第10話 やり直しの機会

 念押しでスリープ魔法を展開し直す。盗賊の首領のように起きてきたら面倒なので。


 下っ端そうな盗賊から順番に記憶を見ていく。

 この世界にプライバシーの法律はないのだ……貴族主義っぽいからたぶんない……。


 どいつもこいつも碌でもない奴ばっかりだ。


「これはしんどいな」


 ハンター稼業が上手くいかず、仲間を殺して盗賊に堕ちた奴。小さい頃から村一番のワルで、歯向かった人を闇討ちして殺害。女子供限らず嬲り殺しにする事でエクスタシーを感じる奴と……見ていて吐き気が止まらない。


 古くて細い記憶の枝を見ると、皆、両親がいて笑顔を向けている。続けて、枝が歪んだ場所を見ると、盗賊に身を堕とす分岐点だったの事が伺い知れた。


 戦争、飢餓、両親の不和、貴族の圧政、仲間の裏切り、失恋……前世でも同じような悩みを持ちノイローゼになってしまう人がいる。この世界でも人の心は大差ないようだ。


 同情したくなるが……盗賊に堕ち非道の限りを尽くした奴を放置は出来ない。


 独断と偏見で、生死の境を分けた。


 とりあえず、首領以下、幹部連中はグラビティ魔法で壁にはりつけにしてから幻覚魔法を唱え、目を覚まさせる。そのまま闇魔法で全身を包み、局部を集中的に破壊していく。


 その後、それぞれがもっとも恐れる体験を夢の中で見せ続けた。しばらく放置すると、口から泡を吹いて痙攣しながら絶命。いったいどんな夢をみたのやら……。


 その他、情状酌量の余地がない盗賊達は、記憶の枝を丸ごと引っこ抜いて丸めて魔石に移した。全ての枝を失うと人は廃人と化すようだ。焦点の定まらない目で、ボーっと何かを見ている。


 最後に、盗賊達にマインドコントロールされた奴等だ。男が三人、女が一人いる。


 主に街に潜り込んだ盗賊や悪徳商人との連絡役として活動していて、略奪や窃盗、強盗、殺人には直接関与していなかった。


 悲しい事に、そうせざるを得ないように盗賊達に脅され続け、そうしないと生きていけないと自らに思い込ませていたようだ。


 一部、捕らえられていた女性に関与する情報だけ消してから目を覚まさせた。


「盗賊団は壊滅させましたけど、貴方達にはもう一度人生をやり直す機会を与えようと思うのですけど、どうでしょうか?」


 盗賊団が全滅した事に血の気が引いたような顔をして震えていた四人。やり直しという言葉を聞いてか、四人とも示し合わせて黙って頷いた。


「条件は三つです。もう悪事に関わらない事。困っている人がいたら出来る範囲で助けてあげる事。どんなに大変な仕事でも諦めないで続けてお金を自分で稼ぐ事。簡単なようで難しい話かもしれないけど、貴方達は生かされたのです。善行を重ね、世のため、人のために尽くしなさい。いいですね?」


 すっごい偉そうだな。大丈夫かな、この人達。


 ちらっと薄目で四人の表情を見ると、何故か泣きながら手を握って拝まれているような……。


 おっ、おぉ? おかしいな、どうしてこうなった?


「わっ、分かったなら直ぐにここを出て仕事を見つけなさい。身体は先ほど治癒しておきましたらからどこにも問題ないでしょう。さぁ、行きなさい。もう、戻って来てはいけませんにょ」


 崇拝されるとは思わず焦って早口で喋ったせいで、最後に噛んでしまった。


 顔が焼ける熱い!


 仮面を被っているので、火照った顔を見られずに済んでいるけど恥ずかしい!


 なんだろう、このグダグダ感。


 締まらないねぇ。


 そんな自分の気持ちとは裏腹に、四人は「はい、この命大事にして善行を重ねさせていただきます」と、真剣な表情でそれぞれ決意を語りアジトから出て行った。


 女性の元盗賊さんから名前を聞かれたけど、あえて答えなかった。


 こういうパターンは後々付きまとわれる可能性がありそうだからだ。今はまだ一人でこの世界を謳歌したい。気安く接してきても対応に困る。


 サーチで四人が赤から青色に変っている。こんな言葉で改心してくれるとは……皆、単純だと思うわけで……また、騙されないように気を付けてね。


 青い四つの点がサーチの範囲外へ抜けると、今度は入れ違いに青い点の群衆が現れた。その数、およそいっぱい……もう数えきれないほどでみっちりしている。


 青色は敵意が無い色だ。けれど、この数が押し寄せてくるのは流石に恐怖を感じる。青い点にいくつか赤い点も紛れていて、誰も気づいていないようだ……何か嫌な予感がしますね。


 とりあえず、青い点はこちらを目指しているようなので、女性達の部屋に結界魔法を張ってから、盗賊達が略奪した品々を回収。首領の部屋と幹部の部屋には書類が沢山あったので、まとめてストレージに収納しておいた。


 面白い事に、サーチ魔法を展開しながら書類に触れると赤色の光とリンクして書類のサインが光るのだ。


 ふむふむ、これがあの光とリンクしているという事は、あいつはクロってことか。思いがけない新しい魔法の機能に内心喜んだ。


 あいつら多分この書類欲しがるよなぁ……信頼できる人がいれば渡しても良いんだけどなぁ……。


 回収も一通り終え、女性達がいる部屋に戻り青い点が到着するまでジッと座り待つ。


 何も起きないとは思うけど、いつでも魔法が使える様に全身に魔力を纏わせた。

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