第4話 新天地
街道を反れて東に真っすぐ進んで行く。ずっと森の中なので、正直どこから絶望なのか分からない。
サーチで探索すると、黄色の点がやたら増えだしたので、おそらくここは絶望なんだろう。と言っても、今のところ遭遇する魔獣達は気付かれる前に魔法の餌食になっているので、進行の妨げになっていない。
インビジブルで気配を消しながら進んでいるので、木の上にいる蛇やら蜘蛛、猿みたいな魔獣でも不意打ちされる事もないのだ。
エンカウントする度に倒してはストレージにぶち込んでいく。
味気ない焼肉を、サーチで採取した薬草で包んだ香草焼肉が夕ご飯だ……うん、葉っぱで包んだだけで美味しくなるはずもなく……。昨晩、宿で出してもらったパンと、ソーセージが入ったスープを思い出しながら腹を満たした。
このまま夜通し進む事も考えたが、ここは強い魔獣のいる場所だ。
たぶんライトとか焚火で魔獣が寄って来る可能性もある。日が落ちる前に、アースドリルで土をくり貫いて穴倉を作った。内部に魔獣除けに結界魔法を空の魔石に入れて展開する。家と盗賊のアジトで入手した布を敷いて布団を出せば寝床の完成である。
小さい魔石にライトの魔法を注入して灯りをともし、入り口をアースロックで岩を出して塞いだ。
これで、魔獣に寝込みを襲われる心配もないだろう。
魔法ってここまで便利に使えるなんて、このままこの森でずっと引きこもるのもありかもしれんね。布団にくるまりながら、あれこれ妄想しながら眠りについた。
ドシンッ、ドシンッ
寝ている上から大きな地響きがして、寝床が大きく上下に揺さぶれて起きた。何て目覚ましなんだと思いながら、目を擦りながら、塞いだ岩を砕いて地上に顔を出す。
地面すれすれから見えたのは、巨大な緑色の脚だ。そのまま視線を上に向けると一つ目の巨人と目が合った。これは、所謂サイクロプス? 流石にこいつはまずいと思い、穴倉からサッと抜け出し、右手からサンダーボルト、左手からブリザードの魔法をサイクロプス目掛けて放つ。
ギュァァァ!
巨人は吠え声を上げて、黒焦げになって地面に倒れ伏した。電撃で痺れた上に、氷で凍結させられたのでノーアクションで絶命したようだ。
流石に、こんな巨体に踏みつぶされたら助からない。あっさり倒せて良かったけど、油断は禁物ですね。
ちょっとスケールのでかい獲物だ。ストレージに入るのか不安なので、新しい魔法に挑戦してみる。
「解体!」
なんとーなーくで、こんな魔法で素材分解してくれないかなと唱えてみた。
一瞬、獲物が光ると目玉と、牙、爪、そして大きな魔石がゴロンと落ちる。ふむふむ、肉は素材にも食材にもならないと……たぶん、そういう意味だよね?
巨体を収納する必要が無くなったので、落ちている素材を回収し寝床も閉まって移動を始めた。
当ても無くただひたすら東へ進むと、綺麗に済んだ川に着く。東へ進むならばこの川は越えていく必要がある。緩やかで川底も深くないのでそのまま渡って問題ない。
そういえば、この世界に来てから水浴びもお風呂も入っていない。いつも浄化の魔法で綺麗になるから気にしてなかったけど……。
「ちょっとくらいゆっくりしても問題ないか」
汚れている服を取り出し洗濯。木にかけて乾かしている間、水浴びに興じた。誰も見る人はいないだろうから仮面も取って水に足を付けた。
「あー、やっぱり水に浸ると気持ちがいい……」
水面に映る自分の顔。咄嗟に、いつも触れるとボコボコしていた左半分に触れる。
「えっ、綺麗に治ってる?」
いつも膿んでいた箇所も痕が無い。
まじまじと、水面に映る自分の顔をもう一度眺める。
「綺麗な顔……身体も火傷の痕が見当たらない……」
不気味がられていた火傷の痕が完治している事を確認すると、何故か涙が零れてきた。
「やっと、やっと普通にみられる容姿に……あっ、あぅぅ……」
元の身体の持ち主の思いなのか、それとも自分の思いなのか。しばらく水に映る姿を見て泣き続けた。
長い年月にも渡って忌避感を持っていた悩みが解消され、気持ちが妙にすっきりしている。容姿が元通りになったとはいえ、家に戻るつもりは毛頭ない。魔石の製造マシンとして扱われたのだ、戻っても自由は無いだろう。
それから数日間、本当にこの森に終わりはあるのだろうかと不安に思いながら、ひたすら真っすぐ進み続けた。
さらに四日を森の中で過ごす。サイクロプス級の魔獣にはあれから遭遇せず、狼と蜘蛛ばかりだ。なんとなく森に入った時にエンカウントした魔獣が増えたなと感じる。
そんな事を思って木々を縫って歩いていると、目の前に小高い草原が広がった。
もしかして、もしかして踏破しちゃった? やっふーい!
丘の上まで一気に走り抜け、振り返ると絶望の大森林が眼下に映る。
「きたぁー!」
ついに新天地に辿り着いた! ここまで何日掛ったのか分からないけど、この達成感はなんとも形容し難いものがある。
丘の上をぐるりと見渡し草原の空気を肺一杯に吸い込む。
良い空気……。
ここなら新しい異世界生活が満喫できるかもしれない。直感がそう告げた。
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