっぱい食べた子供達は、食後の果実酒を飲み干して満足そうだ。小さい子達は、既に船を漕ぎ出しその場で眠ってしまいそうなので、新しくなった部屋に連れて行く。


 改装工事は、まだ途中段階だ。


 自分の部屋と工房の場所も決めてないので、王城通いはしばらく続きそうだ。母様手配の家具達が届いてからでも遅くないかな。


 でも、外に出ると結構寒い。本格的な冬が到来する前に終わらせたいね。


 カタリナさんと、年長のラットくん、ナナリーちゃんに見送ってもらい、馬車に乗って王城に戻った。




 ――もじもじルイス王子様から声を掛けられそうになったけど、はっきり言葉を告げられる前に教室を出る。


 正直、今は彼に構っている余裕は無いのだ。


 昨日の改修状況と必要な家具類や、肌を潤す魔道具の報告を母様達にしなければいけない。


 王族の女性しか立ち入れない談話室に着くと、母様達は既に椅子に腰掛け優雅にお茶を楽しんでいた。


 メルティナ母様の手招きで席に着き、お茶を口にする。


「リリスもお忙しいでしょう。早速、本題に入ってくださいな」

「はい、王妃様。本日は、肌を潤す魔道具をお持ちしましたので、ご覧ください。合わせて、住居で必要な物をまとめましたので報告いたします」

「あら、いやですわ。私達の事は、母と呼ぶようにとお伝えしたじゃない」

「そうよ、ここでは畏まる必要がありませんの」

「さ、言い直してくださいな」


 母様達の言葉の圧が強い……。


「あ、こほんっ。お母様、こちらが肌を潤す魔道具です。こちらのボタンに魔力を通すと、潤いを保つ特殊なミストが吹き出しますので、こうして顔を当ててください」


 この世界で秋冬に肌が乾燥しちゃうのは分からないけど、潤いは大事だろうと思い、あり合わせの素材で作った魔道具だ。


 大森林で採ってきた草花を調合したら、保湿力が高そうな液体が出来た。自ら実験したので、肌が被れたり、湿疹が出る事もなかったので、品質に問題はないはず。


 最初に、セレーヌ母様がミストに顔を当て、効果を確かめた。


「んまぁっ、頬に指が引っ張られますの。まるで赤ちゃんのお肌ように瑞々しさを感じますわ!」


 ツルツルとした肌に変わったセリーヌ母様を見て、メルティナ母様、バレンチナ母様も続いてミストにトライ。


「素晴らしいですわ、リリス。こちらは本日から使いたいわ。よろしいかしら?」

「はい、お母様方の魔道具をお持ちしてます」


 三人が目を合わせてから、こちらに視線を向ける。


 メイドさんが、それぞれの席に魔道具の入った木箱を置いた。中を確認すると、母様達の顔がパッと笑顔に変わる。


「それで、改修は順調ですか? 身の回りで不足している物があれば、グレイス商会を使いなさい。こちらから話は通しておきましたから」

「リリスのお部屋に置く家具はいつでも運ばせられますの。整理が付いたら教えてちょうだいね」

「住居が整い次第、お披露目を開かねばいけませんね。落ち着いたら連絡を寄越すのですよ」


 母様達から手配してもらった家具のリストと、引越し後のスケジュールを貰った。自分が用意したメモの板書では全然足りなかったようです。比べて見て抜けているところが沢山あった……。


 男の一人暮らしレベルで考えてはいけない。


 これを一人で整えるのは……ちょっと大変だったわ。


 母様達に頭が上がりません。


「それと、教会の移動に合わせて、側使えをこちらから付けさせます。ニナ、カティア、サリナ、こちらにいらっしゃい」

「「「はい、王妃様」」」


 いつも一緒にいるメイドさんと、たまに見かけるメイドさん達がテーブルの側に来た。


「この者達は、リリス専属の側仕えになります。身の回りの世話や、私達の報告に使うのですよ。貴族の習わしに、リリスはまだお勉強が足りてませんから、この者達から学ぶのですよ」

「皆さん貴族出身ですよね? こんな平民に仕えるなんて、嫌じゃないですか?」

「あら? 変な事をおっしゃるのね。リリスは私が後見してますのよ? 王族に準じた貴族ですわ。ニナ、そうでしょう?」

「はい、王妃様。リリス様は王族としてお仕えさせて頂いております。また、様々な発明品を生み出す知識に、膨大な魔力をお持ちです。このような素晴らしい方にお仕えでき光栄でございます」


 メイドさんがキリッっとした表情で答える。


 彼女と会話するようになったのはここ最近だ。色々と作った物を上げたり、遠慮なく魔法を使っている姿を見られてる。


 ある意味、自分をよく知る人で、信用してしまっている。


「ニナ、こんな私ですけど仕えて頂けますか?」

「はい、末永くお仕えさせて頂きます」

「突然いなくなるかもしれないですよ?」

「私にはリリス様のような力はございませんので、いつでも戻って来られるよう、お屋敷をお守りさせて頂きます」


 思わずニナさんの言葉に胸が熱くなる。


「これからもよろしくね、ニナ」


 椅子から飛び降り、彼女に抱きついた。


「早速ですが、リリス様。お時間が迫っております。本日は、教会へ行かれますか?」

「うん、いく。ニナ達の部屋も作らないとね」


 笑顔でニナの顔を見上げる。彼女も応えるように笑顔を向け、そっと身体を離す。


「お母様、ありがとうございます。早速、教会に行って来ますね」

「ええ、素敵な屋敷になるよう頑張ってくるのですよ」


 お母様達に貴族然とした会釈をして、ニナ達メイドさんに連れられ教会へ向かった。


 こんなに順風満帆な生活でいいのかな……。


 幸せ絶頂過ぎて怖い。

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