第13話 謁見1
シュバルツさんから渡されたのは、王城への招待状だった。
盗賊の討伐ならびに王女奪還の功績を讃えたいとかなんとか……シュバルツさんも約束を守ってくれたようで、今回の謁見については公的なものではないそうだ。
で、何時伺えばいいのかと聞いたら……四日後。
ミンツの街から帝都まで馬車で二日かかるので、明日の朝にはここから出発。帝都に前乗りするのが礼儀だそうだ。
ドレスやら化粧は全て城で用意されているそうなので、特に何か持っていく必要はないと。
これだけ日にちが迫っているのは自分のせいでもある……。
絶望の大森林の側には、騎士団を最低二つは動かさないと危ないそうで、シュバルツさんの団だけでは近寄れなかったそうだ。彼等もただ自分が来るのを待っている訳にもいかず、遠見の魔法で森付近に家がないか調べたそうだけど、見つけられなかったらしい。
ええ、ミラージュの魔法で家を覆ってますから……看破できる魔法使いの人じゃないと見つけられないのかもしれないね。
「キミ、その仮面の下で笑ってないか? 困らせるのは上手みたいだね」
白い歯が再びキラーンと輝いた。
無駄に良い笑顔が憎らしく思う……。
残念ながらイケメンの魅了にはかからないので、仮面の向こうは涼しいです。
「では、明日の陽が昇る前にさきほどの門の前でお待ちいたしますね」
「うん、そしてくれると助かるよ。では、また明日」
出されたお茶をクイッと喉にかっ込んで席を立った。
――キンキンキン、キンキンキンキン、キンキンキン
夜明け前を知らせる目覚まし時計が頭上で音を立てる。
早起きが求められる日がいつかくるだろうと想定し、錬成で作った目覚まし時計。長針も短針も無いので時計とは呼べない代物なんだけどね。朝日を魔石が感知しベルを鳴らす至ってシンプルな仕掛けだ。
ベルの側の突起を押して動作を止める。
「くぁー!」
グッと背を伸ばしてベッドから飛び出し支度を始めた。特に持っていく物はないとか言ってたけど、自衛の装備だけはしっかり身に着ける。ストレージに入ってるポーションや料理の在庫もチェックし、不測の事態に備えた。
異世界は治安がお世辞でも良いとは言えないので。
軽めに朝食を取り、ミンツの城門前まで駆けて行くと、既にシュバルツさん達が待機していた。挨拶とイケメンの軽口を聞き流して、用意してくれた黒塗りの馬車に乗り込んだ。
帝都までの二日間、車内は自分とお世話係のメイドさんの二人だけ……。対面に座るメイドさんにめっちゃ見られているので、だらけた姿勢にもなれず身体強化で身体を固定し凌いだ。
ぼんやり車窓から風景を眺める。十字路や三差路に差し掛かると標識看板が立っていて、帝都へ近づくほどに標識の数も増えていった。
「やはり都会は違うねぇっ」と、お上りさん感覚で住んでいる場所と比較した。
道中、特に事件も起きず中継地点の街で一泊。その日の夜には王都に着いたようだ。と言うのも、途中で眠ってしまって目覚めたら見慣れぬ部屋だった。
「おはようございます、リリス様。ご気分はいかがでしょうか」
お世話係のメイドさんに声を掛けられたが、脳がまだ覚醒していないのでリアクションが遅れる。
「あ、元気です」
「旅のお疲れが出ていらっしゃいますね。本日はこちらでお過ごし頂き、明日王城へご案内いたします」
まだ寝ていて良いって解釈して、再び布団に潜り込んだ。
シーツと敷布団の感触を手でにぎにぎしながら確かめる。うーん、家の布団のほうが寝心地いいかな。と、自画自賛しながら目を閉じた。
「くぁー、良く寝た―!」
上半身をむくりとお越して背伸びをする。二度寝したおかげで頭スッキリです。
直ぐにメイドさんが来て、陶器の壺をベッドの下に置いて見せた。
「どうぞ、こちらへ」
「えっと、それは何?」
「便器です。お小水がまだでございますので、こちらでお済ませください」
おしっこならトイレで……。
「ささ、どうぞこちらへ」
ずいずい来るメイドさん。目がマジなんだけど。
とりあえず、便器の前に立つ視線をメイドさんに向ける。えーっと、そんなまじまじ見られると出る物も出ないと思うのだけど。
戸惑う自分を他所にメイドさんは「しつれいいたします」っと言葉を掛けると、腰に手を入れズバッっと下着を降ろしてきた。
「ひゃぁっ」
他人に下着を降ろされた事なんて一度も無い経験に思わず変な声が出た。
そのまま、肩をグッと掴まれ無理やり便器に座らされる。
いいっ……便器が冷たい……そして、メイドさん力強すぎ。
「初めての事かと思いますが、どうぞお気になさらずお出しください」
冷たい便器に身体がブルっと震えると、可愛らしい音が聞こえる。下半身から解放感が脳に伝わるような感覚。
その後、ソフトタッチで下半身を布で拭いてくれた。
顔から火が噴き出しそうなくらい恥ずかしい……。
人前でおしっこをする事がこれまでの人生であっただろうか。
否! ないのだ!
「くぅ……」
目から汗が零れそう。
メイドさんはさも当たり前と言わんばかりの涼しい顔してますけど、これは心が折れる。
これが貴族の常識ですか?
恥辱に悶えていると、メイドさんに触られた感触がフィードバック。下腹部に熱を感じるとジュンとする……おしっこが残ってて漏れたか?。
また便器に座らされる……もうキャパオーバだよ!
ヤバイっと思い、身を隠すようにベッドに飛び乗り布団にくるまった。
――この事がきっかけとなり、数十年後、貴族社会を中心に便器改革が起こり、一般家庭にもトイレが普及。さらに、下水道も完備。健やかで衛生的な暮らしが約束されるのであった。
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