第6話 心に余裕を持つ

 住居は文句なしの百点満点まで高めた。次の課題は……衣食……。特に服が問題。


 ここ数日、服が擦れて胸がひりひりして突起がもげそうになるほど痛くなる。あと下着も脱走してから一枚しかなく、すっかりよれよれで若干黄ばんでいて、衛生面に問題を感じた。


 男の時はどうでも良かったけど、女性はデリケートらしいから衛生面には気を付けたい。


 という訳で、ブラとパンツの肌着と下着類、動きやすい町娘風の服を錬成する事にした。裁縫なんて中学校までしか習っていないけど、まぁ、そこはイメージ作るしかない。


 ささっと、蜘蛛の糸製のシルクのような肌触りの肌着とスポーツブラとパンツが出来た。ゴムがないので、紐で止めるしかない。いつかゴムを見つけて改良したいが、今はこれで十分なのだ。


 クラフト、所謂錬成魔法は素晴らしくチートですね。さくさくとオフショルダーワンピースやらプリーツスカート、ロングスカート、ワイシャツ、しまいにはフリフリのゴージャスなドレスまで作った。


 ええ、染料が無いので全部純白です……染料が欲しいなぁ。


 皮製品も充実してコルセットやら、ブーツ、グローブも作成。壊れかけの靴から履き替えた。装いを新たに、今度は食環境の整備に意識を変える。


 とりあえず焼肉生活から脱却したい。


 偶然にも調合したら醤油が出来ちゃいました。みたいな事が起きて欲しいわけですよ。とりあえず、森の中にある植物やら果物を手あたり次第持って帰る事にした。


 夕方まで森の中に入り、魔獣をぶっ倒しながら採取に専念。


 キッチンに採取した素材をひろげ、鉄鍋の中に入れて魔力を注ぎながら調合を始める。これがこの世界で正解なのかは知らない。テンプレなら出来ると信じて、ぐつぐつと水魔法で水を足しながら煮た。


 結果、薬草は煮たらポーションが出来る。毒草は毒と麻痺のポーション。薬草と毒草を一緒に煮ると解毒ポーション。鮮度が高い方が品質が上がる。百合みたいな花を薬草と煮たら、もの凄い効き目のあるポーションになった。魔力も一気に回復した気がするので、おそらくこれはエリクサーだろう。


 ポーションばっかり出来たので、調合では調味料が出来ないと判断。


 次は、錬成と分解を試してなんとか調味料を生み出すために実験を続けた。


 舐めるとしょっぱい岩を分解すると塩と石。赤い小さな実を錬成するとオイル。これはエッセンシャルオイル? オリーブオイル? たぶんどっちかに近いかも? 油が出来たという事は揚げ物が出来る! ついに、新しいメニューに挑戦できる喜びに震えた。


 オイル系は、いくつかの実で出来る事が判明。香りの強いのはたぶん料理に合わない気がしたので使うのは見送る。


 結果、塩、油、胡椒、ピリ辛の粉数種類、ニンニクっぽい野菜、トマトっぽいけど凄い甘い野菜、うねうね動く人参と大根。手足があって動くジャガイモ。たぶんマンドラゴラ。


 実食も兼ねて検証し、時には麻痺、時に毒に当たり、リカバーとキュアで乗り切って、食べられる食材を見いだせた。


 甘味の材料になりそうな物もいくつかありそうなので、気を見て挑戦しようと思う。


 とりあえず、今日の夕飯は唐揚げ三昧。羽毛布団を作る時に獲った鶏肉をふんだんに使って揚げる! 一口サイズに切り分けて、コンビニで売っていそうな唐揚げも作りインベントリに保管。


 残しても作り置きの温度のまま出来立てが何時でも食べられる。


 インベントリ魔法に感謝である。まぁ、内部で時間経過しない事に気付いたのは最近なんですけどね。


 お腹いっぱいになるまで唐揚げを貪り、暖炉に火魔法で火をつけロングソファに寝そべり食休み。


 暖炉の火と毛皮に包まれながら、これまでの事を思い返す。まさか将来の見えない異世界生活から、こんなに快適になるなんて夢に思わなかった。あのまま黙って与えられた業務をこなしていたらどうなっていたんだろう……。


 転生の転生もべたにある話だし、もしかしたら次の転生で幸せになれたかもしれないね。そうやすやすと転生できるか知らないけど、輪廻の世界があると言われるくらいだし、徳を積めば……ない事もないか……。


 衣食住が満足いく形で整った今、この新しい人生をどう歩むべきか真剣に考えた。


 どうせなら良い事をしよう、人に感謝される事をするのも悪くないね……。


 この世界では何番目の力を持っているか分からないけど、テンプレで言う手の届く範囲で助けるっていうのをやってみようと思った。


 そんな事を考えていたら、何か力が湧き出るような感覚に気付く。


「なんか元気出た。明日もがんばろう!」


 暖炉の火を消し、仕立てたばかりの少し肌が透けるワンピース風の寝間着に着替えて、布団にくるまる。


「明日も楽しい日になりますように」


 誰もいない部屋に一人事のように呟き、眠りに就いた。

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