第12話 自衛手段
イケメンから解放され、ミンツの街まで騎士団の皆さんに送ってもらった。
攫われた時に置きっぱなしになったリアカーと積み荷は、門番の騎士さんが預かってくれてたので無事だった。
「本当に災難だったな。無事に帰ってきたから安心したよ」
この言葉は騎士さんの本心なんだろう。いつの間にか、この街の一員として見てくれるようになったのかな。人から優しい言葉を掛けてもらうのは、何ともむず痒くも嬉しい。
「心配してくれてありがとうございます。この通り元気に返ってきました!」
拳をグッと握って見せると、騎士さんはうんうんと何度も頷いた。
普段と変わらず、リアカーを引いて家に向かう。
汗と泥と返り血の付いた服と臭いパンツを脱いで風呂に浸かる。
――二度目の拉致を経験して、この無防備な状態はよろしくないとの結論に至る。
不意打ちでブスッっと刺されてもおかしくない……これが異世界の常識。何人もの攫われた人の記憶を見て、白昼堂々だろうが寝静まった夜だろうが悪人は堂々と犯行に及ぶのだ。
湯舟に顔の半分まで浸かりながら、自衛手段を考えた。
疲労が溜まっていたのか、陽が上まで上がるまで眠っていたようです。ストレージに入れて置いた作り置きのサンドイッチと果実ジュースを頂く。
ストレージに手を突っ込んで、使えそうな物をテーブルに並べた。
鉄鉱石に金塊と銀塊、名前の分からない鉱石と魔石、布類に魔獣の皮類……何でも作れそうだけど、何を作るべきか。
とりあえず、魔法無効とか物理無効、状態異常無効系のアクセサリー造りから始める事にした。魔石に付与したい魔法を注入して、金銀の塊を指輪やら腕輪に錬成するだけなので、時間を使わずに完成した。
丸太に出来たアイテムを置いて、実際に魔法やら棒で殴ったりしても傷ひとつ付かなかったので効果は間違いないはず。
次に魔法を使う事が多いので、杖を作った。これは少し意匠に拘って何度かイメージを練り直し錬成。
マジカルでキュートで凶悪そうな杖だ。先にはサイクロプスを倒した時に入手したデカい魔石を球状に加工して取り付けた。この魔石には魔力増幅させるブーストを付与。
試し打ちとして、主食の狼連中に弱めの火魔法を放ったら灰も残らなかった……使いどころを間違えると大変な事になりそうです。
ちょっと手間取ったのは鎧類だ。胸当てやら腰回りは簡単に作れたけど、腕やら肩、足はかなり苦戦した。曲がらない、ガチャガチャうるさいと……細切りにしたり革ひもで繋いでみたりといろいろ挑戦した。
なんとか、イメージを高めて最後は少しどこかの王様が纏っていそうなドレスアーマーが出来た。中に着るドレスも赤、青、紫とデザイン違いで作成。
付与魔法もしっかり施したので、ちょっとやそっとの攻撃では傷ひとつ付けられないと思う。
ドレスアーマーは何時でも着用出来るように、ストレージのような魔法を魔石に付与し腕輪として装着。変身アイテムまで作成してしまったのだ。
その後、夜が更けるまで作業部屋で武器を作り続けた。
ロングソードから短剣、斧にハルバード、ランスに三俣槍、長刀に刀、弓にボウガンと……記憶にある武器を素材や付与を変えて試行錯誤。
使う予定があるとは思えないが、作る楽しみに触れ没頭してしまった。
それから数日、小麦粉や卵の在庫が心もとなくなるまで家でのんびり過ごす。いろいろ作り続けていたので、ストレージの中が少しごちゃごちゃして取り出しづらくなったので、大量のポーションと、鉄製の武器を売りに行こうと思う。
いつも通りに空のリアカーを引いて街へ向かった。
途中で荷物をストレージからリアカーに移し替え、門番の騎士さんに挨拶すると引き留められる。
「ちょっと待っててくれるかな。君を探している人がいるんだ」
はて、商人ギルドのお爺ちゃんなら行けば会えるし、露天商の小麦粉を売ってくれるおっちゃんも同様だ。石鹸とシャンプーを売ってくれるお姉さんでもないよなぁ。
心当たりが無いので、首を傾げる。
「今使いを出したから、直ぐにくると思う。すまない、もう少しまっててくれ」
ちょっと焦ってる様子の騎士さん。何度も留まるようにお願いされてしまった。
リアカーに腰をつけ、来た道を眺めて待つ事にした。
しばらくして、門の向こうから馬に乗った騎士が現れる。
「やぁっ、鉄仮面のお嬢さん。随分探したよ。本当に絶望の大森林の側に住んでいるんだね」
キラリと白い歯を見せ、笑顔で話し掛けてくる騎士……すっかり記憶から消えてました。
「こんにちは、シュバルツさん? 様ですかね」
「ははは、どちらでも構わないよ。キミに届け物があるのだが少し時間を貰ってもいいかな?」
えーと、どうしたもんか。チラリとリアカーに視線を向ける。まだ、換金終わってないんだよなぁ。この荷物どうしようか……。
「あぁ、商人ギルドに用があったんだね。キミの用が済んでからでいいよ」
こちらの思いを察してくれたようで。
さすがイケメンは出来る……前世の自分に爪の垢でも飲ませたいくらいだ。
「案内ご苦労だった。名前を教えてくれるかな?」
シュバルツさんの問いかけに門番の騎士さんはガリアと名を告げた。へぇー、何度も挨拶する中だけど名前知らなかったわ。これからはガリアさんと言おう。
商人ギルドまでシュバルツさんと騎士二人が同行する。シュバルツさんは興味があるのか、商談の場にも同席したがるので、やんわりとお断りさせてもらった。変に興味を持たれても困るので……。
いつも通り必要な金額だけ受け取り、残りはギルドに預ける。ポーションも武器も想像以上に喜んでもらえたので満足だ。預かり証の金額は白金貨三十枚、金貨八千枚、銀貨四千枚、銅貨七十枚と書かれている。
お爺ちゃん商人に数字を教えてもらったので、今では書かれている数字くらいは分かるのだ。文字は相変わらず……ほとんど読めない。
ほんと、勉強しないと不味いよなぁ。
リアカーを一先ず商人ギルドに預け、シュバルツさんと合流。
お洒落なレストランに案内され、席についた。
「さて、キミは約束を覚えているかな?」
そう言いながら、一枚の蜜蝋で封がされた手紙をこちらに差し出した。
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