第5話 生活環境を整える

 丘の上からサーチ魔法の範囲を広げて周辺を調べる。


 森の中にはいくつか魔獣がいるけど、脅威になるほどではない。草原には、緑色の薬草系しか光っていないのだ。


 ここなら家を建てても安心かな。


 まだ陽が上まで昇っていないのを確認し、木材調達に大森林に戻った。ついでに、近い距離にいる魔獣も狩りとっていく。解体魔法はなかなか便利で、血生臭さがなくなるので助かる。


 家を建てる場所を決め、木材をストレージから取り出す。


 ここでさらに定番の魔法を使う。


 まずは、土台になる岩を土魔法で生成。そして、風魔法で丸太と板材を作っていく。塗料とか錆防止なんてないので、そこは諦める。


 二階建てに、リビング、ダイニング、キッチン、寝室と客室、倉庫に作業部屋をざっくり頭にイメージ。あー、屋根裏部屋に天窓も欲しいな……。家の間取りの妄想が捗る。


「クリエイトッ!」


 土と石、丸太に木材が次々と浮かんではくっつき、あれよあれよと家の様相を成していく。


 ……なんて便利な魔法なんだ……。


 粗方想像通りの家が目の前に現れた。が、ここで幾つか欠陥が見つかる。


 ドアが開かない……ガラスがないので吹き曝し……。何とも寒々しい家になってしまったのだ。そう簡単には上手くいきませんよねー。おでこに手を当てて失敗した表情を隠しておちゃらけた。


 翌日、早朝から金具になりそうな素材とガラスになりそうな素材を探しに出かける。絶対良い家を作ってやろうと職人魂が沸き起こったのだ。


 これまでは逃げる事に必死だったけど、定住するという意思が芽生えた以上、手は抜けないのである。


 サーチ魔法で鉱物を探索すると、これまでになかったオレンジ色の光が見えた。


 たぶんお目当ての物がそこにあると直感で感じ、即座に向かった。


 向かった先には、切り立った崖が聳え立ち、崖の表面にはキラキラと光る物が見える。


 これかなー? と思い、幾つか破壊して分解の魔法を唱える。


 すると、黒い塊と石くずが現れた。黒い塊はたぶん鉄鉱石だ。これで金具が錬成できそう。量があって困る物ではないので、出来る限り採って、持って帰ろうと頑張った。


 日が暮れるまで掘りつくした結果、鉄鉱石たくさん、銀塊もたくさん、よくわからない鉱石の塊がそこそこ、石灰岩と石英も採れた。大収穫といって差し支えないです。


 その夜は、魔獣のまずい焼肉と森で取れた果物を食べ、吹き抜けの風が大変心地良い家の中へ。テンプレならもう最高の住まいになっているはずなに! と、悔し涙を流して床に就いた。


 次の日は、ドアに付ける蝶番と、窓枠とレールを鉄鉱石で錬成。さらに透明なガラスも錬成出来たので、部分的に錬成を繰り返し、スカスカの家をカスタマイズしてく。錠前の鍵穴には魔石を埋め込み、自分以外の魔力では開かないように工夫してみた。


 ふふふ、キーレスエントリー魔力版の錠前なのだ。キーレスの扉は、玄関以外に作業部屋と寝室にも設置。防犯対策バッチリです!


 家の環境はおおむね満足いくまで調整できたので、続いて木工家具と食器類を作成。鉄製のパイプベッドにしようかと思ったけど、せっかくなので木製でベッドを作成。段々と錬成に慣れてきたのか、ベッドの頭の部分には花と蔦の装飾と棚まで付けてしまった。


 家具類にも掘り込み型の模様を付与。アンティークな様相にちょっと満足。


 キッチンも完備し、コンロは火魔法を付与した魔石で調理できるようにした。流し台も作ったけど、今のところ汚水は外に垂れ流し……石で作ったトイレもしかり。汚水処理は今後の改善点だ。今後畑とか作る時の肥溜め的なものに集約させようかな……。


 さて、ここまで揃ってきて無い物に気付く。ふわふわの布団とかカーテン、敷物類だ。布製品は屋敷と盗賊のアジトでパクったものしかないのだ。


 困った時の前世の記憶。テンプレを思い出しながら、布はどう作るのかを考える。


 ふわふわの布団に必要なのは羽毛、もしくは羊系の羊毛。布は蜘蛛の糸を何かしらの力を借りて作ってもらう……。


 羽毛なら鳥系を狩りつくして羽を毟ればいけそうだ。羊毛は羊系の魔獣を見かけたことがないので諦めよう。蜘蛛……は倒した死骸がインベントリに沢山ある。解体して糸が出ればそれを錬成すれば解決かな。


 家の環境整備で陽が落ちかけているので、今日の作業は終了。


 二階の寝室で初めてベッドで眠れる! 相変わらずご飯は焼肉だけだが、銀のカトラリーを作っておいたのでナイフとフォークで味わう。味は粗末だけど、少しだけ現代に近づいた瞬間なのである。


 最高の羽毛布団と敷布団を作るため、陽が昇る前に森へ移動する。鳥を見つけるために背の高そうな木に登り、周囲を見渡す。森に太陽の陽が射し、鳥達も目覚めたのかギャア、ギャア、ケーンと騒がしくなる。


 声はすれども姿は見えず……はよっ! 姿を見せろとじれったくなる。


 大きい音を出せばびっくりして飛び出すかもしれないと気付き、声が沢山聞こえる場所に土魔法を放つ。


「アースウォール!」


 魔法を放った場所に巨大な土の壁がズゴゴゴゴっと音を立てて聳え立った。その音を聞いてか、木の中に隠れていた鳥が一斉に空に飛びあがる。


 全部を仕留めるのは難しい。目に付く近くを飛ぶ鳥を、次々と風魔法で叩き落とす。落下地点まで加速し木々を伝いながら向かう。一匹一匹がとにかくデカい。ツルとか白鳥くらいかと思ったら、どの鳥も図体だけで二メートルあるのだ。


 お昼までに場所を変えながら狩りをして五十匹を回収。


 まとめて全部解体魔法で分解したら……家の前に羽の小山が出来てしまった。乱獲はほどほどにしないといけないと反省。


 蜘蛛の死骸も解体。これはテンプレ通りで、蜘蛛の糸、蜘蛛の目と大きめの魔石になった。変色した肝臓のような物もあったけど、これは毒系の何かだろう。とりあえず、糸以外は収納しておく。


 蜘蛛の糸から、枕を含む寝具一式と刺繍風カーテン、敷物などなど前世で見かけた品々を錬成。布団袋に羽毛を詰め込めるだけ詰め込んだら、ふわふわの高級布団が完成した。と、同時にベッドに必要なマットレスが無い事に気付き、鉄でコイルを大量生産し狼の皮でくるみ作る。


 マットレスの硬さが丁度よく仕上がり、羽毛布団と敷布団に挟まる様に横になったら夕飯を前に眠ってしまった。


 まさか、この世界で前世より快適なお布団を作ってしまうとは……最高!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る