第37話 愛はある

 王様に元クセルレイ大教会に住んで良いか聞いてみたら、二つ返事で許可を貰った。


 住み着いてしまった孤児を引き受けて、自立支援をする事を伝え、こちらも了承が得られた。


「ボルトン、センターロア区画に養護院の開設を通達せよ」


 王都の平民が住める区画は大小十五に分かれている。区画毎に治癒院、所謂病院のような施設や、平民の学校、戦争や魔獣によって親を亡くした子供を養う養護院を置いているそうだ。


 大教会の移設によって、自分が住む事を許されたセンターロア区画には養護院がなかったそうで、都合が良かったみたい。


 文化財的な価値は元教会にはないそうで、好きに改装して良いそうだ。


 王様と宰相のボルトンさんの許可を得たので、本日のミッションは完了したと言える。


 王妃様の隣で顔を真っ赤にして自分をガン見するショタ王子様がいたけど、見ないようにしてやり過ごした。


「リリス、少しお話があります。一緒にいらっしゃい」


 王様との話が終わったので、自室に戻ろうとしたら、今度は王妃様に引きとめられてしまった。ショタ王子様に呼び止められなくて良かった……。


「こちらよ」


 王妃様達の後に続いて謁見の間を出る。


 女性だけの話になるようで、ショタ王子様は付いてきていない。


 もし一緒だったら、自分の平穏を巨大まで脅かすテンプレ展開に突入するだろうと思っていたので、少し気持ちが楽になった気がする。


 中央扉ではなく、王様や王妃様達が使う扉から外へ出た。大人二人分くらいの通路を、王妃様達の後ろに続いて移動する。いつもの広い回廊と違うので新鮮です。


 王妃様達に招かれた部屋は、定期的にお茶会や下着品評会を行っている談話室だ。来た道に繋がる扉が、まさか大きな鏡だったとは……さすが王城ですね。隠し扉だった事に驚いてしまった。


 もしかしたら、自分が使っている部屋にも隠し扉があるかも。なんて妄想を膨らませながら、席につく。


「リリス、私達はそんなに頼りないかしら?」

「王に直接ご相談されるなんて、私、とても悲しいですわ」

「貴女を後見に持って、良い関係を築けていたと思ってましたの」


 三人がそれぞれ、悲しい顔で自分を見ている。


 あぁ……元教会に住めるかどうかの話は王妃様達に一切していない。


 昨日の今日で、王様と面会できると思ってなかったからなぁ。


 慎重に動いていたつもりだったけど、やらかしたわ。


「ごめんなさい。思っていたより早く話が進んでしまって、皆様にご説明出来ていませんでした」


 上司をすっ飛ばして社長に直訴するようなものだからねぇ。物事には何でも順序がある。そんな部下がいたらやりづらいですし。


 王妃様達から窘められるのは当たり前なのだ。


 深々と頭を下げて、素直に謝罪した。


「貴女が来てから、私達はこれまでの生活が張りのあるものへと変わりました」

「私達三人がこうして手を取り合い、王を支える事が出来るようになったのは、貴女のおかげですのよ」

「幼いのに大森林で生活してきた貴女ですから、何でも一人で出来てしまうのは分かります。ですが、私達も享受するばかりでは立つ瀬がありませんの」


 三人ともさっきよりさらに悲しみが増しているのか、瞼が下がっている。


「あ、いや、その……私のような平民の後ろ立てになって頂いたり、普通では住めない王城で不自由無く生活させて貰っているので……悲しませて申し訳ございません」


 王妃様達の庇護下じゃなかったら、どんな目に合っていたか……また暗い場所に押し込まれて良いように利用されてしまう人生になっていた可能性もある。


 魔力を封じられてもジークがいるから逃げる事は容易だけど、間違いなく王都がめっちゃくちゃになって、傷つく人が沢山出てしまう。


 意図せず誰かが不幸になるのは、望んでいないのだ。


 そういう意味で、この方々には助けられた。感謝しても足りないくらいに自分は思っている。


「そう、後見人として、貴女を支えてあげたい気持ちに偽りはないの」

「わがままな話かもしれませんけど、貴女の母のように頼って頂きたいのよ」

「もっと甘えてくださいまし。幸いな事に私達には力があります。困った時、悩んだ時に最初に相談してくださいますか?」


 成りは小学生くらいのちびっ子だけど、中身が……ね……。


 甘える……抱きついたり、一緒に寝てもらうとか? 多分、そういう事じゃ無いのは理解できるけど、おっさん思考がフル回転してしまう。


 三人とも経産婦のせいか、それとも元からなのか……とにかくおっぱいがデカい。


 揉みたい……埋もれたい……。


 ふふ、こんな身体でなければチート全開で攫ってたわ。


「リリス、こちらにいらっしゃい」


 はっと、邪念から覚める。


 メルティナ王妃様が、部屋の中に置かれているロングソファに移動し、手を広げ待ち構えた。


 おっぱいガン見していた事が悟られた?


 どっ、どうしよう……


 椅子から降りたのは良いけど、さっきまでの邪念のせいで躊躇してしまう。


 すると、背中を誰かから押される。


「さぁ、いきましょう。リリス」


 気づけば、バレンチナ王妃様が後ろに立っていた。


「ふふふ、少し意味が違いますけどね」


 セレーヌ王妃様に手を取られ、メルティナ王妃様の元へ移動した。


 スルリと頭に腕が巻かれ、柔らかい物に顔が包み込まれる。


 こうやって抱き締められるのは……この世界では初めてだ……。


 突然のことに、戸惑い焦っていた気持ちが徐々に穏やかになっていく。


 身体の奥底から熱が溢れだし、ポッポと火照りだす。


 胸に押し付けられて呼吸が苦しいわけじゃ無いのに、顔まで紅くなっているような気がした。


 目が熱い。口が震える。


 理解できない現象に戸惑った。


「大丈夫よ。私達がいますから。何も怖くないのよ」


 身体からフッと力が抜け、涙が溢れる。


「ごめ……なさい。あっ、ありがとう……」


 ギュッと王妃様の身体にへばりつく様に腕を伸ばした。


 この気持ちは何なんだろう。


 前世と今生の記憶が複雑に絡み、走馬灯のように思考を駆け巡り出した。


 乱れる思考のせいで感情が抑えきれない……うっ……


 ワァァァァァァーン、アァァァァー!


 どうしたら良いのか分からない、声を止めれない。


 クゥゥゥゥゥ、ンゥァァーン!


 感情の波が収まるまで……ただただ泣き続けた。

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