第36話 寒気
執事さんの提案に、もじもじ王子様が乗った感じで、後日お茶会に招かれる事になった。
このイベントは避ける事が許されない……王族の誘いを断るのはありえない……のだ。
メイドさんの視線で、我察しました。
はぁ、気が滅入るわぁ……。
よもや、こんなベタベタな展開に遭遇するとは思わなかったよ。とほほ。
王城に着き、王子様達と分かれて自室に向かう。王様との面会なので、制服のままという訳にはいかない。
王妃様がしこたま用意してくれたドレスの中からメイドさんが一着選んで持ってきた。今日は金の糸で刺繍された青色のドレスだ。
メイドさんに背中の紐をギュッと絞ってもらい、いさ王様の待つ部屋へ向かった。
どうやら先客がいるようで、謁見の間の前に立つ騎士さんに腰掛けて待つように指示される。
王様と直接面会出来るという事は、そこそこ地位のあるお貴族様か、他の国の使いとかだろう。
お作法とかなんやらかんやらで直ぐには終わらないよね……本当に貴族ってのは面倒いね。
通路に置かれている物凄く高そうに見える美術品を眺めながら時間を潰した。
ゴンっと扉が開き、奥から三人の男の人が出てくる。
「これで、この国での探索も出来るそうだな」
「先ずはミンツの街へ向かうぞ」
王様との話が上手くいったのか、男の人達の声色は明るい。
ジロジロ見たら失礼になると思い、視線を外し、通り過ぎるのを待つ。
コツコツと廊下に響く靴音。
その音は、直ぐに無くなり男達の話し声しか聞こえない。
謁見の間からもっと離れてから喋ったら良いのに……。
そんな事を思ってたら、再び靴音が聞こえ、自分に向かってきている気がした。
まさかさっき考えてたことが口から漏れた?
じんわり汗が出る。
気のせい、気のせい……早く通り過ぎろぉー!
スカートをぎゅっと握り、話しかけられないように俯いてやり過ごそうと体制を整える。
「はー、どっこいせ!」
靴音が一瞬止まり、男の声と共にドカッと腰掛ける音がする。
思わず音にビビって身体が強張った。
いひー、なんで隣の椅子に座るんですか!
ほら、もう少し歩けば長椅子ありますよ? 王城生活が長いから、それなりに何が置いてあるの知ってます!
そんな、自分の気持ちとは関係なく、男達の談笑は続いた。
「跪くいたり立ったりと腰が痛かったわい。少しここで休んでいかぬか?」
「マッテン、我々は遊びに来たのではないんだぞ」
「休憩が多過ぎるな、少し痩せろ」
隣に座るマッテンと言われる人の脚が視界に入る。
丸太のように太い脚……ズボンがパツパツだ。
確かにこの脚で立ったり座ったりは大変かも……。
あの脚から推定して、ドワーフみたいなお腹ぽっこり、手足が太くて、顔がひげもじゃと勝手に想像。
ふふり。
ドワーフのおっさんぽい人の容姿を想像したら、緊張が緩んでしまい、自然と笑みが溢れてしまった。
しっ、しまった……。
これから、男の人達に問い詰められるのは避けられない。
全身の毛穴から、汗がブワッと吹き出したように感じる。
「ほら、隣のお嬢さんが失笑しているではないか。いくぞ」
いっ、あっ、なんかすいません。
これは、謝らないといけないよね。
「あ、あの、すいません。皆さんのお話が面白くて、つい想像を膨らませてしまって……本当にごめんなさい」
「おっ、おぅ、そんな畏まるこたぁねぇ。気にしなくていいぞ、嬢ちゃん」
おおらかな人みたいで良かった……野太い声だけど不快に思っていないように思える。お貴族様っぽくないけど、気にしない。許されたのだから!
「おれぁ、こういうかたっくるしい所は苦手なんでな、ついつい油断してしまう」
「私も、こういう場所にはあまり長く居たくないです。いつボロが出るかハラハラしてます」
「おぉ、そうか、そうか! 嬢ちゃんも大変だな!」
「マッテン! お嬢さんに触れるなよ。ここは王城だからな」
「おっと、いつもの癖で手が出るとこだった。あぶねぇ、あぶねぇ」
はは、ドワーフのおっちゃん、自分の背中か肩をバシバシ叩こうとしたよね……。あの脚の太さから推測するに、腕も丸太だろう。
身体強化魔法をかけていないから、叩かれたら間違いなく複雑骨折してたかも。
「リリス様、御成!」
騎士の声と共に、謁見の間の扉が開かれた。
「リリス様、王がお待ちです。どうぞお進みください」
「はいっ!」
メイドさんの呼びかけに元気に答え、椅子からぴょんっと、あざとく飛び上がる。
取り敢えず、この場をやり過ごせた事に開放感を感じる。
男の人達の顔を見ず、会釈した。
「楽しいひと時ありがとうごさいました。またお会いできた時はいろいろ聞かせてください」
そう言えば、ミンツの街に行くとか言ってたな。もしかしたら、また会うこともあるかもね。
くるりと向きを変え、足早に謁見の間に向かう。
「えっ? リュミエール様? そんなまさか」
「うそだろ? きっ君、ちょっと……」
「嬢ちゃん……」
閉じられた扉の向こうから、男の人達の声が微かに聞こえた。
何を言いかけたかハッキリ聞こえなかったけど、また三人で話が盛り上がっちゃったのかな?
「すまんなリリス。あぁ、畏まる必要はない、普段通りで良いぞ。今日は何かと忙しいのでな、ここで話を聞かせてくれ。何ぞ、面白いものでも見つけたか?」
頭を上げ、王様に視線を向け……しばし思考が停止した。
君、何ちゃっかり王様と王妃様に紛れているかな?
これから大きなトラブルが起きる予感がして、ブルっと身体が震えた。
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