第9話 二度ある
あれから、四日に一度のペースで街に足を運んでいる。
小麦粉も買い集めた白い粉で実験して無事に見つけられたので、生パスタが作れるようになった。さらに試行錯誤を繰り返し、時には食べられない何かを生み出した事もあったけど、パンやドーナツまで作れるようになったのだ。
発酵というキーワードが思いつかなかったら、辿り着けなかったよ。
定職についていないので時間はいくらでもあるので、とことん追求出来る環境だ。今日も朝から料理の再現に奮闘していた。
食生活が豊かになると、心も豊になるって言いません?
……最近、胸のあたりも豊かになってきて、目のやり場に困ってきたんだけどね。
確実に女子力が上がっている……。
午後は街へ買い出しに行く。最近は魔獣の皮も売りに出そうと思いリアカーを作った。未だゴムは見つかっていないので、タイヤは木製だ。
衝撃を吸収するサスペンションは試作段階なので実用に至っていない。これも課題のひとつとしてがんばって模索している。
街が見えるか見えないかの距離まで空のリアカーを引いて、インベントリから子供が持ってくるには問題なさそうな量を積み込む。絶望の大森林に棲息する魔獣はどれも稀少らしいので、上から布を被せて積み荷を見えなくする。
商人ギルドのお爺ちゃん紳士とはすっかり顔馴染みだ。どうも専属で付いてくれているようで、来る日を予め伝えておくと玄関で待っていてくれたりする。そこまでやって貰わなくてもいいと言っていても、「大事なお客様ですので、そうさせてください」と、逆に返されてしまう。
魔獣の素材を換金して、露店で食材をリアカーに積めるだけ買った。ちょっとだけ買いすぎたので、身体強化の魔法を掛けてリアカーを引いた。
門の周辺がいつもより少し物々しい……が、関係ないので通り過ぎる。
「嬢ちゃん、気を付けるんだぞ。近場に盗賊が出てるからな、ヤバい奴がいたら直ぐ逃げろよ」
なるほど、ここでも盗賊が出るのか。なんかフラグ立ったっぽいなぁ。
「ありがとう!」
気を使ってくれた門番の騎士に御礼を言って、急ぎ家に向かった。
――一度ある事は二度あると言いまして。
現在、盗賊の腕の中におります。リアカーの積み荷をインベントリに入れようとした瞬間、抵抗する間もなく太い腕に抱きかかえられました。
……このまま魔法を使って脱出する事は可能だけど、まとめて退治するのも悪くない。
サーチで周囲の盗賊の数を把握しながら黙って攫われた。
洞窟を利用したアジトには五十二人の盗賊がいる。捕らえられている人は十人だ。青い点と赤い点が重なっているところが二か所あった。あまり考えたくないが、これがリアル盗賊なんだよな。
今回は夜を待たずにアジトに入った瞬間に広域のスリープ魔法を展開する。とりあえず全員寝とけって感じだ。
抱きかかえられていた男からスルリと抜けて、腕を掴み右側の壁にぶん投げる。グッっと呻く男に「グラビティ」の重力魔法で壁にめり込ませた。
女性に
赤い点を辿りながら一人ずつ処理していく。
最後の大きい部屋に向かうと、昏睡魔法が解けたのか巨漢の男がのっそり現れた。
「おい、どうなってんだ? 俺のお楽しみを邪魔しやがって!」
野太い声でイライラしているような声を向ける男。女性を頭から鷲掴みにして不機嫌を露にしていた。女性は何も纏っておらず、身体中にナイフで切られたような切り傷が見える。太股から垂れた鮮血が生々しかった。
瞬間湯沸かし器のように、怒りが込み上げる。
本能のままに男との距離を加速魔法で詰め、女性を掴んでいる腕をウインドブレードで切り落とし、左手で男の脇腹に触れゼロ距離でバーニングフレアの魔法で吹き飛ばした。
威力が強すぎたせいで、男はグゥの音も出せずに部屋の入口脇にくの字でめり込む。
中の掃除は終わったので、異変を察知しアジトから逃げようとする盗賊に意識を向ける。
「シャドウ!」
外いる盗賊と、外に出ようとする盗賊に追尾する闇魔法を展開。
しばらくして赤い点は消滅し、シャドウに吸い込まれた盗賊が影から姿を現した。そのまま姿を晒した順に蹴り飛ばしてグラビティ魔法で壁に埋め込む。
攫われた女性を風魔法で持ち上げて一か所の部屋に集め、エクセレントパワーヒールを唱え生娘の状態まで治療した。そして、一人ずつ忌まわしい記憶の根を引っこ抜き、魔石に入れ直す作業を行う。
最後に、盗賊の首領らしき大男に捕まっていた女性の記憶を見る。
この人は……お姫様ですか……。
テンプレならこうなる前にかっこいい主人公が助けてくれるんだよねぇ。おいっ! チーレム勇者どこいった! っと、思いながらとりあえずヤバい記憶だけ抜いて上げた。直前のアレ以外は問題なさそうなので、そっと布でくるんで寝かせる。
さて、次は……盗賊共の記憶だな……。
手首の運動でプルプルさせて、壁に埋め込んだ盗賊へ視線を向けた。
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