第11話 イケメン

 盗賊のアジトに向かっていた青色の光の集団は、クセルレイ帝国の第一騎士団を名乗った。


 そして今、自分は騎士団長の部屋にいる。


 対面にいるイケメン騎士が眩しくて直視出来ない。


「さて、どこから聞こうか。沢山聞きたい事があるんだよね、キミには」


 えっ、そんなに聞きたい事あります? 自分には全く身に覚えがないのですけど……。仮面の内側は冷や汗ダラダラです。


 騎士団が盗賊のアジトに到着し、捕まっていた女性達の部屋を見つけた時には、自分も同じく眠っているふりをして運ばれた。


 一応、被害者の一人ですし。


「回りくどい事は僕も苦手なんだよね。ズバリ、キミでしょ? 盗賊を討ったの」


 ニコニコ白い歯を見せて笑顔で話し掛けてくるけど、眼が笑ってないですね。なんか脂汗まで出てきましたよ。


 青色だから敵意は無い。街ではいろいろ誤魔化してきたけど、目の前にいる騎士団長のシュバルツさんは通用しない気がした。


「キミ達を攫った盗賊はね、僕たち騎士団を持ってしても被害が免れない厄介な集団だったんだ。こう言ってはなんだけど、あの場所で大立ち回り出来るのはキミしかいなんだよ」

「えーと、それは何故でしょうか」


 話に乗って来たと思ったのか、シュバルツさんはさらに言葉を重ねた。


「もしかしてと思ったけど、無自覚みたいだね。キミ、魔力が豊富過ぎるせいか制御が下手なんだよ。キミのいたミンツの街の近くで強大な魔力反応があったと報告を受けているけど、それも多分キミかな」


 ……あぁ、何故気付かなかったか。


 サーチの魔法というか、魔力の感知くらいなら出来る人がいても不思議じゃないよね。街から家までは結構距離があるからぶっ飛ばして帰るときは魔力もかなり使う。


 たぶん、その事を言ってるんだよね。


「キミが魔力を使ってくれたから僕たちは駆けつけられたんだ。決してキミを責めている訳じゃないから誤解しないで欲しい。むしろ、僕たちに代わって討伐してくれた上に王女様も救ってくれた事に感謝したいくらいだよ」


 良い事言ってくれるのは理解できるけど、相変わらず目が笑ってねぇ!


「本当の事を話したら、私はどうなりますか?」

「素晴らしい武勲を上げてくれた方に危害を加えるなんて、国家の恥になる。キミの身の安全は保障するから安心してくれ。事態が落ち着けば、国王様より褒美を賜る事になると思うよ」


 そっか、ここは素直に言葉を信じても良いかもしれない。


 シュバルツさんには自分が魔法を使える事、絶望の大森林の側で生活していて、魔獣の素材を売って生計を立てている事を伝えた。


「なるほど、森の魔獣を単独で倒せる力を持っているのか。それを証明できる物はいまあるかい?」


 むむむっと、悩む表情を見せるシュバルツさんの前に、ウルフ系の牙とサイクロプスの目玉、使ってない魔石を幾つか出した。


「ははは、こんなにあるのか。魔石もどれも最上級品だな。キミの実力は理解した。まさかこの国に賢者がいたとは、まだまだこの国も調査が甘いみたいだ」


 魔獣の素材と自分を交互に見て苦笑いするシュバルツさん。


 買取してくれる商人ギルドのお爺ちゃんとは対照的ですね。あちらは素材を見せる度に頬を赤らめて喜んでくれるんだけど。公務員と商売人の違いですかね?


「あの、それでひとつお願いがあるのですが」


 そう、ここでひとつ懸念がある。隣の国に渡ったとは言え、自分は追われる身なのだ。迂闊に目立つ事は避けたい……。


「どうぞ、今のキミには願いを言う権利があるよ」

「できればですが、盗賊を討伐した事に関わっていないようにしてもらえませんか? 報酬も何もいらないので」

「それは承服しかねるな。これ程の功を成したのに褒美も与えぬとなると、この国の威信に関わる。無かった事にするのは難しいよ」

「そっ、そこを何とか……本当に目立つと困るので……」

「うーむー」


 何とか食い下がって交渉を続けたが、シュバルツさんは唸るだけで首を縦に振ってくれない。


 これは弱った……全身から汗が吹きだし、肌着もパンツも湿ってきた。


 あー、早く家に帰ってお風呂入りたい。


「キミは何かと深い事情があるようだね。では、盗賊討伐については、表向きは我々第一騎士団の功績として受け取らせてもらう。だが、国王様と王女様へ嘘をつけば我々が罪を負う事になる。こちらは真実を報告させてもらうぞ」


 シュバルツさんが提案してきた妥協案。たぶんこれが精一杯の譲歩でしょうね。


 二つ返事で承諾した。


「あの、それともうひとつお知らせしたい事があるのですが……」


 四枚の紙をカバンから取り出し、シュバルツさんに提示する。書面を目にした彼は視線を下げると、イケメンを台無しするほどの深く眉間に皺を寄せた。


「まさか我が隊に内通者がいるとはな。この書面は盗賊の拠点から持ち出したものに間違いないか?」


 コクリと頷いて見せる。


「そうか……これは僕も処罰は免れないな……」


 なんだか一気に歳を取られたような雰囲気になってしまった。そっか、騎士団を任された長だもんね。団の中から盗賊に関わる人が出れば、責任を取らざるを得ないよなぁ。


 余計な事しちゃったかな。シュバルツさんの気落ちした表情に釣られて、すこし暗い気持ちになった。


「この情報のおかげで団内が浄化できたと考えれば丁度良い。貴重な証拠を持ってきてくれてありがとう。討伐の功績に謀反者の洗い出し、キミには借りが二つもできてしまったな。この礼はこの命にかけて必ず返すよ」


 沈みかけてたイケメンさんが、パッとキラキラ輝くスマイルをぶつけてくる。


 あー、眼が痛いです。イケメンスマイル、痛いです……。

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