揺れる。
「ほい、これあっちね」
隆に渡された荷物を俊は受け取る。
夏休みに入ってから、荷物の流通センターで隆とともにアルバイトを始めた。お中元の時期とも重なり、男手が重宝されるこの時期は学生にとって稼ぎ時でもある。
俊の実家では7月中旬ごろまでがその時期だったが、こちらに来ると一ヶ月ずれていることを知った。夏休みに重なっている好都合に去年も喜んだのを覚えている。
このセンターから様々なところへ荷物たちは運ばれる。様々な想いも共に。別の地区のセンターへ運ばれる荷物や、運び込まれる荷物。それらの整理にてんてこ舞いだ。
お中元の季節になると子どもの頃を思い出す。お歳暮の時期もそうだが。俊の父は公務員で、企業などからのそれは受け取りを拒否していた。両親が不在の際に受け取っても絶対に開けてはいけないと固く忠告されていた。包装紙から伺える美味しそうなお菓子の気配に開けたいと気持ちが揺らいだものだ。
荷物の重さはそれぞれ違う。飲み物の詰め合わせなどは見た目よりも重いときがあり、アルバイトを始めたばかりの頃は取り落しそうになり焦ったものだ。昼休憩ごろには流石に腕が疲れてくる。
「そういや、俊は実家帰るのか?」
隆が弁当のおかずを突きながら聞いた。
「帰るつもりだけど、バイトが終わってからだなぁ」
俊たちのアルバイトの契約は8月中旬まで。それが終われば一旦実家へ帰り、また別のアルバイトを探すつもりでいた。
猿渡がなにか考えているようなので、予定を決めかねている。
「まあ、俺はいつでも帰れるからなぁ」
と隆。
彼は実家までは電車で3時間ほどだ。無理をすれば実家暮らしも不可能ではないが往復6時間を費やすのは流石に馬鹿馬鹿しいと下宿生活を選んだ。
隆と真由美も俊たちと同じように高校生からの付き合いだ。下宿生活を選んだのは「下心」もあるだろうと俊は睨んでいる。
彼らはきっと、共に帰るのだろう。
自分はどうしようか、そんなことを俊は思った。沙耶と共に帰るのは至極日常的なことであり、それほど考えるほどのことでもない。しかし、なにか心の中で揺らぐものがあるのだ。
このセンターに運び込まれる荷物たちのように「当たり前」に「普通」に描かれた線を辿っていけばいいだけの話なのだが。
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